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復讐の悪女になるはずが、天使系義兄からピュアな執着と溺愛で邪魔されてます!  作者: 鈴宮(すずみや)
【3章】波乱の学園生活〜ピュアな執着は続くよどこまでも〜
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26.合同演習の朝に

 それから約三週間後、三年生との合同演習の日がやってきた。

 王家が保有する山林まで学年ごとに巨大な馬車で移動したあと、ペア割が発表される。わたしの相手はアインハードだ。



(アインハードったら、本当に根回ししてたのね)



 もしかしたらわたしを喜ばせるためのリップサービスかなって思っていたんだけど、全然そんなことなかった。素直に喜ぼうとしたものの、隣でガックリ項垂れている女性が一人。友人のシャルロッテだ。



「いいなあ、リビー。いいなあ……!」



 ものすごく恨めしそ――いや、羨ましそうな表情で見つめられ、わたしは「ごめんね」と言うことしかできない。



「見てよ、リビー! 今日の殿下のお姿を! 演習用のローブがとても似合っていらっしゃるし最高に爽やかで麗しいじゃない! ずっと見つめていたいじゃない! わたくしがペアになりたかったのに!」



 シャルロッテはそう言ってその場に泣き伏す。もはや周りに見られているのもお構いなしだ。



「まったく、シャルロッテは感情の起伏が激しいんだから」



 喜怒哀楽がはっきりしていて、考えていることがすぐに顔に出る。だけどわたしは、そんなシャルロッテがとても好きだ。なにせ前世から換算してはじめての友達だし。なによりすごく可愛いじゃない?



「リビー、抜け駆けしないでね」


「……それは約束できないかなぁ」



 だって、復讐がかかっているんだもの。ここで決めずにいつ決めるっていう話じゃない?



「わたくしにもチャンスぐらいは与えてくれたっていいじゃない?」


「いやいや、わたしがこれまでどれだけのチャンスをお兄様に潰されたと思ってるの?」


「それは心から同情しますわ」



 すべての経緯(復讐のこと以外)をわたしから聞かされていたシャルロッテは、急に真顔になってわたしを見つめる。わたしは思わず笑ってしまった。



「それにしても、リビーはこのまま演習に出て大丈夫ですの?」


「え? どうして?」


「クマ、すごいことになってますわよ」



 シャルロッテが自分の目の下を指差す。



「やっぱりそう思う?」


「誰でも思いますわよ」



 頬に手を当てつつ、わたしは静かにため息をつく。


 両親の悪夢は如実にわたしを蝕んでいた。


『早く殺せ』

『復讐を成し遂げろ』

『どうしてグズグズしているの?』

『なんのためにおまえが生まれたと思っている?』


 真っ暗闇の中、眠っている間中そんなことを言われ続けるのだからたまらない。正直、起きているほうがずっとマシだった。

 だけど、人間は寝ないと生きていけないようになっているらしい。眠って、けれど悪夢に悩まされる日々を繰り返していた。



「今からでも辞退したほうがいいんじゃありません? 林の中で体調を崩したら大変ですし、殿下にも迷惑をかけてしまいますわ」


「……そんなこと言って、空いた枠に自分が入るつもりでしょう?」


「そ! んなつもり、ほんの少ししかありませんけど……」



 シャルロッテはそう言いながら、頬が真っ赤に染まっていく。ゼリックとはまた違った素直さに、なんだかちょっと癒やされてしまった。



「大丈夫だよ。最近はずっとこの状態だし、慣れてるから」


「だけど、今日はグレゾール先生がおりませんし」


「ああ、まあ……それは不安材料ではあるんだけど」



 ゼリックは今日の合同演習には参加していない。十日ほど前に王宮からの命令で遠征に出てしまったからだ。



(ゼリックさえいれば絶対安心なんだけどな)



 なにせゼリックはわたしを守ることを生き甲斐にしているような男だ。わたしがフラフラしていたらすぐに駆けつけてくれるし、守ってくれる。ありとあらゆるタイミングで先回りをして危険を回避してくれるし、目一杯の愛情で包んでくれる。……まあ、おかげでアインハードとの仲は邪魔されているんだけど。



「リビー」



 とそのとき、アインハードから声をかけられた。それと同時に、わたしの隣でシャルロッテがキャーキャー(声には出さずに)叫びはじめる。



「そろそろ時間だから迎えに来た」


「ありがとうございます、殿下。今日はよろしくお願いいたします」


「ああ」



 アインハードはそう言ってそっと目を細める。シャルロッテの瞳がキラキラと輝いた。



「あの、わたくしたちも一緒に回らせていただけないでしょうか?」



 ズイと身を乗り出しながらシャルロッテが言う。そんな提案をされると思っていなかったらしく、アインハードは少しギョッとした様子だった。



「いや、これはペアになって林の中に隠された魔法石をより多く集めるための演習だから、一緒に回るのは……」


「それは存じ上げています。けれど、リビーは体調が悪そうですし、友人として心配で……」


(半分正解だけど半分は嘘だな)



 いや、九割が『アインハードと一緒に回りたい』というのが正しいだろう。まったく、我が友人ながら素晴らしいハングリー精神だ。



「たしかに具合が悪そうだが、なにかあれば俺が対処する。君は心配しなくていい」


「……はい」



 シャルロッテはそう言って唇をほんのり尖らせる。



(ごめんね、シャルロッテ)



 今回ばかりはわたしも引くわけにはいかないのよ。両親の悪夢から解放されるためには、アインハードとの仲を進展させなくちゃならないんだから。



(解放……されるよね?)



 そう思った途端、胸がドクンと大きく騒ぐ。

 もしもずっとこのままだったら? ……そんなの、想像しただけで恐ろしい。既に夢と現実の区別がつかなくなってきているのに、わたしは正気を保てるのだろうか?



「それじゃあ、行こう」



 アインハードがわたしに向かって手を差し出す。よし、と気合を入れてからわたしはアインハードの手を取るのだった。


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