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猫可愛がりしていたら、喰われました。  作者: 不知火螢


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08

 全額前金のいいところは、その後は特殊な事情が発生しない限り、料金が発生しないところだと思う。

 冒険者ギルドは、ギルドから高額の依頼料が支払われることもある性質上、冒険者登録さえしていれば、貸金庫としての役割も兼ねている。なので、前の町は、大金を預けられるのは、ある意味でいいところだった。


 まぁ、やろうと思えば一瞬だけ実家帰ってこそっと母上にお金だけ預けてまた帰ってくることもできるのだけど。他の家族に見られる可能性があるので、あまりいい手段ではない。

 他にも転移魔法を応用した空間拡張の魔法で、亜空間に荷物をしまうこともできる人もいるというが、私はそこまで繊細な魔力操作が得意ではないため、使ったことはない。試したことはないが、しまったものが取り出せないとかいうオチになるのが目に見えているので、実際に使ったことはない。


 仮眠から目が覚めるとすっかり陽は落ちて部屋の中は暗くなっていた。慌てて部屋に明かりをともし、リートとリンデの様子をうかがうと、珍しくまだぐっすり眠ったままだった。やはり二人も慣れない行動で疲れていたのかもしれない。


 お腹はすいたけれど、眠っている二人を起こすのも忍びないので、とりあえず携帯食料で凌ぐことにしようかな、と思ってたら、ノック音が聞こえた。

 私を訪ねてくる人はいないし、他に宿泊客もいないと聞いているので、宿屋の夫婦のどちらかか。

 誰何に応えたのは宿屋の奥さんだったので、念のため警戒しつつもドアを開ける。


「夕食はどうされますか? 籠を運んで下でお召し上がりになられても構いません、こちらにお運びすることもできますが」

「あ、本当ですか? でしたら、こっちに運んでもらってもいいですか? 二人とも、ぐっすり眠っていて」


 食堂は地元の客で賑わっているのか、下からは賑やかな大小様々な音が聞こえる。うるさくて目が覚めるのも可哀そうだし、不特定多数の人のいる場所に連れて行く気にはなれない。

 お酒が入って、面倒な人に絡まれる可能性だって否めないのだ。


 私の返事に「わかりました。すぐにお運びしますね!」、と宿屋の奥さんはにっこりと笑って戻っていった。

 正直、すでに支払った宿代を考えると、ここまでのサービスを想像していなかったので、いい意味で驚いている。

 妊娠に気づく前は、もっと冒険者としてあちこちに足を運んでいた。なので、色々な町の宿屋を経験しているが、ここは平民向けの中でも特に質はいい感じがする。もう少し大きな町に出せば、富裕層の平民向けでもやっていけそうである。


 ただ、宿泊業などはその土地に根差した人たちが代々営んでいることも多いので、生まれ育った地を捨てて新天地で、というのは中々難しい決断だろう。


「あ、そういえば、移動するって母上に手紙出すの忘れてた」


 母上には、定期的にギルド経由で手紙を出している。名義はニーアにしているし、母上からもニーア宛てに何度か手紙は貰っているのだが、すでにギルド本部ではニーアがオルトマンの末娘ということはバレていそうな気がする。

 守秘義務があるため、私の正体を言いふらすことはないと思う。


 ただなー! うちの領民たち、忠誠心バカみたいに高いから「お嬢様居ましたよー!」と大きな声を上げて叫ぶ可能性を捨てきれないんだよなー!!


 如何に忠誠心が高くとも、守秘義務は守らないとギルドという組織の根底が揺るぎかねないので、そこは是非とも守っていただきたい。


 冒険者ギルドの成り立ちは、オルトマン家が、魔物討伐に人手が足りなすぎて、全国から傭兵を雇い始めたのが始まりだ。

 しかし、いくら人手が足りずとも、犯罪者や逃亡者などを、オルトマンの名で雇うわけにはいかない。そのため、身元を確認し、信用足り得ると判断したものを「冒険者」として登録し、その身分を保証するのだ。

 その関係上、今ではオルトマン家の手を離れて独立した組織となっているが、未だにオルトマン家と冒険者ギルドは密接な関わりを持っている。


 ギルドの上層部達が、忠誠心爆発させて「気を利かせて」報告なんてしようものなら……


「兄様と姉様あたりに垂れ込む人いそうだなぁ。あの二人なら、無理に領から離れてまで探しに来ることはないと思うけど」


 すぐ上の兄と姉は、領内の最大戦力と言って過言ではない。あの二人がいるといないとでは魔物討伐に影響が出るし、二人も領地を守ることに生きがいを感じているので、離れて妹を探しに来る、というのはおそらくないと思うが……


「まぁ、心配していても仕方ない。こまめに移動していれば、大丈夫でしょ!」


 まだ数年は慎重に移動しなければならないけれど、リートとリンデが大きくなったら、一度に移動できる範囲も広くなるはずだ。

 身を守る方法を学べば、二人もいずれは冒険者として登録できるはず。そうなれば、平民だからと貴族にも簡単に舐められることはないだろう。


 そんなことを考えていると、料理が運ばれてきた。

 ホカホカの焼き立てパンに、熱々の野菜たっぷりシチュー。サラダも付けられていて、どれも美味しそうだった。

 実家にいたころは、それぞれの料理にどれくらいの時間をかけて作られているのかなんて考えたこともなかった。しかし、旅を始めてから、料理を作ってくれる人がいるということは、どれだけありがたいのかを身をもって学んだ。


 この宿屋で少し英気を養ったら、次はどのあたりに行こうかな。王都に寄るつもりはないけれど、まだまだ国内にもいったことのない地域はたくさんある。

 生活資金はギルドで仕事を受けずとも、道中、魔物と出くわせばそれを倒せば小遣い稼ぎにもなるし。正式に仕事として受けるとまたいろいろと面倒なことになるので、それはできれば避けるようにしよう。


 ――なんてことを考えていたのだが。


「……えっと、じゃあ、その魔物、私が倒してきます、はい……」


 まさか、自分から魔物退治に首を突っ込むことになるとは、思いもしなかった。



 


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