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猫可愛がりしていたら、喰われました。  作者: 不知火螢


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 一人の気ままな冒険者生活と、赤子二人を抱えた冒険者生活は、当然ながら雲泥の差だった。

 出産までの一ヶ月で、邸内でも数少ない私の妊娠、出産を知っている使用人たちに色々と教わってはいたけれど、学ぶのと実践するのは当たり前だけど全く違う。

 自分が末っ子だし、きょうだいたちも未婚だからまだ甥も姪もいないし、いとこたちもみんな歳上なので、赤ちゃんはおろか、自分よりも年下の子との接点なんて、ミハエル殿くらいしかいなかったのだ。殿下だって二歳しか変わらないし。


 それでも、ぼんやりとは知っていた。赤ちゃんは寝るのがお仕事とか、感情表現は泣くことだけとか。


 ――本当のことだったー!!


 泣いてる。ほんと、すぐ泣く。お腹へって泣く。おむつ汚れて泣く。眠くて泣く。でも寝ない。

 なぜか、二人同時ではなく、時間差で。


「リートはなんで泣いてるのー? ほら、リンデはぐっすり寝てるでしょー?? リートも寝よー???」


 なんて場合もあれば。


「どうしてリンデは泣いてるのかなー? リートはぼんやりタイムだよー?? 暑いのかなー? 寒いのかなー? 眠いのかなー? ママ、わかんなーい!」


 なんてことはいつものことだ。


 もちろん、二人は別々の人間なんだから、嬉しいのも悲しいのも楽しいのも、別々に感じるだろうし、そもそも喜怒哀楽っていつからあるんだろうね。


 しかし、二人が同時に主張して泣くこともある。それは――


「はいはい、おっぱいの時間ね!」


 お腹へったときである。本当に同時。双子の奇跡でもあるのだろうか、と思うほど、お腹が減ったときは同時に泣く。

 あまりにも同時に泣くので、授乳は二人まとめてだ。なるほど、おっぱいはだから二つあるのね! じゃあ三つ子以上はどうするの!? とか、どうでもいいことを考えたくなるほど、いつも何かに追われている。

 なんでだろう。寝ている時間のほうが長いはずなのに。

 それでも、寝顔を見るとそんな忙しさはどうでも良くなるほど、幸せに満たされるから子供って不思議だ。

 

「ニーア、手紙届いてたわよ」

「あ、ありがとー!」

「ちょっと頼みたいこともあったから、そのついでにね」


 ちょうど二人が揃って眠ってくれた僅かな休憩時間中、ギルドの受付嬢がやってきた。

 ギルドは、様々な仕事を請け負い、様々な人が関わる組織だ。その「様々な仕事」の中には、結果的に誰かの恨みを買うこともある。だからその関係なのか、私もそうだから冒険者として登録するときはだいたいは偽名だ。そして、ギルドの職員はその偽名すら使わず、秘匿したままである。

 なので、彼女のことは、顔は知っていても、名前は知らないのだ。


「頼み、と言われましても。見ての通り、育児中なのでろくな仕事はできませんよ?」

「もちろん、もちろん。それはわかってる。なので、ギルドからは報酬とは別に育児の専門家を派遣するわ。もちろん、これは貴女に仕事を受けてもらいたいが故の下心だから、報酬には影響しないし、貴女からは何も徴収するつもりはないわ」


 受け取った手紙の差出人を確認し、開封しようとペーパーナイフに手を伸ばしかけて、

ピクリと身体が反応する。

 育児の専門家。育児の、専門家。それは今まさに、私が一番必要としている人材だ。

 実家にいればいくらでもつてはあるし雇うことはできるけど、いまの「冒険者ニーア」には、雇うのはどころか伝手を頼りに接点を作るのも難しい。


「それは……つまり、そこまでして私を駆り出したい何かがある、と」

「えぇ、そういうことね。というか、正確には、貴女にしかお願いできないのよ。なにせニーアはこんな田舎にいるのは奇跡にも等しい人材だもの!」


 私の能力はまぁ、確かに突出しているだろう。特に戦闘面で。こちとら脳筋一族、オルトマンの末娘だ。そのへんの冒険者には引けを取らない、どころか、国内でも上位に入る戦闘力を自負している。

 むしろ、それくらいの戦闘力がないと、オルトマン辺境伯で生きていくのは難しいのだ。そんな過酷な環境だからこそ、地元の人間だけでは手が足りずに傭兵を雇うようになったのが、冒険者ギルドの始まりだ。


「ふーん……それなら、その仕事受けようかな。その専門家が来てくれるの? 私が二人を何処かに預けるの?」

「ありがとう! もちろん、こちらから派遣するわ。というか、既に来てもらってるの!」


 入って、というギルドの受付嬢の声の後、すぐにドアが開かれ、二人の妙齢の女性が入ってきた。育児の専門家、というには少し若い気もするが、自分も18で妊娠していることを考えれば、彼女たちも既に自分たちの子供が一通り成長し終えているのかもしれない。

 一人ではなく二人派遣してくれるあたり、本気で私に仕事をしてもらいたいのだろう。双子の面倒を見るにあたり、一人だとなにかあった場合、手が足りない。それによって起きたことに対して私がギルドに対して怒りの矛先を向ける、という可能性をとにかく事前に潰しておきたいのかもしれない。


「え、っていうか、もしかしていますぐ?」

「はい! こちらの素材を集めてほしいのです!!」


 そういって、受付嬢は満面の笑みで一枚のリストを渡してきた。

 なんだか嫌な予感を感じながらも、リストを受け取ると、確かに採取が大変な植物や、討伐難易度がそこそこ高い魔物の素材などが羅列されていた。


 まぁ、私から見たらそこまで大変ではないのだけど! 伊達にオルトマン一族ではないので!!


「……わかりました、受任します」

「ありがとうございます! 本当に、本当に助かります!!」


 大げさに頭を下げた受付嬢が顔を上げたときには、もうこれまで以上ににっこにこだった。

 そんなニコニコ笑顔の受付嬢を横目に、念には念を入れて、子どもたちに守護の魔法を重ねに重ねて守りを固める。

 その様子を見ていた受付嬢が、笑みを維持したまま口元を少し引きつらせたような顔で「あのー、もう少し、ギルドを信頼していただければ……」なんて言っていたけれど、それとこれは別の話である。

ギルドは信頼していても、予測不可能な事態というものはあるものだ。


「じゃあ、ちょっと取ってきます。夕方には戻るので、それまでよろしくお願いします」

「はーい、よろしくされましたー!」


 そして、宣言通りにリストのものを全て集めてギルドに提出すると、「はっや!?」と目を大きく見開いて受付嬢は叫んだ。


 ギルドが育児を助けてもらえるのは助かるけれど、それはそれとして、この子たちと離れる時間はあまり作りたくない。


 うーん、この町に定住するつもりはないし、いずれ移動するときにスムーズにできるよう、二人を連れたまま簡単な仕事は受けれるようになっておいたほうがいいかなー。

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