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ラウンド1:「裏切りの瞬間〜なぜその決断をしたのか」

あすか:「では、第1ラウンドを始めましょう。『裏切りの瞬間』...皆様がその重大な決断をした、まさにその時の心境を伺います。歴史の転換点となったその瞬間、何を思い、何を感じていたのか。まず光秀様、あの天正10年6月2日の未明、亀山城から京都へ向かう、その時の心境をお聞かせください」


光秀:(深く息を吸い、遠い目をして)「あの夜のことは、今でも鮮明に覚えています。亀山城の広間に重臣たちを集め、『敵は本能寺にあり』と告げた時...」(拳を握りしめる)「斎藤利三の驚愕の表情、明智秀満の困惑、そして徐々に理解していく家臣たちの顔...。私は震えていました。恐怖ではない、これから起こることの重大さに、身体が震えていたのです」


ブルータス:「震え...分かります。私もイドゥス・マルティアエ(3月15日)の朝、短剣を隠し持って元老院へ向かう時、同じような震えを感じました」


光秀:「しかし、その決断に至るまでには長い葛藤があった。信長様には確かに恩がある。美濃の斎藤家から織田家に仕えることになった時、信長様は私の才能を認めてくださった。坂本城を与えられ、近江一国の支配を任された。しかし...」(声が険しくなる)「あの方は変わってしまった。いや、元からそうだったのかもしれない」


呂布:「変わった?どう変わったんだ?」


光秀:「残虐さが度を越すようになった。比叡山延暦寺の焼き討ちでは、僧侶も女子供も関係なく皆殺しにされた。三千人とも四千人とも言われる死者...あの惨状を、私は忘れることができない」


アーノルド:「戦争に残虐行為はつきものだ。それだけが理由か?」


光秀:「それだけではない。私個人への侮辱も度重なった。武田征伐の後の諏訪での一件...」(顔を歪める)「家康様を接待していた私を任から外し、『不手際があった』と公衆の面前で罵倒された。そして、その場で『お前など要らぬ』とまで...」


あすか:「個人的な恨みもあったということですね」


光秀:「恨み...そうかもしれません。しかし、それ以上に恐ろしかったのは、信長様の目指す未来でした。彼は神になろうとしていた。安土城の天主閣に自らを祀らせ、誕生日を聖なる日とし、自らを『第六天魔王』と称した。このまま進めば、日本は...」


ブルータス:「まさに、カエサルと同じだ!」(身を乗り出す)「カエサルも神になろうとした。元老院で王冠を受けることを拒否したのは芝居だった。民衆の支持を得て、結局は王になるつもりだった」


あすか:「ブルータス様、あなたの決断の瞬間についても詳しく聞かせていただけますか?」


ブルータス:「私の場合、決断は段階的でした。最初にカエサルへの疑念を抱いたのは、ルビコン川を渡った時です。『賽は投げられた』...あの言葉と共に、彼は共和政に刃を向けた。それでも私は信じようとした。カエサルなら、権力を手にしても共和政を守ってくれると」


呂布:「甘いな。権力を手にした者が、それを手放すわけがない」


ブルータス:「その通りだった。カエサルは終身独裁官となり、元老院を形骸化させた。そして決定的だったのは、アントニウスがカエサルに王冠を捧げようとした、あのルペルカリア祭での一幕だ。カエサルは拒否したが、あれは明らかに民衆の反応を見るための茶番だった」


光秀:「茶番...信長様も同じような茶番を演じていました。朝廷から関白や征夷大将軍の位を打診されても、曖昧な態度を取り続けた。真の狙いは、既存の権威を超越した存在になることだった」


ブルータス:「そして私は、カシウスや他の元老院議員たちと密談を重ねました。最初は反対しました。カエサルは私の母セルウィリアと親しく、私を実の息子のように扱ってくれた。しかし...」(苦渋の表情)「ローマの自由は、個人的な恩義より重い。私の祖先、ルキウス・ユニウス・ブルータスは、最後の王タルクィニウスを追放し、共和政を樹立した。その血を引く私が、新たな王の誕生を許すわけにはいかなかった」


あすか:「血統の重み、家名の誇り...それも決断の要因だったのですね」


ブルータス:「3月15日の朝、私は妻のポルキアに別れを告げました。彼女は全てを察していた。『あなたの決断を支持します』と言ってくれた。元老院へ向かう道すがら、私は何度も立ち止まりそうになった。しかし、もう後戻りはできなかった」


呂布:「ふん、お前たちは考えすぎだ。俺の場合はもっと単純だ」(腕を組む)「最初の養父、丁原を殺した時、迷いなど微塵もなかった」


光秀:「迷いがない、だと?人を殺すのに?」


呂布:「当たり前だ。丁原は俺の才能を認めなかった。并州にくすぶらせ、俺の武勇を無駄にしていた。そこへ董卓が来た。『お前ほどの英雄が、なぜあんな小物に仕えている?俺の息子になれ』と言われた時、答えは決まっていた」


