6.五年前の真実
それから数日後、ゼリックは早速王宮へ行くことになった。
「わたしもお兄様と一緒にお城に行く!」
「ごめんね、リビー。いい子でお留守番しておいてね」
……わかっちゃいたけど、わたしは一緒に連れて行ってもらえなかった。当然だ。五歳の女の子なんてなにをやらかすかわからないし、お城って用もないのにホイホイ行けるような場所じゃない。わたしが王太子と顔見知りになる道のりはまだまだ遠く険しかった。
とはいえ、まったく先へ進んでないわけではない。ゼリックを通じて王太子の情報を聞き出せるからだ。
それに、ゼリックと離れることでわたしの行動の自由が広がるというメリットもある。
過保護なゼリックは、自分なしではわたしを家の外に出したがらないし、わたしにふさわしくない書物は全部取り上げてしまう。そんなわけでこの五年間、祖国サウジェリアンナ王国の情報をちっとも集められていなかった。だけど、文字もある程度読めるようになった今のわたしならきっとできる。
ゼリックを乗せた馬車が屋敷を出ると同時に、わたしは侍女と連れ立って街の図書館へと出かけた。
図書館に着くと、五年前の新聞記事と辞書を用意してもらい、早速読みはじめる。
「お嬢様、どうして五年前の新聞をお読みになりたいのですか?」
おもり役の侍女は二年前に雇用された十七歳の女の子で、わたしが養女だっていうことを知らない。とはいえ、なにを調べようとしているかパパたちにバレたらまずいだろう。
「えっとね、わたしが生まれた年のことを知っておきたいなぁと思って」
「まあ……! 素晴らしいです」
あらかじめ用意しておいた言い訳を伝えると、侍女はいたく感動してくれた。まあ、普通の五歳の女の子は新聞なんて読まないし『生まれ年のこと』って伝えたら違和感なく受け入れてもらえると思ってはいたけど。
言い訳が立ったところで、わたしは新聞をあさりはじめた。
(国の襲撃なんて重大事件だから、絶対に一面に載っているはず)
正確な日付は覚えていないけれど、ゼリックがわたしに見せてくれたお花なんかを思い出すに、春先の出来事だった気がする。
捜索すること数分、わたしは目的の記事にたどり着いた。
「『サウジェリアンナ王国征服に成功、王家の人間は全員死亡したことを確認……』」
ショッキングな見出しにわたしは思わず目を見開く。
(お父様、お母様……)
やっぱり二人はあの時に亡くなっていたんだ。そして、わたしが予想していたとおり、襲撃者はこの国だった。
(ひどい)
どうしてそんなひどいことをしたんだろう? あの二人は、はじめてわたしに愛情をくれた人たちだったのに。他にも、罪のない人がたくさん亡くなっている。知らず知らずのうちに目頭が熱くなってきた。
「そちらの内容は、お嬢様にはまだ難しいかもしれません」
侍女がそう言って困ったように微笑む。単純に、一所懸命辞書を駆使して読んでいるわたしを気の毒に思ったのだろう。
「ねえ、どうしてサウジェリアンナ王国は征服されてしまったの?」
「え? そうですね……私は『国王が国民にとんでもない負担を強いていた』って習いました」
「負担って?」
「たとえば、税金っていうお金をたくさん課したり、兵役っていう訓練を義務づけたりとか……まあつまり、とっても大変な目にあっていたっていうことです。その癖、あの国は王族だけがいい暮らしをしていて、国民はすごく貧乏でしたからね。襲われて仕方がなかったんだと思います」
(え?)
仕方がなかった? 人がたくさん死んだのに? ――わたしのお父様とお母様が死んでしまったのに?
(――違う)
確かに、わたしが知らなかっただけで、お父様とお母様は悪いことをしていたのかもしれない。そのへんはきっと、調べたら情報がたくさん出てくるはずだ。
だけど、本当に殺す必要があったんだろうか? 話し合いで解決できなかったんだろうか? 他にいい方法があったんじゃないだろうか?
――やっぱり、いいはずがない。仕方がなかったなんて思われたくない。
わたしが復讐を成し遂げないと――。
(って、ちょっと待って)
わたしは急いで新聞記事をもう一度読む。
「『王家の人間は全員死亡』?」
おかしい。だってわたしは――あの国の姫君だったわたしは生きてここにいるんだもの。しかも、わざわざ『死亡を確認した』って書き方をしてある。どうして――?
「ああ、幼いお姫様はお気の毒ですよね。なんにも悪くないし、まだ赤ん坊だったっていうのに」
侍女がそう言って眉を下げる。わたしは「そうね」と返事をした。
(いったい誰が、なんのために情報を書き換えたのかしら?)
赤ん坊まで殺したなんて、自国の人間にすらいい印象を与えない。侍女の反応がいい例だろう。記者には正直に『所在・生死ともに不明』と書かせればよかったはずだ。それなのに、わざわざ亡くなったと発表をさせた。誰が、どんな目的でそんなことをしたんだろう?
(復讐相手ははっきりしたけど、わからないことが増えてしまったわ)
わたしはため息をつきつつ、新聞記事をもう一度読む。だけど、何度目を通したところで、ここにこたえはのっていなさそうだ。
(やっぱり、このままじゃダメだわ)
そう強く思った。




