ラウンド4:もし時を戻せたら〜別の選択はあったか
あすか:「いよいよ最終ラウンドです」(砂時計の残りわずかな砂を見つめながら)「『もし時を戻せたら』...誰もが一度は考える究極の問い。皆様には特別な機会が与えられました。こうして時を超えて、自分の選択を振り返ることができる。では、単刀直入に伺います。もし、あの決断の瞬間に戻れたら、別の選択をしますか?」
(長い沈黙が流れる。4人はそれぞれ深い思考に沈んでいる)
ブルータス:(最初に口を開く)「これは...拷問のような質問ですね。私は千回以上、自問自答してきました。カエサルを生かしたまま、共和政を守る方法はなかったのか、と」
光秀:「私も同じです。信長様を説得する、他の大名と連合を組む、朝廷を動かす...様々な可能性を考えました。しかし...」
あすか:「しかし?」
光秀:「あの時点で、他に道はあったでしょうか。信長様は既に誰の言葉も聞かなくなっていた。朝廷すら軽んじ、自らを神と称していた」
呂布:「お前たちは考えすぎだ。俺は同じことをする。ただし...」(不敵な笑みを浮かべる)「もっと上手くやる」
アーノルド:「上手く、ですか。どのように?」
呂布:「簡単だ。曹操と劉備を先に始末しておく。あの二人さえいなければ、俺の天下だった」
ブルータス:「それは結果を知っているからでしょう。当時はそこまで予測できなかったはずです」
呂布:「だから『もし』の話だろう?知識を持って戻れるなら、当然利用する」
あすか:「なるほど、面白い解釈ですね。では、アーノルド様はどうですか?」
アーノルド:(深いため息)「私は...もっと早い段階で決断すべきだった。中途半端が一番良くなかった。サラトガの後、正当な評価が得られないと分かった時点で、軍を離れるべきだった」
光秀:「離れる、ですか。それは逃げではないのですか?」
アーノルド:「逃げ?いや、戦略的撤退だ。無駄な戦いを続けるより、別の道を探すべきだった。商売に戻るなり、政治家になるなり」
ブルータス:「しかし、それでは歴史は変わらなかった」
アーノルド:「変える必要があったのか?私個人の名誉のために、国を売ろうとした...今思えば、愚かだった」
あすか:「後悔されているのですね」
アーノルド:「後悔...そうですね。特に家族のことを思うと」
呂布:「家族か。俺にも娘がいた。貂蝉もいた」(珍しく声が優しくなる)「あいつらのことを、もっと考えるべきだったかもしれん」
光秀:「呂布殿でも、そう思われるのですか」
呂布:「うるさい!俺だって人間だ」(顔を赤くして)「ただ...強さだけを追い求めていた。それ以外のものを、軽んじすぎた」
あすか:「皆様の中で、少しずつ変化が起きているようですね。では、具体的に伺います。どの時点で、どんな選択をすればよかったと思いますか?」
光秀:「私なら...本能寺の三年前、安土城が完成した時です。あの時、信長様に諫言すべきだった。たとえ手討ちにされても」
ブルータス:「諫言で済んだでしょうか?」
光秀:「分かりません。しかし、少なくとも試すべきだった。他の重臣たちと共に、連名で訴えるとか」
あすか:「それで信長は変わったと思いますか?」
光秀:「...正直、難しいでしょう。でも、私の良心は救われたかもしれません」
ブルータス:「私の場合、ポンペイウスが敗れた時点で、カエサルと和解すべきだったかもしれません。彼は寛大でした。私を許し、重用してくれた。その恩に報いる道もあった」
呂布:「恩に報いる?それで共和政とやらはどうなる?」
ブルータス:「そこが矛盾なのです。個人的な恩義と、政治的理想。両立は不可能だった」
アーノルド:「私なら、フィラデルフィアの軍法会議の前に、ワシントン将軍に直訴すべきだった。彼なら理解してくれたかもしれない」
光秀:「直訴...それは考えませんでしたか?」
アーノルド:「プライドが邪魔をした。なぜ私が頭を下げなければならないのか、と」
呂布:「プライドか。俺もそれで失敗した」(渋々認める)「曹操に降伏する機会は何度かあった。だが、俺のプライドが許さなかった」
あすか:「プライドと現実的な判断の間で、皆様は苦しまれたのですね」
光秀:「武士として、いや人間として、譲れない一線がある。それを越えることは...」
ブルータス:「自己否定になる」
アーノルド:「しかし、時にはプライドを捨てることも必要だった」
呂布:「捨てられないから、俺たちはここにいるんだろう」
あすか:(クロノスを操作)「では、視点を変えて。もし裏切らなかったら、歴史はどう変わっていたと思いますか?」
光秀:「信長様が天下統一を成し遂げていたでしょう。そして...」(声が暗くなる)「日本は恐怖政治の下に置かれていたかもしれません。朝鮮、明国への侵攻も、もっと早く、もっと大規模に行われていた」
ブルータス:「カエサルは間違いなく王になっていた。ローマ帝国は数十年早く成立し、共和政の記憶は完全に消えていたでしょう」
呂布:「董卓がもっと長く暴政を続けていた。まあ、誰かが俺の代わりに殺しただろうが」
アーノルド:「ウェストポイントは陥落せず、独立戦争はもっと早く終わっていた。私も英雄の一人として...」(自嘲的に笑う)「今頃、銅像でも建っていたかもしれない」
あすか:「つまり、皆様の『裏切り』が、歴史の流れを大きく変えたということですね」
