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悠久の放浪者  作者: 神田哲也(鉄骨)
第二章「領都ハンシューク:命を背負う歩み」

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第五十七話「追加機能」

 夜の静寂の中、俺は腰の剣を抜き、月明かりの下で素振りを続けていた。

 涼しげな夜風が木々の葉を揺らし、時折、細い枝が風に震える音が響いてくる。辺りは暗く、火の灯りもない。だが、剣を振るには、これくらいの静けさが丁度いい。


「……ふっ……はっ……」


 息を吐きながら、一定のリズムで剣を振る。

 村を出てから数日。夜の時間を使って、こうして剣を握るのがすっかり習慣になってしまった。

 別に剣士を目指しているわけじゃない。けれど、いつ何があるかわからない世界で、剣を扱えるに越したことはない。


 それに――。


「肉体強化の魔法も……少しは馴染んできた、かな」


 魔法で肉体を強化し、体を動かす。最初の頃は妙な違和感があったが、今ではそれも薄れてきて、かなり自然に動けるようになってきた。

 しかし、気になることがある。


「……一向に魔力が尽きるとか、そういう感覚がないんだよなあ」


 汗ばむ額をぬぐいながら、呟く。

 体内を魔力が巡っている感覚は、今でははっきりと感じ取れる。まるで暖かな流れが、血管の中を流れているかのように。しかし、その魔力が減っていく感覚がまったくない。どれだけ魔法を使っても、枯渇する兆しすら見えない。


「魔力が多いってことなんだろうけどな……」


 これも異世界転移チートなのか、どうなのかはわからない。

 しかしミネラ村の司祭さまが言っていたが、魔力が多く、基礎魔法をいくら使っても枯渇しない人は珍しいがいないわけではないらしかった。


 魔法の適性を調べる機械があるっていうんだから、魔力量を測る機械ってのもあるのかもしれない。


『魔力が多いのはいいことだよー。魔法使い放題ー!』


 夜の闇の中で、さらに闇の濃い小さな人型が話しかけてくる。

 今は夜ということもあり、俺の影から出て近くの岩の上に座っているのは光の精霊リラ。


 俺は苦笑しながら腰を下ろし、スマホを取り出す。

 この世界では、普通なら存在しないはずの機器。けれど俺にとっては、これがあるだけで随分と心強い。……もっとも、普通のスマホとは違って、色々と機能が変わってしまってはいるけれど。


 ミネラ村を出発したあと、スマホに新たに解放された機能があった。

 それが、魔素のスワップ機能。

 設定した項目の同期を、別の項目の同期に割り充てることができる機能だ。


 魔素。


 この世界に満ちている、魔法や精霊の源ともいえる存在。以前はそれぞれの属性の値だけを意識していたが、それもこの魔素の一つに過ぎないことを、リラが教えてくれた。情報の媒介であり、力の根源。そして俺は今その魔素との同期率をスマホで確認できる。


 画面に表示された、今の同期状況はこんな感じだ。


 ---


 魔素との同期:7%

 風素との同期:3%

 火素との同期:5%(自動スワップ設定中)

 水素との同期:2%

 土素との同期:3%

 光素との同期:25%(自動スワップ設定中)


 ---


 光素はもう25%まで上がっている。ミネラ村で光の魔法が使えるようになったのは15%のときだったから、今ならもっと上手く扱えるはず。

 ただ、今はあえて光素を自動スワップ設定をして、スワップ先を火素に設定している。リラと一緒に過ごすことで光素が上がっていたはずだから、その分を火素の同期率に充てるというわけだ。


「多分、火素が15%くらいになれば、火の魔法も使えるようになるんだろうな……」


 光素での経験からの推測にすぎないが、魔法を使うにはある程度の同期が必要なのは確かだ。

 5%の今では、いくら試しても火の魔法は使えなかった。まずは15%を目指して地道に同期を上げていくしかない。

 スマホを握りしめたまま、空を見上げる。月が高く、雲はほとんどない。

 こうして、魔素を操ることができるのは、正直、楽しい。まるでゲームみたいで、童心に返るような気持ちになる。いや、むしろ――。


「魔法を使えるのが、こんなに楽しみだなんてな」

『ケイスケ、笑ってるね。楽しみなのー?』

「ああ、楽しみだよ。とても」


 それにしても、スワップ機能。新しく開放されたこれも、なんだかブロックチェーン関連であったような機能だ。

 色んな通貨が乱立している中で、それぞれの通貨を橋渡ししたりするような機能が、ウォレットにあったりしたものだ。


 今はもうその技術に触れることもない。


 似たような機能に、なんだか無性に懐かしいような気分になった。


「領都までは、あと三日か……」


 リームさんの話では、領都には彼の家があり、一か月ほど滞在する予定らしい。

 その間にも、火素の同期は上がり続ける。領都を発つ頃には、火の魔法が使えるようになっているかもしれない。


『紅き精霊たちよ。小さき小さく顕現し給え……ビュンテ』


 試しに火の魔法の詠唱を唱えてみる。


 しかし、何も起こらなかった。


 詠唱は覚えている。ロビンの練習に付き合っていたときに、何度も耳にしたから。


 それに、領都には「魔法書」というものもあるらしい。

 各系統の魔法の詠唱や理論が書かれたものだとか。ただ、高価で貴重なため、簡単には手に入らないだろうけど。


「神学校には……あるのかな。魔法書」


 ふと、ミネラ村の教会で神父からもらった推薦状を思い出す。俺には光の魔法の適性があると言われ、神学校への道も示された。

 そこに行けば、もっと多くの魔法に触れられるかもしれない。魔素を、より深く理解できるかもしれない。


 そんな未来を思い描きながら、俺は再び立ち上がり、剣を握った。

 火の魔法を使う日も、きっと遠くはない。


 今はただ、その日が待ち遠しかった。


最後までお読みいただきありがとうございます!

あなたの貴重なお時間を物語に使っていただけたこと、とても嬉しく思っています。

ちょっとでも楽しんでいただけたなら、何よりです!


もし「いいな」と思っていただけたら、

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コメントも大歓迎です。今後の執筆の原動力になりますので、

どんな一言でも気軽に残していただけたら嬉しいです。


これからも【悠久の放浪者】をどうぞよろしくお願いします!

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