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オープニング

(暗転していたスタジオに、紫と深紅のライティングが徐々に点灯。壁面には本能寺の炎上、フォロ・ロマーノでのカエサル暗殺、三国志の戦場、バレーフォージの雪中行軍の映像がプロジェクションマッピングで流れる。中央のコの字型の黒い大理石調テーブルの真ん中に、古めかしい砂時計がゆっくりと砂を落としている)


(舞台袖から、黒いドレスに赤い薔薇のコサージュを胸元につけた30代の女性が登場。手には銀色に輝く不思議なタブレット「クロノス」を持っている)


あすか:「こんばんは、『歴史バトルロワイヤル』の時間です。私は物語の声を聞く案内人、あすかです。今夜のテーマは...『裏切りは悪か?』」


(クロノスを優雅に操作すると、空中にホログラムのように「裏切り」という文字が浮かび上がる)


あすか:「裏切り...なんと甘美で、そして苦い響きでしょう。人類の歴史は、ある意味、裏切りの連続でした。友を売り、主を討ち、国を捨てる。それは単純に『悪』と断罪できるものなのでしょうか?」


(砂時計の砂が落ちる音が静かに響く)


あすか:「このクロノスが示すデータによれば、歴史上の大きな転換点の実に67%に、何らかの『裏切り』が関与しています。裏切りなくして、今の世界は存在しなかったかもしれません。今夜は、その当事者たちに直接お越しいただき、真実を語っていただきましょう」


(クロノスを高く掲げる)


あすか:「それでは、時空を超えて、一人目のゲストをお呼びします。天正10年、1582年6月2日未明、京都本能寺にて主君・織田信長を討った男。戦国の教養人にして、日本史上最も有名な裏切り者...明智十兵衛光秀様!」


(舞台奥に青白い光の渦が現れ、スターゲートが形成される。その中から、紺色の直垂に身を包んだ初老の武将が静かに歩み出る。額には深い皺が刻まれ、鋭い眼光の中にも知性が宿っている)


光秀:「これは...不思議な場所だ。まるで、夢と現の境のような...」(周囲を見回し、一礼)「明智十兵衛光秀にございます。まさか、このような場で己の決断を語る日が来ようとは...」


あすか:「ようこそ、光秀様。442年の時を超えてお越しいただきました。どうぞ、こちらへ」(席を示す)


光秀:(着座しながら)「442年...そんなに経ったのか。して、私の行いは、後の世でどのように...いや、それは後ほど伺うとしよう」


あすか:「続いて、二人目のゲスト。紀元前44年3月15日、元老院議事堂にてガイウス・ユリウス・カエサルを暗殺した共和主義者。『ブルータス、お前もか』の言葉と共に歴史に名を刻んだ男...マルクス・ユニウス・ブルータス様!」


(スターゲートが再び輝き、白いトーガを纏った若い貴族が現れる。端正な顔立ちだが、その表情には深い憂いが宿っている)


ブルータス:「なんと...これが2000年後の世界か。」(右手を胸に当てローマ式の敬礼)「諸君に挨拶を。マルクス・ユニウス・ブルータスだ。私の行為が今も議論されているとは、歴史の皮肉を感じる」


光秀:(ブルータスを見て)「西洋の方か。して、あなたも主君を...?」


ブルータス:「主君、か。カエサルは確かに私の恩人だった。だが、彼は共和政を破壊しようとした。私はローマを選んだのだ」


あすか:「お二人とも、権力者を倒した点では共通していますね。さて、三人目のゲストは少し毛色が違います。後漢末期、その武勇で『飛将』と呼ばれながら、二度も養父を殺し、幾度となく主を変えた男...呂布奉先様!」


(スターゲートが赤く燃え上がるように輝き、その中から赤い鎧に身を包んだ大柄な武将が、方天画戟を片手に豪快に踏み出してくる)


呂布:「ほう、面白い仕掛けだな!」(方天画戟を床に突き立てる音が響く)「俺を呼んだのは誰だ?」


あすか:「私です、呂布様。武器はそちらに」(端の武器立てを示す)


