ラウンド2:「忠誠とは何か〜誰に対して忠実であるべきか」
あすか:「では、第2ラウンドを始めましょう。テーマは『忠誠とは何か』です」(クロノスを操作し、「忠誠」という文字を空中に浮かび上がらせる)「皆様は全員、誰かに対する忠誠を破った。しかし、そもそも忠誠とは何なのか。誰に対して、どこまで忠実であるべきなのか。この根本的な問いから始めたいと思います」
ブルータス:「素晴らしい問いです。忠誠とは、私の考えでは、原理原則への献身です。個人への忠誠など、所詮は感情に過ぎない。真の忠誠は、正義や自由といった普遍的な価値への献身であるべきです」
光秀:「原理原則...西洋的な考え方ですな。我々東洋、特に日本では、忠誠はもっと個人的で、情緒的なものです。主従の絆は、理屈を超えた『義理』という感情で結ばれている」
呂布:「はっ!どちらも幻想だ。忠誠など、所詮は契約だ。互いに利益がある間だけ成立する取引に過ぎない」
アーノルド:「契約...その表現は的確ですね。私も軍と契約関係にあった。給料と名誉と引き換えに、命を賭けて戦う。契約が守られないなら、こちらも守る義理はない」
あすか:「なるほど、既に意見が分かれていますね。ブルータス様は『理念への忠誠』、光秀様は『個人的な絆』、呂布様とアーノルド様は『契約関係』という立場。では、もう少し掘り下げましょう。光秀様、日本の『義理』について詳しく教えてください」
光秀:「義理とは...説明が難しいですが、恩と情けの複合体とでも言いましょうか。主君から受けた恩に対して、命を懸けて報いる。これは理屈ではなく、武士としての本能的な感情です。信長様は私を取り立て、城を与え、信頼してくださった。その恩は、本来なら死んでも返しきれないものです」
ブルータス:「しかし、あなたはその恩を裏切った」
光秀:「そうです。だからこそ、私の苦悩は深かった。しかし...」(声を震わせて)「主君が道を踏み外した時、真の忠臣は何をすべきか。諫言しても聞き入れられず、このまま進めば国が滅ぶ。その時、盲目的に従うことが忠誠なのか?」
呂布:「考えすぎだ。主君が使えなくなったら、替えればいい。単純な話だ」
光秀:「呂布殿、あなたには『恩』という概念がないのか?丁原も董卓も、あなたを息子として遇したではないか」
呂布:「息子?」(鼻で笑う)「形だけのものだ。奴らは俺の武力が欲しかっただけ。俺も奴らの権力と財を利用した。互いに利用し合う関係に、恩も義理もあるものか」
アーノルド:「しかし、呂布将軍、あなたも最後は信用を失って孤立したのでは?」
呂布:「...それは認める。だが、それは俺が弱くなったからだ。強さを維持できていれば、問題なかった」
ブルータス:「そこが間違いです。信用や信頼は、力では築けない。一度失えば、どんなに強くても回復できない」
あすか:「信用と忠誠の関係...興味深いですね。では、ブルータス様、あなたの言う『原理原則への忠誠』について、もう少し詳しく」
ブルータス:「ローマ共和政は、王政を打倒して築かれました。自由な市民が、元老院で議論し、執政官を選ぶ。これこそが理想の政体です。私はこの理念に忠誠を誓っていた。カエサル個人にではなく」
光秀:「しかし、カエサル殿はあなたの恩人だった。その個人的な関係は、理念より軽いのですか?」
ブルータス:「軽い、重いの問題ではありません。私はカエサルを愛していました。今でも愛しています。しかし、一人の人間への愛情が、国家全体の運命より重要だと言えますか?」
アーノルド:「美しい理想論だ。しかし、現実はどうだった?カエサルの死後、ローマは内戦に陥り、結局は帝政になった。あなたの『理念への忠誠』は、何も生まなかった」
ブルータス:(苦渋の表情で)「結果は...確かに私の望んだものではなかった。しかし、だからといって、理念への忠誠が間違っていたとは思わない」
呂布:「負け犬の遠吠えだな。結果が全てだ」
あすか:「では、視点を変えましょう。皆様にとって『究極の忠誠の対象』は何だったのでしょうか?既に少し触れましたが、改めて」
光秀:「私の究極の忠誠は...」(長考の後)「天下の安寧、そして武家の理想でしょうか。信長様個人への忠誠と、より大きな理想への忠誠が衝突した時、私は後者を選んだ」
