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猫可愛がりしていたら、喰われました。  作者: 不知火螢


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26

 転移先は薄暗い部屋だった。足元には転移の魔法陣が描かれており、先ほどのサファイアの魔法陣の対になっている、という奴だろう。

 こちらです、と男が先導して歩き始めたので、私たちもその後をついていく。


「ここ、私の実験場なんですよー。興味の出たもの、気になったことは何でも自分で試してみたくなる質でして。多分そのうち一族の役に立つものを開発するかもしれない、という一心で、祖父が領内のはずれに建ててくれたんですよー。まぁ、一度も成果報告したことないんですけどね!」


 あはは、と笑いながら、男がこの建物について説明する。

 一角兎の繁殖はともかく、転移陣の固定化に関しては十分すぎる成果だとは思うのだが、汎用化できないので報告していないのか、あるいは一族の役に立とうという気持ちがそもそもないのか。この男の性格は不明なので、単なる推測でしかないが、なんとなく、後者な気がした。


 一角兎の繁殖をしていたのはいつごろから、どれくらいの期間なのかは分からないが、想像していた以上に綺麗で整えられている。


「あ、この部屋のドア開けてもらっていいですか? ここが薬品室なんですよ」

「……開けるわよ」


 そうして男が案内したのは、転移陣から少し離れた部屋の前だった。姉様がドアノブを回すと、かちゃり、と小さな音ともにドアが開く。

 薬品室、という名の通り、部屋の中には壁一面に棚が置かれており、そこかしこに様々な色の液体が置かれている。

 

「あ、一角兎たちに使ったのは、その右の棚、上から二段目にある黄色い薬です」

「……これね。これ、何の薬なわけ? 効果は? どういう意図で投与したわけ?」


 教えられた薬の入った瓶を手に取った姉様は、光に透かしてみたり、瓶を軽く振ったりしている。

 

「よくある精力増強剤ですよ。目的は繁殖だったので。ちょっと私なりに成分いじってますけど。脱走した一匹が、そこで群れを作っちゃった感じですかねー」

「一角兎は、通常はノウサギとよく似た繁殖ペースよ。むしろノウサギよりも遅いくらい。……脱走したのは、いつ頃?」

「んー……ラヴィニア嬢と出会って、三ヶ月後くらいですかね!」


 出会ってない、出会ってない。私の方は会ってない。


 そう声に出して否定したかったけれど、さすがにそんな空気ではないことくらいわかっている。

 姉様が何を追加したのかとか、どう精製したのかとか、そういったことを細やかに聞き、それをイルヴィッツ伯爵の孫が一つずつ答えている。

 はっきり言って、何を言っているのか、さっぱりわからない。つつ、と移動して兄上の隣に並ぶ。


「兄上……二人が何を言っているのか分かりますか?」

「いや、全く」

「姉様って、魔物関連以外のことにも詳しかったんですね」


 魔物関連についての知識が豊富だということについては、もはや領内にとどまることなく、国内でも有名だ。ただ、今、二人がしている話は魔物というよりも、薬品、更にもっと言えばその原材料の話である。原材料には薬草や魔物の素材など多岐にわたるので、専門家ではないと有名ではない素材の名前と効果なんて普通は知らないのだけど……


「姉様って、そんなところにまで詳しかったんです? え、姉妹なのに、頭の作り、違いすぎなのでは??」

「兄も似たようなことを思っているから、心配するな」

「なら良かった」


 ……良かった、のかなぁ?

 とりあえず、兄上も何いってんだコイツラ、という目を向けているので、私だけではないことを安心しよう。

 安心していいのかわからないけど。


「なるほど。確証はまだ持てないけど、タイムリミット本当にギリギリだったかもしれないわね」

「今の話で何がわかったんですか?」

「簡単に言うと、この男、新種の一角兎を作り出したようなものよ」

「なるほど?」


 うん、わからん。


 姉様の話を聞く限り、本来、一角兎の生殖に関しては、魔物ではない普通の兎であるノウサギと似ているらしい。一度の出産は2〜4匹で、妊娠期間はおよそ1ヶ月半。生殖が可能になるのは、オスで半年近く、メスに至っては1年近くかかる。

 生まれた直後から既にそこそこ大きく、毛も生えていて即戦力にはなるらしい。しかし、この場合、ここまで異常な群れに発展することは考えられないそうだ。

 ただ、一角兎ではなく、アナウサギだったら、放置していたらこの規模で爆発的に繁殖する可能性はあるので、投与された薬で突然変異を起こした個体の子どもたちも変異種となり、アナウサギに似た性質を得たのではないか、というのが姉様の推測らしい。


 やっぱり何を言っているのかよくわからなかった。


「あくまでもただの推測なので、全然違う可能性もあるけれど。でも、もし仮に、天敵が存在せず、食料も豊富な環境にアナウサギを数匹放つと、数ヶ月で数千匹には余裕で増える計算になるもの。だから、今回の一角兎も突然変異としてアナウサギに似た繁殖能力を得た、と考えるのが自然ね」


 この薬でそれだけの変異を起こせるのかどうかは不明だけど、突然変異ってそういうものだし、と締めた姉様の言葉に「へー」という言葉しかでてこない。

 兄上も同じような顔をしているのだが、薬を作った張本人まで、似たような顔をしているのは何故なのか。


「そんな変化が起きてたんですねー。言われてみれば、確かに一匹、普通の一角兎とは思えないくらいに身体が肥大していたのがいましたね。そいつが逃げたんですかね!」

「私が知るわけないでしょう」

「えーと……イルヴィッツ、卿……?」

「ファルクとお呼びください、ラヴィニア嬢!」


 そういや名前知らないし、今は兄上に拘束されていて犯罪者みたいな扱いをされているけれど、現時点ではまだ明確な罪は犯しておらず、甚大な被害が起きているわけでもない。なので、なんて呼べばいいのかな、と思ったら、なんか凄くいい笑顔で名前を教えられた。


 ……ファルク卿、で正しいのかな? この場合。

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