第四十三話「肉体強化魔法の訓練」
モンドの指導のもと、肉体強化魔法の訓練が始まった。
「じゃあ、これから肉体強化の魔法について教える!」
「よろしくお願いします」
「おう! まあ肉体強化魔法は、ドーピーって名前があるんだが、覚えなくても問題ないぞ。こいつは魔力があれば、基本的に誰でも使える魔法だ」
ドーピー……可愛らしい響きだが、由来はなんとなく察しがつく。魔力によるドーピングのようなものなのだろう。覚えやすくていいが、スポーツ競技とかがあったら確実に禁止されるやつだな。
「ケイスケは魔法は使えるから、すぐに使えるようになると思うぞ」
「おお!」
そいつは嬉しい。
「というわけで、まずは実演だな。……ほっ!」
そう言ってモンドは、その場で軽くジャンプした。大体50センチほど。普通のジャンプで、特筆すべき点はない。
「とまあ、普通に跳ぶとこんなもんだな。それで、次にドーピーを使って飛ぶと……ほっ!」
「おおー!?」
モンドの体がぐんと宙に浮いた。先ほどの倍以上、人の背丈よりも高く跳び上がる。2メートルくらいか?
プロのバスケットボール選手でも、こんな跳躍はできないだろう。まさに異世界の魔法の力を見せつけられた気分だった。
「とまあ、こんな感じで肉体能力が強化される。ちなみにすごいやつは、俺の5倍は跳べるぞ」
「そんなにですか……。普通に怖そうだな」
モンドの今のジャンプの5倍となると、10メートルくらい? 3階建ての建物の高さだ。そんな高さから落ちたら、普通ならただじゃ済まない。
「まあ、怖いかもなあ。ちなみに俺も体験したことはない」
そりゃそうだろうな。
「ともあれ、肉体強化の魔法だ。魔力を意識して、うおーっと力む感じだ!」
……うん、わかってた。モンドさんが理論的な説明とか苦手だってことは。
とりあえず言われて通りにやってみるが――。
「……魔力を意識するのってどうやるんです?」
そもそも、魔力がわからん。
「あ? そりゃ、体に流れてる魔力を感じて、それを燃やすような感覚だよ」
「体に流れてる魔力……?」
「お前……まじか? 魔法使えるんだろ? そのときにこう、体に魔力が流れる感覚あるだろ? それだよ」
魔力が流れてる感じ……?
試しに光の魔法を使ってみる。
『輝ける精霊たちよ、集い集いて白き煌めきを……フォティノ』
魔法が発動し、手のひらの先に白く輝く光球が出現する。
「お、光の魔法か!」
魔法は問題なく発動した。しかし――。
「魔力が流れる感覚……?」
やばい、全然わからない。
ぶっちゃけ、魔法は詠唱すれば使えると分かっているだけで、自分の中で何かが流れるとか、消費されるとかの感覚がないのだ。
そういえば、ロビンは魔法の練習で魔力を消費して辛そうにしていたが、俺にはその感覚がなかった。
「すみません、わからないです」
「ええぇ……? 魔法は使えるのに、どうなってんだ?」
それは俺が聞きたい。
「じゃあ、とりあえず座って瞑想してみろ。魔法を使う前の、魔力を感じる訓練なんだが……。順番が逆なんだよなあ」
「そんなこと言われても、わからないものはわからないんですってば」
言われた通りに座って、目を閉じる。
魔力を感じる……魔力を感じる……。
……。
……何も感じない。
「……無理です」
「早いな!? もうちょい粘れよ!」
「粘れって言われても……」
ため息をつくモンド。
「なんでこう、基本がぶっ飛んでるんだろうな、お前は」
「俺に聞かれても……」
「しょうがねえ、じゃあ違う方法でやるか」
「違う方法?」
モンドはそう言うと、腰の剣を引き抜いた。
「肉体強化なしで剣を受けてみろ。次に、俺の動きを真似して、肉体強化を使え。そんで、どんだけ違うのか体で覚えろ」
……要するに、まず普通に剣を受けてみろってことか。
木剣を渡され、モンドさんと向かい合う。
「いくぞ!」
「お願いします!」
モンドが踏み込んで、木剣を振り下ろす。
「っ……!」
受け止めようとした瞬間――。
「ぐっ……!?」
腕に衝撃が走る。
めちゃくちゃ重い。
何とか剣を振り払ったが、攻撃をまともに受けたせいで、腕がしびれている。
「これが普通の状態だ。次に、俺の動きをよく見て、真似してみろ」
モンドが再び構え、目を閉じる。そして次の瞬間、ぐっと体を踏みしめると――。
「……おらあ!」
その一言とともに、モンドの体が一瞬だけ力強く輝いたように見えた。そして、先ほどと同じ動作で木剣を振る。
それは音が違う。空気を切り裂くような速度だ。
「じゃあ、お前もやってみろ」
「……やれるかな」
「まずは力を込める感じでいい。魔力を意識できなくても、気合いでなんとかするんだ」
気合って……と思いつつも、俺はモンドの真似をしてみることに。
気合いで……力を込める……!
「おりゃー!」
――瞬間、俺の体に何かが流れた気がした。
「……今の!?」
「お、いいぞ! もう一回剣を振ってみろ!」
俺は今の感覚を思い出しながら木剣を振り下ろす。
――軽い!?
「やった、ちょっとだけできたかも!」
「よし、なら繰り返しやっていくぞ!」
こうして、俺の肉体強化魔法の訓練が始まったのだった。
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