ブルータス:「私は明確です。共和政の理念、自由、そして正義。これらは個人を超越した価値です」
呂布:「俺は自分自身だ。偽善はやめろ。お前たちも結局は自分のためだろう」
アーノルド:「私は...家族です。そして自身の名誉。国家への忠誠?それは相互的なものであるべきだ。国家が私を裏切れば、私も国家を裏切る権利がある」
あすか:「アーノルド様の『相互的な忠誠』という概念、これは現代的ですね」
アーノルド:「なぜ一方的に忠誠を尽くさねばならないのか?主君も、国家も、部下や国民に対して義務がある。その義務を果たさないなら、忠誠を求める資格はない」
光秀:「一理ありますな。信長様も、家臣に対する義務を...いや、あの方には義務という概念自体がなかったのかもしれない」
ブルータス:「しかし、忠誠が条件付きなら、それは真の忠誠と言えるでしょうか?」
呂布:「真の忠誠?そんなものは存在しない。全ては条件付きだ」
あすか:(クロノスを操作)「ここで興味深いデータがあります。歴史上、無条件の忠誠を貫いた例は極めて稀です。多くの場合、何らかの限界点がある。では、皆様にお聞きします。忠誠の限界はどこにあるのでしょうか?」
光秀:「主君が『人の道』を外れた時です。比叡山の虐殺、一向宗への弾圧...罪なき者を殺すことを命じられた時、従うべきか?私は従えなかった」
ブルータス:「法と正義に反する命令には従えません。カエサルが元老院を無視し、独裁を始めた時、それは共和政の法に反していた」
呂布:「限界?簡単だ。得るものより失うものが多くなった時だ」
アーノルド:「約束が守られなくなった時です。私は命を賭けて戦った。しかし、報酬も名誉も与えられなかった」
あすか:「つまり、皆様それぞれに『レッドライン』があったわけですね。それを超えた時、忠誠は破られる」
光秀:「しかし、その判断は正しかったのか...今でも自問自答しています」
ブルータス:「私も同じです。もっと別の方法があったのではないか...」
呂布:「くだらん。過ぎたことを悔やんでも仕方ない」
アーノルド:「悔やむことも必要だ。そうでなければ、我々はただの獣だ」
あすか:「では、別の角度から。皆様の時代や文化における『理想的な忠誠』とは、どのようなものだったのでしょう?」
光秀:「日本では『忠臣蔵』という物語があります...いや、私の後の時代か。ともかく、主君の仇を討つために、全てを捨てて復讐する。これが理想とされていました。私は...その理想から最も遠い存在になってしまった」
ブルータス:「ローマでは、キンキナトゥスが理想でした。独裁官に任命されながら、任務を終えると即座に農園に戻った。権力に執着せず、共和政に忠実だった」
呂布:「中国では...まあ、関羽だろうな。劉備への忠誠を貫いた。俺とは正反対だ」(自嘲的に笑う)
アーノルド:「アメリカでは...皮肉なことに、ジョージ・ワシントンでしょう。最後まで独立の理念に忠実だった。私は...その対極になってしまった」
あすか:「理想と現実の差が、皆様を苦しめているようですね。では、ここで重要な質問です。忠誠は『与えられるもの』なのか、『勝ち取るもの』なのか?」
ブルータス:「忠誠は自発的に捧げるものです。強制された忠誠など、忠誠ではない」
光秀:「同感です。しかし、主君もまた、忠誠に値する人物でなければならない」
呂布:「だから言っているだろう。忠誠など幻想だ。力のある者に人は従う。それだけだ」
アーノルド:「力だけでは人はついてこない。カリスマ、ビジョン、そして公正さ。これらがなければ、真の忠誠は得られない」
あすか:「呂布様は一貫して『力』を主張されていますが、最後は部下にも裏切られましたよね?」
呂布:(顔を歪めて)「...あれは、俺が曹操に追い詰められて弱くなったからだ」
光秀:「違うでしょう。あなたが誰も信用せず、誰からも信用されなかったからです」
呂布:「信用?それがどれほどの価値がある?」
ブルータス:「全てです。信用なくして、人間関係は成立しない」
アーノルド:「その通りだ。私も信用を失った後、どこにも居場所がなかった。イギリスでもアメリカでも」
