プロローグ
瞼の裏はもう真っ暗だった。
長く、満ち足りた人生を終えようとしていた。目を開けるほどの労力さえ、もはやこの老いた身体には残されていなかった。
呼吸は浅く、胸の重さはどうすることもできない。
だが、鍛え上げられた精神力――長年の修行で極めた超能力の根源の力だけが、この老体の中で、まだ微かな光を放っていた。
この微かな光のおかげか、五感を超えた感覚が、周囲の微かな空気の振動を捉えていた。
隣には、成長した愛娘が、その傍らには、すっかり落ち着いた女子高生の孫が、二人とも声を抑えて泣いている。
娘の手が、衰弱した俺の手を握りしめた。体は動かないが、意識の奥底に宿る、研ぎ澄まされた力だけは、彼女たちに応えることができた。
長年の訓練で培った達人の技術が動く。誰も気づかない、本当にわずかな念力で、泣いている孫の目元に、そっと、一瞬の優しい風を吹かせた。 それは窓からの隙間風か、病室の気のせいだろう。
――よかった。誰も、俺が超能力者だったなんて、最後まで気づかなかった。
超能力なんて使わなくても、妻と出会い、娘を育て、孫にまで愛される。この普通の人生こそ、俺がすべてをかけて守りたかった宝だ
意識は遠のくが、愛する人たちに囲まれたこの人生は、満たされていた。
そして、ふと、意識の向こうに、先に逝った愛する妻の笑顔が浮かんだ。
――妻よ。俺は幸せだったよ。もうすぐ、そちらへ行く。
超能力なんて必要なかった。 ただ、お前たちと笑って生きる人生さえあれば。
その意識が完全に途切れる瞬間、俺の研ぎ澄まされた意識は、妻の待つ光の中へと、静かに導かれていった。