呂布:(舌打ちしながら方天画戟を置く)「ふん、裏切り者の集まりか。面白い。で、この軟弱そうな連中は何者だ?」


光秀:「軟弱、とは聞き捨てなりませんな。明智光秀と申す」


ブルータス:「私はブルータス。ローマの市民だ」


呂布:「ローマ?聞いたことがないな。まあいい」(豪快に着座)「それで?俺に何を聞きたい?」


あすか:「まあまあ、呂布様。最後のゲストをお呼びしてからにしましょう。四人目は、アメリカ独立戦争の英雄でありながら、祖国を裏切った男。その名は今もアメリカで『裏切り者』の代名詞...ベネディクト・アーノルド様!」


(スターゲートが星条旗の色に輝き、大陸軍の青い軍服を着た中年の軍人が現れる。左脚を少し引きずっているが、軍人らしい威厳を保っている)


アーノルド:「1776年の精神は、どこへ行ったのか...」(周囲を見回し)「私はベネディクト・アーノルドだ。裏切り者...その烙印を押されて200年以上か。真実を語る機会を得られて光栄だ」


呂布:「はっ!また偉そうなのが来たな。お前も裏切り者か?」


アーノルド:「裏切り者?私は正当な評価を求めただけだ。サラトガで勝利に導いたのは誰だ?この傷ついた脚で戦い続けたのは誰だ?」(左脚を叩く)


光秀:「お気持ちは分かります。認められぬ功績ほど、人を苦しめるものはない」


ブルータス:「しかし、個人の不満で国を売るのは...」


アーノルド:「国を売る?違う!大陸会議こそが独立の理念を裏切ったのだ!」


あすか:「皆様、熱くなるのは分かりますが、まずは席について、お互いを知ることから始めましょう」


(全員が着座。光秀とブルータスが向かい合い、呂布とアーノルドが向かい合う形に)


あすか:「改めまして、今夜のテーマは『裏切りは悪か?』です。皆様は歴史上、最も有名な『裏切り者』として名を残しています。まず、このテーマをどう受け止められましたか?光秀様から」


光秀:「悪か、と問われれば...」(少し間を置いて)「歴史がそう断じたのでしょうな。私は『主殺し』『三日天下』と嘲笑われる。しかし、私には私の大義があった。信長様の天下統一は確かに見事だった。だが、その先に何があったか...比叡山の焼き討ち、一向宗の虐殺...あのまま進めば、日本は血の海になっていた」


ブルータス:「大義、か。その言葉、よく分かる。悪とは何か、という定義から始めるべきでしょう。私は共和政という善のために行動した。カエサルは確かに偉大だった。だが、王になろうとした。我々の祖先が追放した王政を復活させようとしたのだ」


呂布:「はっ!善悪など強者が決めるもの。俺は生き残るために最善を尽くしただけだ。丁原も董卓も、俺の力を利用しようとした。なら、俺も奴らを利用して何が悪い?」


アーノルド:「利用...その通りだ。裏切り?私は正当な評価を求めただけだ。むしろ裏切られたのは私の方だ。戦場で血を流したのは我々なのに、議会の政治家どもは安全な場所から命令するだけ。功績は横取りされ、傷ついた身体は顧みられない」


あすか:「なるほど、皆様それぞれに『正義』があったわけですね。光秀様とブルータス様は『大義』のため、呂布様は『生存』のため、アーノルド様は『正当な評価』のため...」


呂布:「正義?くだらん。要は自分のためだろう、皆」


ブルータス:「違う!少なくとも私は...」


光秀:「いや、呂布殿の言葉も一理ある。我々は皆、自分の信じる何かのために行動した。それを他人がどう呼ぶかは...」


アーノルド:「偽善だな。結局、我々は皆『裏切り者』だ。ただ、その言い訳が違うだけだ」


あすか:(クロノスを見ながら微笑む)「早速議論が白熱してきましたね。では、これから4つのラウンドに分けて、じっくりとこのテーマを掘り下げていきましょう。第1ラウンドは『裏切りの瞬間』。皆様がその決断をした、まさにその時の心境を伺います」


(砂時計の砂が音を立てて落ち続ける中、4人の「裏切り者」たちの本格的な議論が今、始まろうとしている)

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