第89話:危ないビビリ
翌日の日没前。
オロオロ鳥の卵採集に連れて行ってくれるというセーヤの家の玄関ドアをノックすると、笑顔のサヤさんが出迎えてくれた。
「いらっしゃいクルスさん。ちょうどお弁当ができたところだから、持って行ってね」
「お弁当?! ありがとうございます!」
サヤさんの美味しいサプライズ。
俺はテンション爆上がりで、ホカホカ温かい包みを異空間倉庫に収納した。
見ればセーヤも嬉しそうに同じ包みをマジックバッグに入れている。
この世界のマジックバックは異空間倉庫に似たもので、入れた物の状態を維持することができる。
空間魔法の適正が無いセーヤも、マジックバックでホカホカできたての弁当を持ち運ぶことができた。
「じゃあ、行ってくるよ」
「いってきまーす」
「いってらっしゃい、2人とも怪我しないでね」
サヤさんに見送られて出発したセーヤと俺は、王都サントル付近の森へと歩いていく。
森の入口には、木でできた看板が立っていた。
【自殺鳥出没注意! 巻き込まれる前に逃げろ!】
「……セーヤ、この看板って……」
「うん、オロオロ鳥に気を付けろってことだね」
どんだけ危ない鳥なんだ……。
俺は苦笑しながらセーヤの後をついていく。
大繁殖期というだけあって、卵はすぐ見つかった。
「オロオロ鳥の卵は、親鳥が近くにいるかいないかで採り方が違うんだ。ここは親鳥が留守だから、卵は1個だけ採るよ」
セーヤは俺に説明しながら、木の根元にある巣から卵を1個だけ拾い上げてマジックバッグに入れた。
オロオロ鳥の巣は、木の根元に作られるらしい。
次に見つけた巣も、太い木の根元にあった。
「今度はクルスが採っていいよ。ここも留守だから1個だけだね」
「色が濃い方が新鮮なのかな?」
「うん。一番濃い色が、生みたて卵。1個だけ採る場合は一番新しいのを採るんだよ」
「OK」
セーヤに教えられて、俺は一番新しい卵を拾い上げて異空間倉庫に入れた。
その後もしばらく親鳥不在の巣が続いた。
巣は森の中の至る所にあって、見つけるのは素人の俺にも簡単にできる。
親鳥不在の巣から卵を採るだけなら、危険は感じられない。
しかし。
巣に帰ってきた親鳥と遭遇したとき、俺はオロオロ鳥の恐怖を知った。
「クルス避けて!」
「?!」
巣の中の卵に手をのばしかけたセーヤが何かに気付き、俺の後ろを見て叫ぶ。
ギョッとして振り返る俺の視界に入ったのは、黒と白のツートンカラーの鳥。
大きさは鶏くらい、嘴と足が長く、尾は短く、翼は身体のサイズに比べて小さい。
「キョキョキョキョキョッ!!!」
「おわっ!」
鳥は俺に気付いた途端、けたたましい叫び声を上げて爆走し始めた。
咄嗟に横へ飛びのくと、鳥はそのまま俺がいた辺りを通過して、巣がある方へと爆走する。
「やっぱり来るか!」
セーヤは巣ごと卵を抱えて、サッと横へ避けた。
爆走する鳥は巣があった位置まで来ると、何故かその場でグルグル回り始める。
延々と回り続ける鳥を放置して、セーヤは抱えていた巣の卵を全てマジックバッグに収納した。
「親鳥がいる場合は、こうして全ての卵を採るんだよ。残しておいても全部踏み潰されちゃうからね」
「あいつは、なんであそこで回ってるんだ?」
「パニックを起こして我を忘れて暴走してるだけだよ」
セーヤはこちらまで歩きながら説明してくれた。
俺たちが話している間も、鳥は延々と回り続ける。
(あんなにぐるぐる回り続けて、目が回らないのかな?)
って思ってたら、鳥の回転速度が遅くなり始める。
鳥は白目を剥き、フラフラ~ッとよろけたかと思うとパタッと倒れてしまった。
「あ、倒れた」
「うん、限界まで回ったんだね」
半分呆れ気味に俺が呟いたら、セーヤが苦笑しながら言う。
鳥は地面に横倒しの状態になり、足をピクピク痙攣させていた。
「しばらく放置しておけば、何事も無かったかのように起き上がるよ。じゃ、次行こうか」
「う、うん」
セーヤと俺は、鳥を放置してその場から立ち去った。
次に見つけた巣も、近くに親鳥がいた。
卵を採ろうとした俺は、突進してくる鳥に気付いて素早く巣を抱えて横へ避けた。
「キョキョキョキョキョッ!!!」
鳥はけたたましい叫び声を上げながら俺の横を通り過ぎた直後、木の幹に突っ込んでいく。
ガツッ! という音がして、鳥の長い嘴が木の幹に突き刺さる。
鳥は嘴を突き刺したままピクピクと身体を痙攣させた後、クタリと脱力して動かなくなった。
「……えーと……これはどうなったのかな?」
「あ~……首の骨が折れて死んだね……」
「これ、よくあること?」
「うん、だから自殺鳥って呼ばれるんだよ」
俺は困惑しつつセーヤに聞く。
セーヤがまた苦笑しつつ答えた。
「こいつ、食えるかな?」
「オロオロ鳥の肉は美味しいよ」
「じゃあ、持って帰ろうかな」
「うん。今日の弁当にオロオロ鳥肉フリッターが入ってるから、美味しさはすぐ分かるよ」
美味しいと聞いて、俺はお亡くなりになったオロオロ鳥の血抜きを済ませて異空間倉庫に入れた。
状態維持されるから、解体は後にしよう。
採集の中盤に、森の木の上で一休み。
オロオロ鳥は飛べないので、高い場所が安全らしい。
それぞれ太い枝に腰かけて、幹を背もたれにしながら弁当を取り出した。
お弁当のメインは、しっとり柔らかい薄焼きパンで、あらびきソーセージと温野菜を巻いた物だ。
副菜として、フリッターとソースも添えられている。
できたてアツアツを維持されたフリッターは、外はカリッと中はフワフワ、ウスターソースに似た少し酸味のあるタレを付けたら、いくらでも食べられそうな絶品だった。
「ん~美味い! サヤさんの手料理素晴らしいね!」
「うん、サヤの料理は最高だよ。お嫁に来てくれて幸せだなぁって思ってる」
お弁当を褒めたら、セーヤに軽くノロケられてしまった。
いいなぁ新婚。ずっと幸せでいてくれ。
弁当を食べ終えて一休み後。
採集後半に遭遇したオロオロ鳥は岩に激突したり、渓流に突っ込んで溺れたり。
自殺鳥の異名にふさわしい最期を見せまくる。
卵採集を終えて帰る頃には、セーヤのマジックバッグも俺の異空間倉庫も、数羽ずつ親鳥が収まっていた。
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