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悠久の放浪者  作者: 神田哲也(鉄骨)
第一章「異世界スタート地点:ゴブリンの森と優しき村」

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第五十五話「旅立ち」

今回の話が第一章の最終話になります!

 朝日が村の屋根を優しく照らし、爽やかな風が草木を揺らしている。

 俺は荷物を整え、馬車の横に立っていた。


 ミネラ村で過ごした時間が思い返される。

 光の魔法を使い始めたこと、オーブリーさんの書類仕事を手伝ったこと、まだら熊討伐、誘拐事件、裁判――。

 一か月とは思えないほど濃密な日々だった。


 俺が去ると知っていても、村人たちは悲しむ様子を見せなかった。

 昨夜の宴会でたくさん話して、たくさん泣いたからかもしれない。


「じゃあ、本当にお世話になりました!」


 俺が頭を下げると、オーブリーさんが力強くうなずいた。


「こちらこそ! 来年もまた同じ時期に来てくれよ!」

「善処しますー!」


 投げかけられる言葉に苦笑する。

 オーブリーさん、書類は自分で頑張って作ってください。


「ケイスケー! 僕、まだら熊を倒せるようになるからねー!」

「うん、頑張れよ!」


 リエトが両手を振りながら叫ぶ。

 まだら熊討伐はなかなかにハードルが高そうだ。


「ケイスケ、絶対に王都で会うわよ! 三年後よ! 三年後!」


 ロビンが真剣な眼差しで言う。

 彼女が順調に魔法学校に合格し、入学できるのは三年後だ。俺は神学校に入学するかわからないが、三年後に王都にいるようには絶対にしたいと思った。

 まだら熊討伐のあとから、彼女は魔法の勉強をかなり頑張っていた。その努力が報われることを願っている。


「うん、楽しみにしてる!」


 俺は手を振り、彼らの笑顔を目に焼き付けた。

 リームさんの「では、行くぞ」の合図で、馬車の荷台に乗り込み、その後ゆっくりと動き出す。

 馬車は歩くくらいから、やがて小走りほどのスピードになっていく。


 ロビンとリエトがしばらくの間、馬車を追いかけてきた。

 必死に走る二人の姿を見て、思わず笑ってしまう。


 やがて彼らは足を止め、大きく手を振った。

 俺も、それに応えるように立ち上がって大きく手を振り返した。


 村は次第に遠ざかり、やがて丘の向こうに隠れていく。

 俺は深く息を吸い、青空を仰ぐ。


『ケイスケ、寂しい?』


 影の中から、リラの声が響く。


「……そうだな、寂しいよ」


 村を離れるのは、少し胸が締め付けられるような気持ちだった。

 でも、それ以上に新しい旅への期待も膨らんでいた。


 リームさんが進路を確認しながら、俺に言う。


「まずは領都に向かう。それから南の村ウルムに寄って、ビサワへ行く予定だ」

「ビサワって、獣人の国でしたっけ?」

「ああ。だが国という名称を言っているが、実際は国家ではない。獣人や亜人の群れの集合体のような形だ。行こうとしているのは、人間に近しい者たちのところだな」

「獣人のほかに、ゴブリンやオーガ、トロール、ラミアやハーピー。あとはエルフとドワーフ、小人族など、ですか」


 ビサワなど、サンフラン王国周辺のことは村で少し勉強した。

 なんでビサワはビサワとだけ呼ばれていて、前や後ろに王国とか、帝国とか、共和国とかつかないのかと不思議だったのだが、ビサワは国ではなく、どちらかといえば地域の名前であるらしい。

 ロビンはビサワを獣人のいる国と言っていた気がするが、獣人が一番割合が多いというわけで、実際は色々な人種がその地域には内包されている。

 ビサワは古い言葉で『集合体』という意味なのだそうだ。

 その名の通り、ビサワは多種多様の種族が暮らす広大な地域であり、誰か統治者がいるわけでもない。いるのは各種族の代表だけで、それら代表者が話し合いをして縄張りを決めている。

 そんな方法でまとまるのかと思いきや意外とうまくいっているようで、小競り合い程度はあっても、大きな戦争などはないらしい。


 リームさんは俺の答えに満足したのか、満足そうに頷いた。


「そうだ。よく勉強しているな」


 にしても獣人、亜人……。

 こちらに来てまだ人間以外の人種はゴブリンにしか会ったことはないが、非常に気になる存在である。


 イテルさんがそんな俺の表情を見て、くすっと笑った。


「ふふっ、楽しみって顔をしてるわよ」

「そ、そうですか? でもまあ、そうですね、楽しみです」


 正直、顔に出てしまうくらいには、ワクワクしていた。

 未知の世界へ向かう。どんな人たちと出会い、どんな経験をするのか――考えるだけで心が踊る。


 俺は顔に出てしまっていたことが少し恥ずかしくて、それを誤魔化すために口を開いた。


「そうだ、御者のやり方を教えてくださいよ」

「ん? そうだな、やってみるか?」

「お願いします!」


 リームさんの隣に座り、手綱を握らせてもらう。

 しっとりと重い革の感触が手に馴染み、心臓が少し高鳴る。


「リームさん、この馬の名前は?」

「ジカ、だ」

「よろしくな、ジカ」


 ジカは穏やかに鼻を鳴らした。

 まるで俺の言葉を理解しているように、静かに進み続ける。


 春の穏やかな風が頬を撫で、前方には広がる草原。

 まだ見ぬ土地、まだ知らない人々、これからのすべてが新しい冒険の始まりだ。


 深呼吸をしながら、俺は前を見据える。

 馬車は緩やかに丘を下り、俺は新たな旅へと踏み出した――。




 その夜のこと。

 一人寝ずの番をしていた俺は、スマホを取り出して画面を開く。

 ステータスを開くと、光素の同期率が25%まで上がっていることを確認した。


「……なんか、結構上がったな」


 徐々に上がり続け。100%が上限だとして、4分の1は進んだことになる。


「最大値が100%以上はないよな…………ん?」


 ぼーっと画面を眺めると、不意にポップアップ画面が現れた。


 そこに表示されていたのは――。


『一部アップデートが完了しました。これにより、管理者機能の一部が解放されます』

「あえぇ!?」


 空に三つの月が浮かぶ夜の草原に、俺の変な声が鳴った。


最後までお読みいただきありがとうございます!

あなたの貴重なお時間を物語に使っていただけたこと、とても嬉しく思っています。

ちょっとでも楽しんでいただけたなら、何よりです!


もし「いいな」と思っていただけたら、

お気に入り登録や評価をポチッといただけると、とても励みになります!

コメントも大歓迎です。今後の執筆の原動力になりますので、

どんな一言でも気軽に残していただけたら嬉しいです。


これからも【悠久の放浪者】をどうぞよろしくお願いします!

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