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猫可愛がりしていたら、喰われました。  作者: 不知火螢


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閑話 一方その頃①

閑話:無駄話、静かにする話、雑談の意

ミハエル視点です。読み飛ばしても頂いても本編に影響はありません。

 ――成人となるのだから、王都に戻ってこい。 


 そう、父である国王に言われたのは、僕が成人となる十六の誕生日の目前のことだった。

 本音を言えば、このままオルトマン辺境伯領で生きていきたかった。もちろん、王都と比べれば環境としては過酷だ。王族だろうと貴族だろうと平民だろうと、戦う力があるなら魔物刈りに駆り出される。そうしなければ、大切なひとを守ることができないからだ。

 その一方、上下はあるが垣根はない。辺境伯夫妻は僕を王族だからと特別扱いしないが、その分除け者にもしない。一人の人間として、ここにいることを認めてくれている。


 僕がこの地に送られた理由は、もちろん知っている。父上が急激に体調を崩されたとき、前王妃である母上は既に亡くなっていて、王宮内は、第一王子と第二王子の母である現在の王妃が掌握しつつあったからだ。


 この国は完全に王による指名制で、生まれた順、誰から生まれたかなどは関係ない。それでも、元々側室だった現王妃から生まれた第一王子、第二王子よりも、前王妃唯一の子供である僕こそ王位にふさわしい、と言い張る一派も少なからずいるのだ。

 正直、僕は王位に興味がない。

 興味はないが、だからといって、このまま味方のいない王宮で五体満足で過ごせるわけがないと、子供ながらに理解していた。

 だからこそ、母上の故郷であるこのオルトマン辺境伯に、父上は送ったのだ。

 僕を、守るために。


 邪魔だから、迷惑だから。そういった理由で追いやられたわけではないのは知っている。辺境伯経由で父上から個人的な手紙も届けられていた。

 決して、疎まれているわけではないというのは理解してるが、それでも「十年も放置しておいて、今更?」と、どうしても頭の片隅で考えてしまうのだ。


 それに何より、オルトマン辺境伯(ここ)にはラヴィ――ラヴィニア・フォン・オルトマンがいる。辺境伯の末娘で、僕の婚約者。最愛のひと。

 元々は、僕が政治利用されないための防波堤としての婚約だったのは知っている。父は国王として公平性を保たないといけなかったし、母は既になく。そんな僕の婚約者に自身の娘を据えて発言力を強化しようとする輩を排除するためには、味方陣営の娘を婚約者にするのが手っ取り早い、それだけの理由なのは、もちろん知っている。

 それでも、孤独な王宮生活を送っていた僕に、裏表のない愛を惜しみなく与えてくれる彼女に、溺れないわけはなかった。


 それでも、国王直々に戻ってこいと言われたからには、戻らないわけには行かない。父としては、王都で味方を作れ、といいたいのだろう。


 そうして、王都に戻って初めて参加する夜会。ラヴィを婚約者として伴い、王都で人脈を広げているオルトマン辺境伯継嗣のヴィルヘルムから、第一王子、第二王子の陣営ではない人々を紹介されて。

 慣れないけれどダンスをラヴィと踊って、二人してぎこちなくて、それがおかしくて笑って。

 夜会も中盤に差し掛かった頃、少し疲れてきたので、二人してホールを抜け出した。

 そのあと、二人で僕の自室で追加でワインを開けて――やっと、ラヴィが僕を受け入れてくれたと思ったのに!


「ラヴィ……!!」


 目が覚めると、隣で眠っていたはずの最愛の婚約者はいなかった。


 ラヴィが眠っていた場所のシーツはすっかり冷たくなっていて、いなくなって随分時間が経っていることを示している。

 もしかして嫌われたのだろうか、と思ったが、ラヴィはどれだけ酔っていても、嫌なことは嫌だとはっきりと拒絶する。

 僕はラヴィに拒絶されたことがないので、もしかしたら嫌だと言えなかったのかなとも考えたが、ラヴィの性格や酔ったときの言動を思い出しても、本当に嫌ならば僕であっても拒絶されていたはずである。


 だから、やっと受け入れてくれたと、そう思ったのに……


「……絶対に、婚約解消なんてしてやらない」


 ラヴィは、僕が彼女と婚約を解消して、僕の中央における後ろ盾となる家の令嬢と婚約し直すものと思っている。

 確かに元々の婚約の経緯はそうであったけれど、僕はラヴィが好きだ。ラヴィ以外と結婚するつもりはないし、王子の地位がそれを邪魔するなら、いくらでも捨てるつもりだ。

 平民ではオルトマン辺境伯令嬢と身分は釣り合わないけれど、辺境伯領は身分よりも実力重視。僕にも機会は十二分にある。なんたって、ラヴィは僕のことが大好きだ。たとえ、それが弟としてだとしても。


「そうと決まれば、まずは外堀を埋めないと」


 決意を新たに、僕はベッドサイドの紐を引き、従者を呼び寄せた。


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