第四十話「ミネラ村への帰還」
「モンド、お前、どうした!?」
村の門が見えた瞬間、門番をしていた村人が驚きの声を上げた。
俺たちは何とか村に戻ってきたが、モンドは腕から流血していたからだ。
荷物は全部俺とロビンで持ち、リエトは歩くことに必死で、もう息も絶え絶えだった。
ロビンとリエトを見ると疲れ果てた様子で、肩で息をしていた。
「……ああ、まだら熊がいてな。なんとか討伐してきたんだが、この様だ」
青い顔をしたモンドが淡々と答えると、門番の顔が青ざめた。
「まだら熊!? 大変じゃないか! ともあれ怪我してるんなら、早く教会へ行ってこい!」
「……ああ、悪いな。ただ、死骸がそのままになってるから、誰か回収をお願いしたいんだが、頼まれてくれるか?」
「わかった、二、三人募って行ってくる。場所は?」
「薬草の群生地の手前、岩場が続いてる辺りだ。獣道の途中だから、わかると思う」
「……あのあたりか。確かにまだら熊が出るには浅いな」
門番は険しい表情を浮かべたが、すぐに仲間を募るために走っていった。
「俺は二人を家に送り届けてきます。モンドは、先に教会で治療を受けてください」
「……わかった。お前も疲れてるだろうから、気をつけてな」
「はい」
モンドは肩を押さえながらそのまま教会へ向かい、治療を受けることになった。
俺はロビンとリエトを支えながら家へと歩いた。
家に到着し部屋にたどり着くと、二人は布団に倒れ込むように眠ってしまった。疲労と緊張が解けたのだろう。俺は毛布をかけてやると、大きく息をついた。
「……何があったんだい?」
振り返ると、オーブリーさんが心配そうに俺を見つめていた。
「……実は――」
俺は森での出来事を簡潔に説明した。彼は何度も驚きながらも、最後にはほっと息をついた。
「無事で良かった。だけど、本当に危なかったね……」
「はい。でも、何とかなりました」
「モンドの様子を見てくるよ。ケイスケ、君も少し休んだらどうだ?」
「俺も様子を見に行こうと思っていたので、一緒に行きます」
オーブリーさんと共に教会へ向かうと、ちょうどモンドが出てくるところだった。
モンドは俺に気づくと手をあげて笑顔を浮かべる。あげている腕は傷を負ったほうの手だ。
傷はすっかり癒えているように見えたが、血に濡れた服が痛々しい。
「もうなんともないから、心配するな」
あからさまに心配していることが顔に出たのか、モンドは言う。
「良かったー……」
大きく安堵の息を吐く。モンドが無事で、ようやく肩の荷が下りた気分だった。
「村長も、心配をかけました」
オーブリーさんに向き直り、頭を下げるモンド。
「あらましは大体聞いたよ。とにかく皆無事で良かった……。身を挺してリエトを守ってくれたそうだね」
「……いえ」
「最近はリエトにも剣を教えてもらっているし、助かっているんだよ。とにかく、今日は早く休んだ方がいいだろう。顔色がまだ悪い」
そう声をかけて、「じゃあ私は先に戻っているよ」と去っていくオーブリーさんをモンドと見送る。
自分の子供たちが危険な目に遭ったというのだから、オーブリーさんも子供たちが心配だろう。
目線をそんな一人の父親の背中から外してから、モンドが口を開く。
「お前のおかげで助かったよ、ケイスケ。でもあんな強い魔法を使って、魔力は大丈夫なのか?」
そういえば、ロビンはかなり辛そうにしていた。リエトも疲れ果てていたが、それは精神的なものだろう。しかし、俺自身は特に消耗を感じていない。
「大丈夫だけど……魔力切れ? そういえば、気にしたことがないな……?」
「本当か?」
モンドが驚き、呆れたように俺を見つめた。
「お前、本当におかしなやつだな……普通なら、魔法を使えば使うほど消耗するもんだが」
俺自身、なぜなのかはわからない。だが、今はその疑問よりも別のことが気になっていた。
「俺ひとつ聞いてもいいですか?」
「ああ?」
「まだら熊との戦闘中、モンドさんの動きが人間離れしていたように思うんだけど。いくら鍛えているからといっても、熊の首を一撃で落とせるものでしょうか?」
モンドさんは少し目を細めた後、苦笑いした。
「ああ、あれか。肉体強化の魔法を使ってるんだよ」
その言葉を聞いて、テンションがあがる。
やっぱりあるのか!? 肉体強化!
「今度教えてください!」
「……あー……、もっと基礎が身についてからだと思っていたんだが、お前なら大丈夫か。まあ、また今度な」
「ありがとうございます!」
「ただし、リエトには内緒だぞ」
「え?」
「肉体強化は確かに強力だが、それに頼りすぎると、いざ魔法が使えなくなったときに危機が訪れる。だから、まずは地力をつけるのが大事なんだ。リエトはまだ基礎を固める段階だからな」
なるほど……。確かに、魔法頼りではいざというときに危険だ。俺も基礎をしっかり固めた上で、使いこなせるようにならなければ。
「じゃあ、俺、そろそろ帰るわ」
その顔を見ると、確かに顔が青いような気がする。さっさと休ませた方が良さそうだった。
「わかりました」
モンドと別れた俺は、村長宅に戻った。ロビンたちはまだ眠っている。
衣類は変わっているから、ベッタさんが着替えさせたのだろう。
スー……、スー……、と規則正しい二つの寝息が聞こえてくる。
それを見て思う。
さすがに疲れた……。
明日になれば、また新しい日が始まる。今日はもう、ゆっくり休もう。
俺は軽く寝巻に着替えると、さっさと横になり、静かに目を閉じた。
意識が落ちるのは、あっという間だった。
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