アーノルド:「利益で動く...正直でよろしい」


呂布:「そうだ、利益だ。董卓は赤兎馬をくれた。天下第一の名馬だ。金銀財宝も地位も与えてくれた。丁原の首など、その代価としては安いものだ」


あすか:「でも、その董卓も後に殺しましたよね?」


呂布:「董卓は暴君になった。洛陽を焼き、民を苦しめた。それに...」(少し言いよどむ)「貂蝉のこともある」


光秀:「貂蝉?女性ですか?」


呂布:「俺の女だ。董卓が手を出そうとした。許せるわけがない」(拳を机に叩きつける)「王允の策略だったという者もいるが、関係ない。董卓は俺から大切なものを奪おうとした。だから殺した。単純な話だ」


ブルータス:「愛する者のため...それも一つの大義かもしれません」


呂布:「大義?違うな。俺は欲しいものを守り、邪魔する者を排除しただけだ。その後も同じだ。曹操につき、劉備につき、袁術につき...その時々で最も利益になる選択をした」


アーノルド:「その姿勢、私は嫌いではない。少なくとも偽善がない」


あすか:「アーノルド様、あなたの『裏切りの瞬間』はどうだったのでしょう?」


アーノルド:(苦い表情で)「私の場合、長い不満の蓄積が爆発した瞬間があった。1779年、フィラデルフィアで軍法会議にかけられた時だ。些細な物資調達の問題で、まるで犯罪者のように扱われた。サラトガで勝利をもたらし、この脚を犠牲にした私が!」(左脚を叩く)


光秀:「功績が認められない苦しみ...よく分かります」


アーノルド:「そうでしょう?私はタイコンデロガを奪取し、ケベック攻略戦で重傷を負いながら戦い、サラトガでは決定的な突撃を指揮した。しかし、昇進は他の者に譲られ、議会は私の戦費の請求すら渋った。1万2千ポンドの立替金...私財を投じて戦ったのに、『領収書が不適切』だと?」


ブルータス:「しかし、それで祖国を裏切るのは...」


アーノルド:「祖国?どの祖国だ?」(声を荒げる)「私が戦ったのは、自由と正義のためだった。しかし、大陸会議は腐敗し、無能な政治家どもが権力争いに明け暮れていた。ワシントン将軍は立派な方だったが、彼もまた議会の犠牲者だった。兵士たちは飢え、凍え、給料も支払われない。これが我々が求めた『自由』か?」


呂布:「なるほど、それで寝返ったわけか」


アーノルド:「1779年の5月、私は若い妻ペギーと結婚した。彼女の実家は王党派で、イギリスとのつながりがあった。彼女を通じて、イギリス軍のジョン・アンドレ少佐と接触した。最初はただの情報交換のつもりだった。しかし...」


あすか:「しかし?」


アーノルド:「ウェストポイント要塞の司令官に任命された時、決断した。この要塞をイギリスに引き渡せば、2万ポンドと准将の地位が約束された。私の功績に見合う、正当な評価だと思った」


光秀:「金銭が目的だったのですか?」


アーノルド:「金だけではない!」(激昂する)「名誉だ!認められることだ!私は商人の息子で、エリートではなかった。どんなに戦功を立てても、門閥のある者たちには敵わなかった。イギリスなら、私の真価を認めてくれると思った」


ブルータス:「結果はどうでした?」


アーノルド:(肩を落とす)「...失敗した。アンドレ少佐が捕まり、計画は露見した。私は命からがらイギリス軍に逃げ込んだが、約束された地位も金も、結局は幻だった。イギリス人からも『裏切り者』として軽蔑された」


呂布:「はは!結局どこでも同じか。裏切り者は信用されない」


あすか:「皆様、それぞれの決断の瞬間を伺いましたが、興味深い共通点が見えてきました。認められない功績への不満、権力者の暴走への恐怖、そして...」


光秀:「そして、引き返せない一点があった。私の場合、それは愛宕山での連歌会でした。『時は今 天が下しる 五月かな』...この発句を詠んだ時、もう後戻りはできないと悟りました」


ブルータス:「私の場合は、短剣を手にした瞬間でした。冷たい鉄の感触が、全てを現実にした」


呂布:「俺は丁原の寝所に入った時だ。あいつの寝顔を見て、『弱い』と思った」


アーノルド:「私は...ペギーに計画を打ち明けた時でしょうか。彼女は『あなたの決断を支持する』と言ってくれた」


あすか:(クロノスを操作して、4人の決断の瞬間の画像を空中に表示)「これらの瞬間が、歴史を変えた。では、次の質問です。その瞬間、『失敗』の可能性は考えましたか?」


