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悠久の放浪者  作者: 神田哲也(鉄骨)
第二章「領都ハンシューク:命を背負う歩み」

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第九十話「その討伐報酬、修繕費込み」

「……でさあ、その魔獣、最後には大爆発しながら沈んでったんだよ! いやあ、もう、ド派手だったなあ!」


 依頼達成報告。

 本来なら依頼達成の証を依頼主からもらい、それをギルドに提出して終わりなのだが、やはり銀級の受ける依頼というのは、もっと詳細な報告が義務付けられているらしい。

 しかしクェルがケラケラと笑いながらそう話す姿は、ただの談笑かと錯覚するほど。

 俺は椅子に座ったまま、ただ目を瞬かせるしかなかった。ステラさんは目の前で報告書を読みながら、眉間に皺を寄せている。


 ラプトワ大河に出現した魔獣討伐。それが今回の依頼だったという。相手は「白頭海豚」と呼ばれる水棲魔獣。水流を操る力を持ち、漁師たちの船を次々に沈めていたらしい。


「一緒に乗り込んだ漁師のおじちゃんたちが、もう腰抜かしちゃってさ。『あんた、化け物だ!』って褒められたよ!」

「それ、褒められてたとは思えないけどな……」


 俺がそう呟いた直後、ステラさんが静かに口を開いた。


「……ここまでの貴方の報告に問題はありません」

「ほっ」


 クェルが胸をなでおろす。


「ですが、クェルさん。報告していないこと、ありますよね?」

「えっと、なんのこと、かなあ? えへへ、私わかんないかもしれない」

「わかんないではありません! 貴方、一緒に依頼を受けた他の冒険者をどうしたんですか! 報告はあがってますよ!」

「げげっ!」


 あからさまに顔を青くするクェル。


「壊した漁船五十七隻。倒壊した建物二十三棟。負傷者八十九名。その他、漁網や銛など物品破損多数。そして――」


 俺は思わず息をのんだ。数字の並びに、脳が処理を拒否しかける。


「そして、共同作業した王国騎士団及び冒険者十二名の負傷。教会から派遣された助祭は疲労困憊にて現在も昏睡中」

「え? そうなの? あの人、根性ないなー」

「クェルさん! そもそもヘズン助祭が昏睡状態になったのは、貴方が出した人的被害の為ですよ!」


 ヘズンさん? 今、ヘズンさんって言った?

 この間行ったときに彼の姿はなかったが、もしかして、この依頼の要請があったからなのか?


「うっ!」

「確かに魔獣は討伐しましたよ! でも、こんなに被害を出すとは何事ですか!」

「だ、だって、あの魔獣強かったんだよ? 仕方がなかったんだよー?」

「確かに巨大な魔獣です。銀級の貴方が赴かなければ討伐は難しかったのかもしれません」

「でしょでしょ!」

「でも!」


 ステラさんの追撃は止まらない。


「でもですよ! こんなに人に迷惑をかけて、物を壊すとは何事ですか! ……今回の討伐報酬から、漁船と建物の補修費用は天引きになりますからね」

「そっかー、それは仕方がないか」


 クェルはあっさりと受け入れた。普通なら怒るところだと思うのだが、この人はどこまでも自由だ。


 ……とはいえ、死者が出なかったのは凄いよな。

 それだけの被害を出しながら、死者ゼロ。奇跡か計算か――たぶん、その両方なのだろう。


「ですが、死者を出さなかったことに対しては特別報酬が出ます。これは補修費用の天引きと同額となりますね」


 ステラさんの言葉に気づく。

 これ、実質お咎めなしってことじゃないか?


『人間、見た目じゃわからんもんだねー』


 リラがぽつりと念話で呟いた。全くだ。


「全く……今回は死者がいなかったから良かったものの、気を付けてくださいよ」

「はーい」


 クェルは反省している様子が……見えない。でも、たぶんしてるのだろう。たぶん。


「あと」

「ん? まだあるの?」

「ケイスケ君はまだまだ若くて新人ですが、有望な冒険者です。いつものように、ではなく。……わかりますね?」

「わかってるよ! 大丈夫大丈夫」


 その「いつものように」が何を指すのか、詳しくは聞きたくない。だが、ステラさんがわざわざ念押しするということは、相当な前科があるのだろう。


 ……いや、怖い。怖すぎる。


「じゃあ、話は終わりでいい?」

「そうですね。そういえばケイスケ君、鉄級になったことでギルドの銀行口座が作れるようになりましたけど、どうしますか?」

「あ、お願いします」


 そういえばそうだった。鉄級に昇格したことで、専用口座が持てるようになると聞いていた。


「わかりました。じゃあ手続きしちゃいますね。明日以降なら口座はできていると思うので、またカウンターに来てください」

「わかりました」


 話が終わり、俺たちは小部屋を出た。


「じゃああんた、ケイスケだっけ? 早速これから依頼に行く?」


 ギルドの入口を出たところで、唐突にそう切り出してきたのは、銀級冒険者のクェルだった。

 小柄な体に似合わぬ大きな長剣を背負い、どこか獣じみた空気を纏った彼女は、ギラギラとやる気に満ちた目をこちらに向けている。俺はその視線に思わずたじろいだ。


「いや、ちょっと流石に一旦家に帰りたいんだけど? お世話になってる人に報告くらいしておきたいし」


 すぐに依頼に行こうって言われても、こっちにはこっちの段取りがある。リームさんたちには、一泊の依頼に出るとは話していたが、しっかりとした報告はまだしていない。


 これが現代日本なら、電話やメッセージ一本で済む話なんだけどな。こっちじゃ通信系の魔道具はまだ見かけていないのが現状だ。


「そうなの? じゃあちゃっちゃと行ってきて、戻ってきなさいよ」

「え? 今から帰って戻ってくると、もう夕方になっちゃうけど?」

「ん? 別にいいじゃない」


 ……この人、何言ってんの?


最後までお読みいただきありがとうございます!

あなたの貴重なお時間を物語に使っていただけたこと、とても嬉しく思っています。

ちょっとでも楽しんでいただけたなら、何よりです!


もし「いいな」と思っていただけたら、

お気に入り登録や評価をポチッといただけると、とても励みになります!

コメントも大歓迎です。今後の執筆の原動力になりますので、

どんな一言でも気軽に残していただけたら嬉しいです。


これからも【悠久の放浪者】をどうぞよろしくお願いします!

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