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猫可愛がりしていたら、喰われました。  作者: 不知火螢


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 教えられた一角兎の出没場所へと向かうと、主に葉物野菜を作っている畑の近くで、確かに何かしらの小型生物の痕跡が簡単に見つかった。それも、想定していたよりも遥かに多く。

 一角兎は通常の兎と同じで草食で、見た目も角を除けばほとんどただの兎だ。しかし、兎に似ているが兎よりもよっぽど頑丈なので、一匹だけならば愛玩用としても密かに人気だったりもする。


 ただし野生の野良個体は縄張り意識が恐ろしいほどに強く、非常に好戦的だ。基本的には群れで生活しているのに、その群れの中でもすぐに序列争いが起こるほどだ。

 更に、群れから独立して新たな群れを形成した場合、元居た群れとの争いもまた激しい。


 愛玩用として人気なのも、あくまでも単体ならば、縄張りを荒らされる心配がないため、のびのびと過ごせるためなのだ。


「うーん……思っていたよりも深刻な状況かもしれない」


 軽く話を聞いた限りでは、小型の、それも一角兎の数がとにかく多い、とのことだった。なので、せいぜい、そこそこの規模の群れが二つ、三つほどかなと思ったのだが……そこそこどころの規模ではなさそうだ。


 畑が荒らされているだけならば、まだそこまで脅威ではない。正直、畑は人間だって荒らす。

 問題は、近くの畝が踏み荒らされていることや、周辺の木に傷ができていること。そして、おそらくは一角兎の毛と思われるものが、血交じりで散見されること。


 これは、単に畑に食糧目的で来ているだけではなく、更にこの場で何かしらの争いが起きていると簡単に想像できる。

 ごく一部の土は異常に固く踏み鳴らされているので、この場で威嚇であるスタンピングを集団でしていた可能性も高い。


 ちょっと、貴族の務めや罪悪感で対処するというレベルではなさそうだ。


「……うーわ、炎狐の死骸だ」


 更にあたりを軽く調査すると、炎を操る狐型の魔物の死骸を見つけた。

 本来、炎狐は一角兎の天敵だ。狐が兎を襲うように、炎狐は一角兎を食する。この炎狐もまた、獲物である一角兎に釣られてやってきたのだろう。しかし、この炎狐の身体はあちこちに穴が空いているところから、逆に一角兎に囲まれて返り討ちに遭ったようだ。


 これはもはや、魔物退治ではなく、本格的な魔物討伐になりそうだ。


 一角兎は早朝や夜に活発に行動するので、日中の今は巣穴で休んでいるころだ。なので、一網打尽にするには今のうちに手を打った方がいいのだが……いかんせん、場所が分からない。


 とりあえず、元々は調査のつもりで来たので、本格的な行動に移るのは後にしよう。最悪の事態を想定するなら、討伐時間には絶対に家の外に出ないで、と早めに町の人達に警告を出す必要がある。


 それに、いまは背中とお腹に可愛い我が子を連れている。群れ一つくらいなら、と思っていたが、さすがにこの規模は何があるか分からないので、子連れでは無理だ。

 というか、私が嫌だ。


 宿に戻り、旦那さんと奥さんに状況を説明すると、顔色を青くさせ、驚きと恐怖がごちゃ混ぜになったような表情を見せた。


「はっきり言って、一般人には荷が重い状況です。本来ならば正規の騎士団あたりが討伐に来るレベルです。幸い、災害レベルには達していないようですが」

「さ、災害!?」

「はい。個体そのものはさほど強くはなく、本来は自滅作用が働いてそのレベルに達することはないのであまり知られてはいませんが。ですが、まれに異常繁殖などが原因で爆発的に増殖した場合、災害に達するのです」


 年に数回繁殖期のある一角兎が爆発的に増え、群れが万単位になると、一匹ならば可愛い威嚇行動も地鳴りとなるのだ。

 私も知識としてでしか知らないが、その知識が今世に伝わっているということは、過去にそういった事例が起こったことがある、という証明にもなる。


「普通はそのレベルになる前に、その土地の領主が討伐するなりなんなりするんですけどね……」


 残念ながら、話を聞く限り、この町ではそれは期待できそうにない。


「乗り掛かった舟ですので、最後まで私が責任をもって何とかします。ただ、さすがに子供連れでどうにかできる状況ではなさそうなので、大変申し訳ないのですが、子供を預かっていただけそうな、信頼できる方を紹介していただけないでしょうか?」


 無理ならば、最悪、隣町のギルド支部で今までお世話になっていた人たちに声をかけるしかあるまい。

 

「でしたら、私に預からせてください! 本来ならば無関係のお客様を巻き込んでしまったのですから。それくらいのことはさせて下さい」

「では、お言葉に甘えます。おなかをすかせる前には戻ってくる予定ですので、よろしくお願いします」


 宿屋の奥さんの提案にありがたく乗ることにする。

 正直、奥さんの人柄はまだよく見えていないが、昔使っていたであろう籠をいまだに大切にとっていたり、わざわざ夜に食事を部屋まで運んできてくれたりといったことを考えると、信頼してもよさそうだ。

 もちろん、保護魔法は掛けておくけれど。


「リート、リンデ。ママ、ちょっとお仕事してくるね。すぐに戻るから、いい子で待っててね」


 あ、でもその前にしっかりおっぱいあげておかないと。朝の散歩前に飲ませて、その後にも一回飲ませたけど、そろそろまたお腹がすくころだ。

 きょとん、と私を見上げるリンデの顔に、行きたくないなぁ、なんて思ってしまう。一人の貴族ではあるが、この子達の母親なんだもの。それくらい思うのは自由だろう。

 しかし、一度引き受けてしまったことを投げ出すことはできない。

 例え、いまは平民同然の生活をしていようとも、私を作り上げたのは、オルトマン辺境伯家の末娘としての矜持なのだから。


 ……おかしいなぁ。この町では、もっと気楽に過ごすはずだったんだけどなぁ!?


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