第四十九話「ロビン捜索」
ロビンが連れ去られた。
それが村中に広まるまで、そう時間はかからなかった。
「ロビンが……連れ去られた!?」
犯行現場を見たのはリエトだった。涙目で震えながらも、必死に伝えようとする彼の証言が、すぐに村の大人たちを動かした。
「ゲズの仕業か!」
「まさか、あいつ……!」
「ロビンちゃんを連れ去っただと!?」
村は騒然となり、自警団を中心に捜索隊が編成された。モンドを筆頭にした村の男たちが、ロビンを探しに四方へ散らばる。
俺も当然、その輪に加わった。
ゲズの家が最初の捜索場所となったが――。
「もぬけの殻か……」
小さな小屋の扉は壊され、遠慮なくづかづかと土足のまま入る。
中には寝床と、小さな台所、乱雑に物が置かれている机、椅子、そして棚。
床には汚いままの皿や瓶などが転がっている。
なにやらすえた臭いもし、長くここに留まりたくはない環境だった。
家具や荷物はそのままだったが、ゲズ本人の姿はどこにもなかった。いや、姿だけじゃない。何かを持ち出した痕跡がある。衣服か、それとも別の何かか……?
「くそっ、やっぱり森か!?」
「森の小屋か?」
それを見て、自警団の男が言う。
「森へ向かったとしたら、あり得るな! ケイスケ、森の小屋に向かうぞ! ついてこい!」
「わかりました!」
「モンド、俺たちは念のため、別方面を捜索するぞ!」
「わかった、頼む!」
モンドと俺はすぐに村の外へ駆け出した。
ロビンが連れ去られてから、もうどれくらい経った? 焦燥感が胸の中で渦を巻く。
もし俺がもっと早く異変に気づいていれば――?
もし俺がもっと、ゲズの動きを警戒していたなら――?
もし俺がもっと早くに、ゲズを捕まえるように動いていたのなら――?
そんな後悔ばかりが頭をよぎる。
森がやけに遠く感じる。
太陽はすでに傾き、空は深い藍色に染まっていた。
「……まずいな」
モンドが呟く。
「夜の森は危険だ」
その言葉に、まだら熊との戦いが頭をよぎる。
「……夜行性の獣がいるってことですか?」
「それもそうだが、視界が悪く、周囲を確認できないんだよ」
確かに、道が整備されているわけでもない森の中だ。
今夜は多少の月あかりや星が空にあるが、森の中まで光は届かない。
でも、それなら――。
「俺が周囲を照らします!」
俺は光の魔法を発動した。二つの光球を生み出し、俺とモンドそれぞれの上空で漂わせる。
「なるほど、こりゃいいな! 行くぞ!」
「はい!」
森に入ると、すぐに湿った土の匂いが鼻をついた。獣の気配も感じるが、幸い今のところ姿は見えない。
しばらく進み、小屋にたどり着くが――。
「……いない?」
「ここ最近、利用した形跡もないな」
がらんとした室内を見渡す。埃がうっすらと積もっていて、人の気配は感じられない。
「じゃあ、どこへ……?」
焦りが募る。今、この瞬間にもロビンが危険にさらされているのに。
そのときだった。
頭の中に、澄んだ声が響いた。
『ケイスケー。探してる子は別の場所だよ。洞窟の中にあいつといるよー!』
「……リラ?」
俺は思わず、辺りを見回した。
いた。暗闇の中で、さらに暗い、黒で塗りつぶしたような存在が。
リラ――俺が『闇の精霊』と呼んでいる存在。
なんでこんなところに? あの納屋にいるはずのリラが?
『急ごうー。あの子、すごく怖がってる』
だが、今はそんなことはどうでもよかった。
リラの言葉に、俺の中の迷いは吹き飛んだ。
「モンドさん、ロビンは森の洞窟にいます!」
「洞窟だと!? 何故わかる!?」
「……信じてください!」
俺の言葉に、モンドは一瞬だけ驚いたような顔をしたが、すぐに険しい表情に戻り、頷いた。
「よし、案内しろ! それはどこだ?」
リラを見ると、『私が案内するよー! ついてきてー!』と、手招いている。
「……こっちです!」
俺は光球を前方に飛ばしながら、森の奥へと駆け出した。
『急いで―、急いでー!』
リラの声が頭の中に響く。まるで直接思考に語りかけてくるような感覚だ。横を走るモンドには、この声は聞こえていないようだった。
「ケイスケ、どうした?」
「いえ、なんでもないです。それよりも、急ぎましょう」
モンドは一瞬怪訝そうにしたが、すぐにそれを振り払った。今は細かいことを気にしている場合じゃない。俺たちは再び全速力で走り出した。
リラが闇の中を滑るように移動し、俺たちを導いてくれる。俺は彼女の動きを必死に追い、モンドもその後ろに続いた。
やがて岩場へとたどり着く。
鬱蒼とした藪に囲まれた場所に、ぽっかりと口を開ける洞窟があった。地面が少しえぐれ、下に向かって掘られている形状をしている。
『この洞窟だよ!』
足元を見れば、確かに人の足跡が残っていた。
ここに、ゲズとロビンが――。
「モンドさん、ここです」
「……隠れるには最適な場所だな」
洞窟の入口を前にして、モンドが低く唸る。彼の視線は鋭く、内部の様子をうかがっている。
「慎重に行くぞ。ひとまず、魔法は消してくれ」
「……はい」
俺は光の魔法を解除した。辺りは一瞬で闇に包まれるが、目が慣れれば、薄暗い中でもなんとか形を認識できる。
俺たちは音を立てないように慎重に足を進めた。
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