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悠久の放浪者  作者: 神田哲也(鉄骨)
第二章「領都ハンシューク:命を背負う歩み」

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第九十九話「爆足」

 あの初撃さえ当たっていれば――。


「戦い見てたけど、惜しかったよね」


 そう言って、隣を走るクェルが笑った。


『ほんとにねー』


 リラの声が、頭の中に響く。

 確かに。あの初撃が当たっていたら、もっと楽に決着がついていた。だが現実はそう甘くない。今はこうして村へ向かって走りながら、軽く反省会をしているところだ。


「村長、驚いてたね」

「討伐があまりに早すぎたからな」


 俺たちの討伐は思いのほかスムーズに終わった。アカキツネの魔獣――それなりに手ごわい相手だったはずだが、クェルがすごいのか。いずれにせよ、討伐証明の魔石を提示したら、村長は目を丸くしていた。


「毛皮も肉も全部置いてきちゃったけど、よかったのか?」

「いいのいいの。荷物になるし、村の人たちも助かるしね!」


 本来なら、倒した魔獣の素材は俺たち討伐者のものだ。でもクェルはそれにこだわらないらしい。あっさりと、村に譲ってしまった。こういうところ、本当にさっぱりしている。


「ところでさ、ケイスケ」

「ん?」

「武器って、それしか持ってないの?」

「うん。これだけだな」


 腰の短剣を軽く叩く。モンドさんが餞別としてくれた、俺の唯一の武器だ。

 クェルは目を細めて、俺を見つめた。


「じゃあ、ちゃんとしたのを持たないとね!」


 その言葉に、俺は視線を短剣に落とす。

 あの初撃。確かに剣が長ければ当たってかもな……。


「まあ、帰ったら武器屋にでも……でも、手持ちがなあ」


 冒険者ギルドに行くたび、他の冒険者たちの装備を見ては羨ましく思っていた。だけど剣、高いんだよな。ピンキリとはいえ、俺の今の所持金では、ちょっと厳しい。

 できれば納得のいくものを買いたいし……。それは贅沢なんだとわかってるが、やはり妥協はあまりしたくないと思ってしまうのだ。

 思い悩む俺に、クェルは言った。


「そっか。じゃあ、私のお古をあげようか?」

「……え、いいのか?」

「もちろん! 家に置きっぱなしでさ、もう使ってないの」


 クェルの言葉に、思わず彼女が女神に見えた。冗談じゃなく。


「いや、それでもありがたいよ。ありがとう」

「うん、じゃあギルドに報告したら、私の家に行こっか!」


 彼女の明るさにつられて、俺の足も自然と速くなる。


「お? ちょっと早くなったねー!」


 クェルも軽く笑って、俺の速度に合わせてくる。

 走りながら、クェルがふと話題を変えた。


「そういえばさ」

「うん?」

「ケイスケの肉体強化魔法って、どこで習ったの?」

「ミネラ村の元冒険者だよ。知り合いで」

「へえー……なんというか、ちょっと中途半端だよね」

「え?」


 ずいぶんストレートな言い方だが、クェルに悪気がないのはわかっている。


「中途半端? どこら辺が?」

「だからさ、私が教えてあげるから、覚えてね!」


 クェルに教わる? それは嬉しい。特に、あの『爆足』の所以であるだろう踏み込みは、ぜひ盗みたい技術だ。


「クェルの踏み込み、教えてもらえるのか?」

「うん、もちろん! こうやってね、足をグッと力込めて、バッと地面を蹴るの!」


 クェルの足元で小さな爆発が起き、その姿はロケットのように加速する。


 ……まあ、予想通りだ。

 こいつ、絶対脳筋だと思っていたが、言語化できない感覚派。

 いや、諦めるのはまだ早い。冒険者ギルドにはきっと理論派もいる、はず。今は俺の知り合いが脳筋タイプばかりというだけで――。


「って、走りながらとか難易度高いんだけど!?」


 すでに俺は肉体強化魔法を使って走っている。この状態にさらに“爆足”を上乗せするなんて……。技術的には、かなりきつい。


「んー、大丈夫大丈夫! 最初はちょっと力を込める感じで踏み込んでみなって!」

「簡単に言ってくれるなよ……」

「騙されたと思ってやってみなって! ほらほら!」


 言われるがまま、タイミングを見計らって――。


「――お?」


 スピードが、グンッと一瞬だけ跳ね上がった。風を切る感覚が違う。


『できたねー!』

「そうそう、その感じ!」


 リラとクェルの声が重なって、俺は思わず笑った。


「なんか、普通にできたな……」


 感覚はつかめた気がする。思ってたより、ずっとシンプルだ。

 それからも俺は走りながら何度か試して、ようやく領都ハンシュークに到着。城壁の外には、入場待ちの列ができていた。


「うーん、クェルみたいにはいかないな……」


 もっと練習する必要がある。だけどこの列から抜けてまですることじゃないしな。

 なんとなく掴んだ感覚で、もっとうまく爆足の技術を磨きたい。俺はそんな思いが強くなっていた。


 俺の呟きに、隣でクェルがぽつりと口を開いた。


「見てたけどさ、ケイスケって魔力量はすごく多そうなのに、一気にドカンって出すのが苦手だよね」

「一気に、か」

「うん。走ってる時はずーっとちょっとずつ出してる感じだけど、踏み込みとか一瞬で出すとこが弱いなって」


 なるほど。確かにそうかもしれない。魔力量はあるのに、使い方が下手――そういうことか。


「それって、どうやって練習すればいいんだ?」

「え? どうって、気合?」


 ……はい、きた。


 まあ、そういう返事が返ってくるだろうとは思ってたよ。


最後までお読みいただきありがとうございます!

あなたの貴重なお時間を物語に使っていただけたこと、とても嬉しく思っています。

ちょっとでも楽しんでいただけたなら、何よりです!


もし「いいな」と思っていただけたら、

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コメントも大歓迎です。今後の執筆の原動力になりますので、

どんな一言でも気軽に残していただけたら嬉しいです。


これからも【悠久の放浪者】をどうぞよろしくお願いします!

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