あすか:「信用と忠誠は表裏一体ということでしょうか。では、もう一つ。『忠誠の継承』について。主君が代わった時、忠誠はどうなるのか?」
光秀:「難しい問題です。私は斎藤家から織田家へ移りました。これも一種の裏切りと言えるかもしれない」
呂布:「何を今更。主が代われば忠誠の対象も変わる。当然だろう」
ブルータス:「私の忠誠は共和政という制度に対してだったので、個人が代わっても変わりません」
アーノルド:「組織への忠誠と、その代表者への忠誠は別物です。私はアメリカの理念は信じていたが、大陸会議は信じられなかった」
あすか:「なるほど。では、視聴者からの質問です」(クロノスを確認)「『現代のような雇用関係でも、忠誠は必要でしょうか?』」
アーノルド:「現代...私の知る限りでは、忠誠より『プロフェッショナリズム』が重要になっているようですね」
ブルータス:「契約に基づく関係なら、呂布殿の言う通りかもしれません」
光秀:「しかし、人と人との信頼関係は、どの時代でも重要なはずです」
呂布:「綺麗事だ。金で動く、それが現実だ」
あすか:「意見が分かれますね。では、ここで少し違う視点から。皆様は『裏切り者』として歴史に名を残していますが、逆に皆様に忠誠を尽くしてくれた人はいましたか?」
光秀:(目を潤ませて)「斎藤利三、明智秀満...彼らは最後まで私に従ってくれました。山崎の合戦でも、逃げることなく...」
ブルータス:「ポルキア...私の妻です。全てを知りながら、支持してくれた。私の死後、彼女も...」(声が詰まる)
呂布:「張遼は...いや、あいつも最後は曹操についたな。まあ、それが賢明だった」
アーノルド:「妻のペギー。彼女だけは最後まで私を信じてくれた。息子たちも...苦しみながらも」
あすか:「皆様にも、忠誠を尽くしてくれた人がいた。その人たちを裏切ったという意識はありますか?」
光秀:「あります。彼らを道連れにしてしまった。これは一生の悔いです」
ブルータス:「同じです。多くの同志を死なせてしまった」
呂布:「...まあ、多少はな」
アーノルド:「家族を不幸にした。これが最大の罪です」
あすか:「つまり、忠誠は双方向的なもので、それを破ることは、両側に傷を残すということですね」
光秀:「その通りです。裏切りは、裏切った者も、裏切られた者も傷つける」
ブルータス:「だからこそ、軽々しく行うべきではない。最後の手段であるべきです」
呂布:「それでも、時には必要だ。世の中、綺麗事だけでは生きていけない」
アーノルド:「必要悪、ということでしょうか」
あすか:「では、このラウンドの締めくくりとして、皆様に伺います。『真の忠誠』とは何か、一言で表現してください」
ブルータス:「真の忠誠とは、『原則への献身』です。個人ではなく、理念に忠実であること」
光秀:「『心の絆』でしょうか。理屈を超えた、人と人との深い結びつき」
呂布:「存在しない。あるのは『利害の一致』だけだ」
アーノルド:「『相互の尊重』です。一方的ではなく、互いに価値を認め合う関係」
あすか:「四者四様の答え、実に興味深いです」(クロノスを操作して、4つの答えを空中に表示)「忠誠という概念一つとっても、これだけの解釈がある。絶対的な正解はないのかもしれません」
光秀:「しかし、一つ言えることがあります。忠誠を軽んじる者は、最後には必ず孤立する」
呂布:「...それは、認めざるを得ないな」
ブルータス:「逆に、盲目的な忠誠も危険です。時には、疑うことも必要」
アーノルド:「バランスが重要ということですね。盲信でも、不信でもなく」
あすか:「素晴らしいまとめです。第2ラウンドでは、忠誠の本質について深く議論していただきました。それは契約なのか、感情なのか、理念なのか。答えは一つではないようです。しかし、確かなのは、忠誠を破ることの重さを、皆様全員が感じているということ」
(砂時計の砂が半分以上落ちている。4人の表情は、議論を通じて少しずつ変化している。互いの立場を理解し始めているようにも見える)
あすか:「次の第3ラウンドでは、『歴史の審判』について議論します。皆様は後世からどう評価され、それをどう受け止めているのか。歴史は公正なのか、それとも...」(意味深な笑みを浮かべる)