光秀:「考えました。むしろ、成功の可能性の方が低いと分かっていた。信長様の他の武将たち...秀吉、勝家、一益...彼らは必ず仇討ちに来る。しかし...」


ブルータス:「しかし、やらねばならなかった」


光秀:「その通りです」


呂布:「失敗?考えたことがない。俺は呂布だ。誰が俺を止められる?」


アーノルド:「私は成功すると信じていた。ウェストポイントは難攻不落の要塞。これを手に入れれば、戦争の流れが変わると」


あすか:「でも、皆様の『裏切り』は、ある意味では失敗に終わっています。光秀様は三日天下、ブルータス様は内戦で敗死、呂布様は曹操に処刑され、アーノルド様は両国から軽蔑された」


光秀:「失敗...確かに、秀吉に討たれました。しかし、私の行動が無意味だったとは思わない。信長様の死によって、日本は別の道を歩むことになった」


ブルータス:「私も同じです。共和政は結局崩壊し、帝政になった。しかし、権力の暴走に抵抗することの重要性は示せた」


呂布:「俺は...」(少し考えて)「まあ、最後は縛り首になったが、それまでは好きに生きた。後悔はない」


アーノルド:「後悔...私にはある。家族に迷惑をかけた。息子たちは父の汚名に苦しんだ」


あすか:「後悔の有無も、それぞれですね。では、もう一つ伺います。その決断の時、誰かに相談しましたか?」


光秀:「斎藤利三と明智秀満には事前に相談しました。二人とも反対しましたが、最後は従ってくれた」


ブルータス:「カシウスが中心でしたが、約60名の元老院議員が関与していました。皆、共和政を守るという志は同じでした」


呂布:「相談?なぜ必要だ?俺が決めれば、それでいい」


アーノルド:「妻のペギー、そして義理の家族。彼らの支持があったから踏み切れた」


あすか:「つまり、呂布様以外は、誰かの支持や理解を必要としていたわけですね」


呂布:「弱いな、お前たちは。他人の同意がなければ動けないのか?」


光秀:「いや、違う。我々は自分の決断に確信を持ちたかったのだ。独りよがりではないことを」


ブルータス:「そうです。多数の賛同者がいることで、行為の正当性を確認できた」


アーノルド:「孤独な決断ほど、恐ろしいものはない」


呂布:「だから失敗したんだ。迷いがあったから」


あすか:「迷いがなかった呂布様も、結局は失敗していますが?」


呂布:「...それは、運が悪かっただけだ」


(一同から苦笑が漏れる)


あすか:「さて、皆様の『裏切りの瞬間』について深く掘り下げてきましたが、ここで視聴者からの質問が来ています」(クロノスを確認)「『もし、その瞬間に現代の価値観や知識があったら、同じ決断をしましたか?』という質問です」


光秀:「現代の価値観...民主主義ということですか?それがあれば、確かに別の方法があったかもしれません。しかし、戦国の世では...」


ブルータス:「現代なら、選挙という方法がある。暴力に訴える必要はなかった。その点では、我々の方法は間違っていたのかもしれません」


呂布:「現代?知らんな。ただ、どの時代でも強い者が勝つ。それは変わらない」


アーノルド:「現代なら、メディアを使って不正を告発できる。SNSとやらで、真実を広められる。そういう手段があれば...」


あすか:「時代の制約の中での決断だったということですね。では、第1ラウンドの締めとして、皆様にお聞きします。あの決断の瞬間、最も恐れていたことは何でしたか?」


光秀:(長い沈黙の後)「...歴史に、ただの謀反人として記されることです。私の真意が理解されず、ただ主殺しの汚名だけが残ることを恐れていました」


ブルータス:「私は...カエサルの目を恐れていました。刺した瞬間、彼と目が合った。失望と...哀れみの目でした。あの目が、今も忘れられない」


呂布:「恐れ?...強いて言えば、赤兎馬を失うことか」


(一同、呆れた表情)


アーノルド:「私は...子供たちの顔を思い浮かべていました。もし失敗したら、彼らはどうなるのか。それが最も恐ろしかった」


あすか:「恐れを抱きながらも、決断した。その勇気なのか、蛮勇なのか...」(クロノスを見る)「それでは第1ラウンドはここまでです。皆様の『裏切りの瞬間』、その生々しい真実を聞かせていただきました。次の第2ラウンドでは、『忠誠とは何か』について、さらに深く議論していきたいと思います」


(砂時計の砂が、静かに落ち続ける音だけが響く。4人の裏切り者たちは、それぞれの記憶と向き合いながら、次なる議論への準備を整えていく)

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