光秀:「変えた、というより...別の可能性を開いた、でしょうか」
ブルータス:「我々の行為が正しかったかは別として、確かに歴史の転換点にはなった」
呂布:「まあ、俺がいなくても、三国時代は来ただろうがな」
アーノルド:「そうかもしれません。大きな流れは変わらなくても、細部は違っていた」
あすか:「では、現代の人々へのメッセージを考えていただけますか?同じような岐路に立つ人々へ」
光秀:(真剣な表情で)「裏切りと改革は紙一重です。既存の秩序を壊すことが必要な時もある。ただし...その覚悟と責任を持て。そして、できれば暴力以外の方法を探せ」
ブルータス:「理想のためでも、暴力は最終手段であるべきです。私は性急すぎた。対話と説得の可能性を、もっと追求すべきだった」
呂布:「綺麗事を言うな」(腕を組む)「世の中は力だ。ただし...力だけでは最後は孤立する。それは認めよう。信頼できる仲間を作れ。俺にはそれがなかった」
アーノルド:「組織に尽くしても報われないなら、早めに見切りをつけろ。ただし、感情的になるな。冷静に、計画的に行動しろ。そして...家族を巻き込むな」
あすか:「それぞれの経験から導き出された、重い言葉ですね。では、もう一つ。『信念』と『現実』のバランスについて、どう考えますか?」
ブルータス:「信念なき人生は無意味です。しかし、信念に殉じることが常に正しいとは限らない」
光秀:「現実を無視した信念は、ただの妄想です。しかし、現実に屈服するだけでは、何も変わらない」
呂布:「バランス?そんなものはない。その時々で、有利な方を選ぶ。それが生き残る道だ」
アーノルド:「呂布将軍の言うことも一理ある。しかし、あまりに現実的すぎると、自分を見失う」
あすか:「つまり、極端はよくないということでしょうか」
光秀:「中庸、という言葉があります。しかし、時には極端な選択も必要になる」
ブルータス:「問題は、その判断をいつ、どのように下すか」
呂布:「考えすぎるから失敗するんだ」
アーノルド:「いや、考えなさすぎるから失敗することもある」
(4人の間に、奇妙な笑いが起こる)
あすか:「皆様、議論を通じて、お互いを理解し始めているようですね」
光秀:「確かに...最初は呂布殿を軽蔑していましたが、彼なりの論理があることが分かりました」
呂布:「ふん、俺もお前たちの理屈っぽさにうんざりしていたが...まあ、少しは理解できる」
ブルータス:「我々は皆、時代の犠牲者かもしれません」
アーノルド:「あるいは、時代を作った者か」
あすか:「では、このラウンドの締めくくりとして、『裏切りは悪か?』というテーマに対する、皆様の最終的な答えをお聞かせください」
(4人は顔を見合わせ、それぞれ深呼吸をする)
光秀:「悪と善は表裏一体です。私の裏切りは、別の視点から見れば改革だった。ただし、それによって多くの血が流れた。この事実は消せない。絶対的な悪ではないが、絶対的な善でもない。歴史とは、そういう曖昧さの積み重ねです」
ブルータス:「裏切り自体は悪です。信頼を破ることは、人間社会の基盤を揺るがす。しかし、より大きな悪を防ぐための必要悪もある。問題は、その判断の正しさを誰が保証するのか。結局、歴史が審判を下すしかない」
呂布:「善悪など関係ない。生存競争があるだけだ。弱肉強食、これが世の理だ。ただし...」(少し声を落とす)「信用を完全に失えば、どんなに強くても生存すら危うくなる。それは今日の議論で認識した」
アーノルド:「裏切りは契約違反だ。しかし、相手が先に契約を破った場合は、それは正当防衛だ。問題は、その判断が主観的になりがちなこと。私は被害者だと思っていたが、客観的に見れば加害者だった」
あすか:「四者四様の答え。でも、共通しているのは、単純な善悪では割り切れないということですね」
光秀:「そうです。だからこそ、我々は今もこうして議論の対象になる」
ブルータス:「永遠の問いなのかもしれません」
呂布:「まあ、答えが出ないから面白いんだろう」
アーノルド:「そして、それぞれの時代で、新たな『裏切り者』が生まれる」
あすか:「では、最後の最後に。もし若い自分に一言アドバイスできるとしたら?」
光秀:「『覚悟を持て。そして、最後まで貫け。中途半端が一番良くない』」
ブルータス:「『理想は大切だ。しかし、現実を見失うな』」
呂布:「『強さだけでは駄目だ。信頼できる仲間を作れ』」
アーノルド:「『プライドも大切だが、時には頭を下げることも必要だ』」
あすか:(深く頷く)「ありがとうございます。4つの時代、4つの文化、4つの価値観。しかし、人間の本質的な苦悩は変わらない。忠誠と裏切り、理想と現実、個人と社会...これらの間で、我々は永遠に揺れ動く」
(砂時計の最後の一粒が落ちる)
光秀:「時間か...」
ブルータス:「議論はまだ尽きませんが」
呂布:「まあ、楽しかったぜ」
アーノルド:「初めて、理解されたような気がします」
あすか:「皆様、長時間ありがとうございました。第4ラウンド、そして全ての議論はこれで終了です。裏切りは悪か?その答えは、視聴者の皆様一人一人の心の中にあるでしょう」
(4人は互いを見つめ、初めて出会った時とは違う、ある種の敬意を込めた眼差しを交わす。彼らは敵でも味方でもない。ただ、同じ重荷を背負った者同士として、この瞬間、奇妙な連帯感を共有していた)




