16.門前のやり取り
(旧サウジェリアンナ王国領か)
お茶会が終わってから数日、わたしはずっと、あの日のゼリックの言葉の意味を考えていた。
この十一年間、わたしはサウジェリアンナ王国が滅ぼされた経緯について調べてきた。完全な君主制だったこと、国民に重い税金や兵役が課されていたこと、元々作物が実りづらい土地だというのに兵器や魔術の開発、王家ばかりにお金を使って、国民は貧しくて苦しい生活を強いられていたこと……。
(本当は間違いだって思いたかった)
わたしの両親はなにも悪いことはしていない。サウジェリアンナ王国を襲ったジルヴィロスキー王国が悪いんだって信じていたかった。
だけど、知れば知るほど、調べれば調べるほど、そうじゃないって思い知らされた。
ため息を一つ、わたしは机に広げていた資料を本棚に片付けた。
(忘れられたら楽だろうに)
前世も、現世の両親のことも、全部忘れてただのリビーとして生きられたら、きっと幸せなんだと思う。
だけど、それは到底無理な話だった。以前よりも頻繁に現世の両親がわたしの夢に現れる。自分たちの無念を晴らしてほしい、復讐をしてほしいって泣きついてくるのだ。
(なんとかしなきゃ)
お茶会に呼んだ令嬢たちとはその後も手紙を送り合っている。けれど、彼女たちはゼリックの攻略が難しいと判断したらしく、アプローチがすごく控えめだ。……まあ、大のシスコンだってバレてしまったしね。結婚相手がそんなんじゃ嫌だよね、普通。
(こんなはずじゃなかったのにな)
ゼリックのバカ。いつもいつも、絶妙なタイミングで邪魔をしにやってくる。しかも、悪気がないのが一番厄介だ。怒れないし邪険にできない。
(――いや、そろそろ怒ってもいいよね!?)
これだけ邪魔されているんだもの。どれだけゼリックが善良でも、ただただわたしを思ってした行為だとしても、わたしには腹を立てるだけの権利がある。
それに、わたしから邪険にされたら少しはシスコンが減退するんじゃなかろうか。……まあ、少し可哀想な気もするけど。ここは心を鬼にして挑むべきだ。
(善は急げ)
一言ゼリックに物申してやろうじゃない。ついでにどんな学園生活を送っているか、婚約者候補になるような令嬢がいないかも偵察してやるんだから。
わたしは早速ゼリックが通っている学園へ馬車を走らせた。我が家から学園までは二時間ほど。休みのたびに帰ってくるのは結構面倒な距離だと感じた。
『週末だからね。リビーに会うために戻ってきたんだよ』
ゼリックの言葉を思い出すと、ついつい頬が赤くなってしまう。本当に、ものすごく愛されているなぁとは思う。だけど、復讐のことを考えれば迷惑だ。……多分、迷惑。あれだけ邪魔されているんだもの。わたしのことはもう放っておいてほしい。
(ここがゼリックが通っている学園か……)
貴族や裕福な名家の子女ばかりが通う学校だけあって、門構えからしてとても立派だ。門番のために騎士も立っているし。前世の小学校みたいに誰でも自由に入れる感じではないみたい。
……そういえば、どうやって中に入るかまったく考えてなかった。来ればなんとかなると思っていたけど、在校生の家族が面会を申し出てすんなり受け入れてもらえるものなんだろうか?
「学園になにか御用ですか?」
と、悩んでいたら門番の男性から尋ねられた。
「兄に伝えたいことがあって……面会は可能でしょうか?」
「それは……事前お約束をしていらっしゃいますか?」
「いいえ」
門番はそれを聞くと「そうですか」と困ったように首を捻る。
(やっぱり、ちゃんと手続きしなきゃいけなかったんだ)
だんだんと思いつきで行動をしたことが恥ずかしくなってきた。門番の男性にもこれ以上迷惑をかけられないし、出直したほうがいいだろう。
「あの、わたし……」
「どうかしたの?」
そのとき、ちょうど出かけるところだったらしい女生徒がわたしたちに声をかけてきた。栗色の短いウェーブの髪に青色のツリ目、見るからに高貴――というかプライドの高そうな『ご令嬢』という感じの女性だ。
「フランソワーズ様、お出かけでいらっしゃいますか?」
門番が腰を90度に曲げてお辞儀をする。わたしも思わず一緒に頭を下げた。
「……まあね。それで? この子は?」
「はい。ご家族の方に会いにいらっしゃったそうなのですが、事前に約束をしていないそうで」
「あらあら。せっかく来たのに残念だったわね」
フランソワーズ様という女性がそう言って目を細める。やっぱり事前に約束をしていないと面会は難しいようだ。わたしはシュンと肩を落とした。
「ご家族の名前は? もしもわたくしの知り合いだったら、伝言ぐらいはしてあげてもいいけど」
「いえ、そんな。伝言をいただくような内容ではないので……」
一瞬だけ「いいの!?」って思ったけど、よく考えたらわたしはゼリックに対して『怒ってます』と言いたいだけだから、誰かに伝言なんて頼めない。謝罪をしつつ、わたしは静かに頭を下げた。
「あらそう? それで、あなたは誰に会いたかったの?」
「はい。兄のゼリック・グレゾールに……」
「……!」
わたしがそう言うと、フランソワーズ様は目を大きく見開いてこちらを凝視する。
「そう……あなたが」
「え? ええと……兄をご存知なんですか?」
わたしが尋ねると、フランソワーズ様はクスリと笑う。
「同じクラスなのよ。……そうだわ。せっかく来たのだから、わたくしがゼリック様のところに連れて行ってあげる」
「えっ!? でも、これからお出かけされるんですよね?」
両手を広げて首を横に振ると、フランソワーズ様はわたしの手をギュッと握った。
「いいのよ。こちらのほうがよほど楽しそうだから」
「そ、そうですか? でしたら、お言葉に甘えて……」
戸惑いつつも、わたしはフランソワーズ様のご厚意に甘えることにした。




