第85話:大きさの理由
異世界の自宅。
すっかり定位置と化した居間のソファに座り、こんがり焼けたチキンレッグを頬張るユガフ様。
床ではルカと子供たちが、それぞれ小皿に盛られた焼き鳥(串なし・調味料不使用)を美味そうにハグハグ食べている。
「聖夜も随分と強くなったのぅ」
「普通の人間の俺が、異世界に来て4~5ヶ月で巨大鳥を倒せるとは思わなかったよ」
エメラルドグリーンの瞳を細めて、ユガフ様が満足そうに微笑む。
その隣で串焼きを手に、俺はしみじみと呟いた。
みんなが食べているのは、さっき倒して持ち帰った巨大オラオラ鳥の肉。
朝食はオムレツの予定だったが、卵が手に入らなかったので焼き鳥に変更だ。
「ん?! この肉、めちゃくちゃ美味い!」
串に刺した肉にかぶりついて、俺はその柔らかさと旨味に驚く。
オラオラ鳥の肉は、キジやヤマドリみたいに美味い。
今朝倒したこいつは、普通のオラオラ鳥肉よりも柔らかく、肉汁たっぷりで皮の裏側の脂まで甘みがあって更に美味い。
「こやつは交尾の経験が無いからじゃな」
「へ?!」
ムシャムシャ食べる合間にユガフ様が変なことを言うから、俺は焼き鳥をポロッと落としてしまった。
すぐに串を掴んでキャッチしたので、膝の上に落としちゃうことはなかったけどね。
「うん? 教えてなかったかの? 交尾経験の無いオスの肉は、柔らかくて旨味があるんじゃよ」
「そ、そうなんだ……」
涼しい顔で言ってまた足付き肉を頬張るユガフ様。
俺はなんともいえない気持ちになって苦笑しつつ、串焼きの残りにかぶりついた。
そうか、あいつも俺と同じで、生きた年数=彼女いない歴だったのか。
予想してたイメージと違う巨大オラオラ鳥に、ちょっとだけ親近感が湧いてくる。
「デカイから他のオスを蹴落としてメスを手に入れてると思ってたよ」
「オラオラ鳥のメスは、大きさや強さでオスを選ばぬからのぅ」
「えっ?!」
「奴等はな、ダンスの上手さでオスを選ぶんじゃよ」
「そ、そうなんだ……」
「こやつはダンスが下手くそでな、全くモテないから卵を食らってウサ晴らしを続けておるうちに巨大化してしまったんじゃよ」
「……救いようがないな……」
モグモグする合間にユガフ様が教えてくれた、オラオラ鳥の意外なパートナー選び。
あの闘争心の塊みたいな鳥が、ダンス?!
一体どんな踊りを見せるのか?
地響きたてながら反復横跳びしてるイメージしか出てこないけど……。
「東の岬に縄張りを持つオスが、この島一番のダンスの名手じゃ。夜明け頃に行けば見られるぞい」
そう言われたら、見に行くしかないよね?
翌朝、西島でのイリの神代理を終えた後、俺は空間移動で神の島の東へ行ってみた。
◇◆◇◆◇
東の岬は先端が海に突き出していて、離れた場所からもよく見える。
俺は見つからないように異空間トンネルに隠れつつ、ダンスが始まるのを待った。
(ギャラリーが集まってる?!)
あちこちから、薄紅色の羽毛をもつ大きな鳥たちが歩いてきて、岬の先端を囲む。
集まっているのは、みんな鶏冠の無いメスたちだ。
「コオォォォ~」
燃える鶏冠をもつ1羽のオスが、ギャラリーの頭上を軽やかに飛び越えた。
彼はその体重を感じさせないフワリとした着地で、岬の先端に降り立つ。
メスたちは静かに、騒がずにそのときを待つ。
岬の先端に立つオスが両翼を広げ、踊りが始まった。
全身の羽毛を膨らませて、薄紅色の巨鳥が舞う。
広げられた翼が優雅に大気を撫でて、1つ1つの動作に余韻を残す。
鶏冠の揺らめく炎が、頭の動きに合わせて空中に残像を残していく。
茜色の空を背景に踊るその鳥は、普段の猛々しいイメージとは全く違う。
炎の残像に囲まれているから、火の鳥が舞うようにも見えた。
やがて、幻想的な舞が終わり、ダンサーが片翼を胸元に添えて優雅に一礼する。
それを合図に、メスたちが一斉に両翼を広げて地面につけて身体を伏せた。
「コーコココ……」
メスたちをダンスで魅了したオスは、ゆっくりと歩いてくるとメスの1羽に近付く。
オスは伏せたままじっとしているメスの背後に回ると、その後ろ頭の羽毛を咥えて背中に乗った。
(……あ、交尾タイムか……)
ダンス以外に興味が無かった俺は、スンとした顔で異空間トンネルを閉じた。
挿絵代わりの画像は作者の保護猫たちです。
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