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猫可愛がりしていたら、喰われました。  作者: 不知火螢


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閑話 一方その頃④

ミハエル視点です。読み飛ばしても頂いても本編に影響はありません。

「大変申し訳ありません。本日、若旦那様は急用にて、不在にしております。若旦那様からは、いつものように過ごしてもらって構わないとの言伝を預かっております。いかがなされますか?」

「ヴィルが? オルトマン辺境伯領で何かあったのか?」


 いつも通り、オルトマンのタウンハウスへと足を運べば、なぜかヴィルの元ではなく、応接室へと通された。珍しいこともあるものだ、と待っていると、このタウンハウスを管理する家令にヴィル不在が告げられた。

 僕の側近として動くようになってから、ヴィルが王都を離れるようなことはなかった。しかし、領地に何か不測の事態が起きたのであれば、継嗣である彼が直接領地に確認しに行くこともあるだろう。

 思ったのだが、どうやらそうでもないらしい。いえ、と一度軽く否定してから、家令は言葉を選ぶように少しだけ、視線を下げる。


「領地に何か問題が起きた、という話は伺っておりません。ただ、マリーナお嬢様が突然いらっしゃり、そのまま若旦那様と共にまたすぐに移動なされました」

「マリーナが?」


 オルトマン家の第三子。ラヴィとヴィルの間に生まれた双子の兄妹。二人は、領内のみならず、王都どころか国内でも非常に有名な双子である。

 次男のマルクスは、精鋭ぞろいのオルトマン辺境伯領の中でも更に飛びぬけたその強さが。長女のマリーナは、純粋な戦力としてみればマルクスに劣るが、何より、マリーナは魔物研究者として有名だ。


 そんな有名な双子は、滅多なことでは辺境伯領から出てこない、としても知られている。

 そんな双子の片割れ、マリーナが領地から出てきて、わざわざヴィルをどこかに連れて行く、となると、よほどのことが起きたのではないかと思うのだが、何か起きたという話ではないらしい。

 オルトマン家に何かあったのならば確実にこのタウンハウスにも連絡が入るので、家令である彼が知らないということはあり得ない。

 

 部外者である僕に話すことができない、という可能性はもちろんあるが、オルトマンに何かあった場合、一番影響を受けるのは僕である。なので、詳細は言えなくとも、何かしらが起きたということくらいは教えてくれる……と思う。


 となると、じゃあ、何が起きたんだ? となるけれど、マリーナのことだから、まぁ、魔物関連のことだろうな、という推測はできる。それがどこかは分からないけれど、きっとオルトマンとは直接関わりがない、貴族の領地だから、ヴィルを連れて行った、とか、たぶん、そんなところだろう。


 ひとまず、いつも通りに過ごしてもらって構わない、という伝言を貰ったので、お言葉に甘えて好きに過ごさせてもらおう。


 我が物顔でヴィルの執務室に入り、書棚から昨日の報告書を抜き出す。

 今では僕の定位置と化しているソファに腰を下ろして、改めて書類に目を通して、昨日、何か見落としはなかったと確認をする。

 

 ラヴィがいたのは、イルヴィッツ伯爵の領地の端の方にある町で、かろうじて冒険者ギルドによって町の人たちの生活が守られているような場所だった。伯爵による統治はほとんどされていないと言っていい。しかしその頼みの綱の冒険者ギルドにすら、依頼は集まっても、その依頼を受ける冒険者がほとんど来ないというありさまだった。

 そこに、流星のごとく現れた凄腕冒険者の名前が、ニーア。まぁ、ラヴィの偽名と考えていいだろう。隠す気があるのかないのか、結構そのままな偽名で、ラヴィらしい。


 あぁ、やはり、ラヴィのことが大好きだ。彼女のことを考えるだけで、自然と口元が綻ぶこの感情が、愛でなければなんだというのか。


 生後三ヶ月の赤子を連れての移動はきっと、僕が想像するよりもずっと大変なはずだ。だから、すでに町を出たというラヴィがいるのは、おそらくその隣町だ。転移魔法で移動している可能性もあるが、子供連れで移動先の安全も確証できないのに、ラヴィがそんな危険を冒すとは思えない。


 ここには冒険者ギルドはないため規模はそれほど大きくはないが、そのぶん、農業が盛んな町だ。

 イルヴィッツ伯爵領周辺で大規模な魔物討伐の話などは聞いていないから、ギルドのない町でなら、ラヴィもゆっくりと過ごせるはず。


「……今すぐ会いに行きたいけど、イルヴィッツ伯爵領なんて行ったことないからなぁ」


 一瞬で遠方まで移動できる転移魔法は便利だが、その転移先に行ったことがあるのが条件だ。もし、ラヴィのいる場所が、一度でも僕が行ったことのある場所ならばすぐにでも行くのに、残念ながら、僕が行ったことのある場所は、王都とオルトマン辺境伯領に限られる。


 やはり、ラヴィに堂々と会うためには、中央貴族の後ろ盾なんて必要ないくらいに地盤を固めた後になりそうだ。

 ラヴィからの可愛いねで一日が始まり、可愛かったよ、で一日が終わっていたあの頃がとても懐かしい。まだ一年しか経っていないとか信じられない。


「来てたのか、ミハエル」


 未練たらしく、ラヴィの情報しか載っていない調査報告書を眺めていたら、ヴィルが帰ってきた。


「あ、お帰り、ヴィル。マリーナに連れてかれたって聞いたけど、どこ行ってたの?」

「イルヴィッツ伯爵領だ。……ラヴィニアに会ったぞ」

「ずるい!!」


 僕だって会いたいのに!!

 僕の心からの叫びを受けたヴィルは、耳を塞いで顔をしかめた。


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