第三十四話「剣の訓練」
俺はリエトと一緒に村を歩いていた。
「門番のモンドさんのところへ届け物だよ」
リエトはそう言いながら、小さな木箱を両手で抱えている。中には干し肉や乾燥パンが詰まっているらしい。
手伝おうかと聞いてみたが、「自分でやる」と断られた。リエトは意外にこだわりが強そうだ。
「朝の見回りが終わるころだし、ちょうどいいな」
俺たちは村の門の近くまで歩いていき、門番詰所の前に立った。
「モンドさーん! 届け物でーす!」
リエトが元気よく声をかけると、中から大柄な男が姿を現した。モンドだ。
がっしりとした体格に、年季の入った剣を腰に携えている。いかにも戦士といった風貌だ。
「おう、ありがとな」
モンドはリエトから荷物を受け取ると、箱の中を軽く確認して頷いた。
リエトが両手で持っていた木箱を片手で脇に抱えると、俺に向かって言った。
「そうだ、ケイスケだっけ? 今日も剣を持ってみるか?」
その申し出に、俺は頷いた。この前の話を覚えていてくれたらしい。
「ぜひお願いします」
「おうよ。ちょっと待ってろな」
そう言ってモンドは木箱を詰所に置きに行き、すぐに戻ってきた。
モンドは元冒険者で、数年前までギルドに所属していた。今はこの村で門番として働きながら、家庭を築こうとしている。奥さんはもうすぐ子供を産むらしい。
「まあ、まだ実感ないんだけどなあ」
そう言って頭をかくモンド。その表情はどこか照れくさそうだった。
「ねえねえ、冒険者の話を聞かせてよ! ケイスケも冒険者になりたいんだって!」
リエトの言葉に、モンドは豪快に笑った。
「おう、いいぜ! 暇だからな!」
そうして始まったのは、冒険者ギルドについての話だった。
冒険者にはランクがあり、石級、鉄級、銅級、銀級、金級と昇格していく。最上位の金級に達する冒険者は国内にほんの一握りしかいないらしい。
「金級なんて、国を代表するような連中だ。王様の護衛をやってるやつもいるくらいだからな」
「へえ……」
依頼の内容は、魔物討伐や採取、護衛、探索調査など多岐にわたる。さらには配達や工事の手伝いなんかもあるらしく、冒険者は何でも屋のような存在でもあるらしい。
実力主義で、やはり強さがものをいう世界であるらしいが、あまりに粗暴だったり不真面目だったりすると降格させられたり、資格を剥奪されたりもあるとのことだ。
「どんな人が登録してるんですか?」
「それも色々だな。貴族が登録してることもあるし、貧民が生きるために登録することもある」
ちなみに俺くらいの年齢の冒険者はいるのかと聞くと、モンドは少し言葉を詰まらせた。
「いるにはいるが……なあ」
どうやら、幼い冒険者は大抵貧民の子供らしい。そういう子供たちは悪質な冒険者に利用され、囮にされたり、荷物持ちにされたりと、ほとんど奴隷のような扱いを受けることが多いそうだ。
「ギルドも対策はしてるが、正直、焼け石に水ってとこだな。山賊なんかの犯罪組織が関わっていたりもするし、明るみになる話なんてきっと、氷山の一角ってとこだろう」
胸がざわつく話だった。
「だから、あまり急ぐなよ。どうしてもというんなら、できれば仲間と登録して、つるんだほうがいい」
モンドの忠告に、俺は素直に頷いた。
「まあなんだ、冒険者を目指すってんなら、俺が剣を教えてやるぞ!」
「いいんですか?」
「おう、見回りしてないときは暇だからな!」
そのやりとりを見ていたリエトが「俺もやりたい!」と、目を輝かせながら言った。しかし、モンドさんは苦笑いしながら首を振る。
「お前は村長に許可もらってからだなー」
「えー! ケイスケさんだけ、ずるい!」
「だめなもんはダメだぞ」
リエトは頬を膨らませたが、それでも諦めきれない様子だった。
「お父さんがいいって言ったら、僕も教えてくれる?」
「もちろんだ!」
「じゃあ今日は見てる!」
「おう、見てるだけならいいぞー」
そう言って、わははと笑うモンド。こうなれば、甘えさせてもらうしかない。
こうして俺は、毎日昼過ぎから剣を教わることになった。
「とりあえず、素振りだな! 毎日必ず百回以上はするように!」
「わかりました」
モンドが見本を見せながら、素振りの型を簡単に教えてくれる。手渡されたのは、木剣……というより、ただの木の棒だった。
「ひとまずは、それで扱いに慣れろよ」
俺は頷き、木剣を握りしめた。思ったよりも軽いが、これを振り続けるのはなかなか骨が折れそうだ。
そして、今度は組手へと移った。
モンドは剣だけでなく、拳や足、体全体を使った戦い方を見せてくれた。
「まずは相手の攻撃を受けないことが何よりだ。盾を持つにしても、まずは体を鍛えてからにしたほうがいい」
実践的な動きの基本をいくつか教わる。相手の動きを見極め、無駄なく避ける。力任せに戦うのではなく、流れるように動くことが大事だという。
見よう見まねで動きを真似る。あまり運動なんかしてこなかったのに、意外とすぐに動きのこつを押え、覚えることができた。
「よし、いい感じだな! ケイスケ、お前才能あるかもな!」
「まじですか!」
「おう、まじまじ」
それにモンドに褒められると、自然とやる気が出てくる。
自分の思い通りに動く体が面白くて、夢中になっていった。
こうして俺は、剣の訓練を受ける日々をスタートさせたのだった。
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