第9話:猫神流拳法
「そうじゃ、ルカに栄養のあるものを食べさせるため、オラオラ鳥を狩りに行こうかの」
「飛び蹴り大丈夫?!」
「ははは。当たらなければどうということはない」
朝食を終えてしばらくノンビリした後。
猫神様は、とんでもないことを思いついた。
俺ではとても相手にならないであろう鳥を狩りに行くという。
魔法じゃなくて物理で狩るそうだけど、どうやるの?
◇◆◇◆◇
お昼前の森の中。
猫神様に案内されながら歩いて行った先に、そいつはいた。
オラオラ鳥。
全体的な形は、鶏のオスに近い。
但し、大きさはダチョウくらいあるが。
タマゴは鶏卵の3倍サイズなのに、親鳥は鶏の30倍サイズだ。
親とタマゴの大きさの差が凄いな。
体色はフラミンゴみたいな薄紅色。
鶏冠は、炎を纏っていた。
(うわ~、イメージ通り過ぎて笑える)
俺は心の中で呟く。
猫神様は、あれをどう狩るのだろうか?
「ここで隠れて見ておれよ」
「うん」
猫神様は、俺を木陰に待機させてバリアみたいなもので包んでくれた。
っていうか、これだけ離れていて防壁が必要なの?
そのバリアの意味は、猫神様がオラオラ鳥に奇襲をかけたときに明らかになった。
まるで落雷のような轟音と共に、地面が抉れて土砂とちぎれた草と木の葉が空中を舞う。
長い茶トラの毛並みを靡かせて、猫神様が疾走する。
鶏冠の炎を揺らめかせて、オラオラ鳥が突進する。
どちらも迷わず相手めがけて猛攻を開始した。
(……すげぇ……巨大猫と巨大鶏のガチバトルだ……)
防壁の中で、俺は固唾を呑んで巨大生物(片方、神だけど)たちの戦いを見つめる。
猫神様は、普段の穏やかな雰囲気とは違い、爪と牙を剥き出す姿は獰猛な肉食獣みたいだ。
対するオラオラ鳥は、首のまわりの羽毛をブワッと膨らませ、目を吊り上げて睨み、こちらも狂暴さ満載だ。
ドンッ! という音と共に大地が揺れ、新たな木の葉が舞う。
俺を覆うドーム状の防壁の上に、バラバラと砂利が降って地面に滑り落ちていく。
バキッ! という音がしたかと思えば、折れた木が別の木に激突していた。
(……ぼ、防壁があって良かった……)
戦いのあまりの激しさに、俺は青ざめた。
これ、防壁が無かったら俺無事じゃ済まないやつだ。
土と小石を蹴り散らして、巨大鶏が跳躍する。
オラオラ鳥の飛び蹴りを、後足だけで立つ猫神様の片手(前足)が払うように受け流す。
そこから流れるような動作で、太い茶トラの腕からネコパンチが繰り出された。
オラオラ鳥はフッ飛ばされるが、バッ! と両翼を広げて空中で停止する。
着地から地面を蹴り、前方へ跳躍したオラオラ鳥の嘴攻撃!
しかし、オラオラ鳥の猛攻はそこまでだった。
猫神様はスイッと横へ避け、全力で嘴を振り下ろしたオラオラ鳥は勢い余って前のめりによろける。
無防備になったオラオラ鳥の首に、猫神様の鋭く大きな爪が振り下ろされる。
ザシュッ! という何かを切り裂くような音がして、勝敗が決まった。
「クエェェェ……」
「生物界は食うか食われるかじゃ。恨むでないぞ」
絞り出すように声を漏らし、大きな赤い鶏みたいな奴がドサリと倒れる。
猫神様は、低い静かな声で死にゆく相手に語り掛けた。
オラオラ鳥の切り裂かれた首から流れ出る血が、地面に広がっていく。
猫神様は二足歩行のまま、近くの木に歩み寄ってそこ絡みついている太い蔦を取った。
「さて聖夜、血抜き方法を教えるゆえ、こちらに来て見るがよい」
「は、はい」
猫神様が呼びかけると同時に、俺を覆っていた防壁が消える。
戦いに圧倒されていた俺は、おっかなびっくりで猫神様と事切れたオラオラ鳥の方へ歩いていった。
「こいつの血抜き方法は、鶏と同じじゃ」
「あ、なんとなく予想できたかも」
猫神様はそう言うとオラオラ鳥の足に蔦を括り付け、大木の枝にぶら下げる。
何するか察した瞬間、オラオラ鳥の頭と胴体がお別れしたよ。
派遣の仕事で農家に働きに行ったときに、鶏をシメて捌いてるところを見たことがあった。
まあそれの巨大バージョンなわけで、迫力が段違いだが。
充分に血抜きをした後、猫神様は爪で蔦をスパッと切ってオラオラ鳥を異空間倉庫に入れた。
空中に開いた異空間への穴は閉じず、猫神様は穴に向かって何か魔法を使い始める。
「【解体】の魔法じゃ。異空間倉庫の中に入れて使えば、そのまま保管も出来て便利じゃぞ」
「なるほど」
俺は【解体】の魔法を授けてもらった。
異世界ファンタジーであると便利な魔法TOP10に入る(多分)便利魔法だね。
大きな獲物を物理で解体するのは、一般的な日本人にはちとしんどいし。
それ以前に、大きな獲物をチート無しで狩れる日本人はいないかもしれない。
「こいつの肉は美味じゃ。聖夜も鍛えてやるゆえ、いずれ狩ってみるがよいぞ」
「えっ?」
「聖夜はまだ若い。鍛えれば強くなれるぞい」
「俺、強くなれるかなぁ……」
さっきのバトルを、俺もやれと。
無人島スローライフの筈が、なんか格闘ものみたいになってきたような?
俺、猫を飼うために異世界へ来たんじゃなかったっけ?
肉を手に入れて満足そうに歩く猫神様と並んで歩きつつ、俺は少々疑問に思ったりした。
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