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悠久の放浪者  作者: 神田哲也(鉄骨)
第一章「異世界スタート地点:ゴブリンの森と優しき村」

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第三十三話「新しい仕事」

「お、終わったなら、か、片付けろ」


 ゲズが周りを見渡しながら、ぶっきらぼうに指示を出してきた。


「……言われなくともやるつもりだったさ。今の今まで作業していたんだから、そんな暇がなかっただけだろう」


 これだけの作業を一人でこなしたのだから、ただ指示するだけして、教えもしなかった人間に対して、反発したくもなる。


「お、お前、生意気だな!」


 ゲズの語気が強まる。向こうにとって俺はまだ子供かもしれないが、実際の年齢はもういい大人で、社会人経験もあるのだ。無駄な仕事を振るだけ振って、手伝いもしない態度には、言いたいことが山ほどあった。

 ゲズは俺の言葉に怒ったようだ。次の瞬間、近くにあった棒を手に取ると、思い切り俺の肩を殴りつけた。


「痛っ!?」


 なんてことをするんだ、この男は。

 実際、大した痛みではなかった。しかし、不意打ちだったこともあり、肩の痛みに驚き、殴られた事実に怒りが湧いて、思わず睨みつけた。

 それが気に入らなかったのか、ゲズの表情が一層険しくなる。


「な、なんだ、その目は!」


 そう叫ぶと、ゲズはもう一度棒を振り上げた。しかし――。


「ケイスケ―、終わったー!?」


 突然、ロビンの声が響いた。


「……ちっ!」


 ゲズは舌打ちすると、手に持った棒を下ろす。そして、何事もなかったかのように後ろを振り向いた。

 やがて、小走りでロビンが納屋へと駆け寄ってくるのが見えた。その姿を見ると、ゲズの表情はさっと和らぎ、先ほどまでの怒気を微塵も感じさせない態度に変わった。

 ロビンは真っすぐに俺のもとにやってくる。


「どうなの? 農具のお手入れは終わったの?」


 返事がないことをい不思議に思ったのか、再度尋ねてくるロビン。

 俺はゲズへの怒りが彼女に伝わらないように、努めて声を発した。


「……道具の補修は、できるものは全部終わったよ」


 俺がそう伝えると、ロビンは目を輝かせた。

 地面に並べられている農具の数はそれなりにある。手入れできるものは、すべて俺がやったものだった。


「すごーい! 二人でこんなに終わらせたんだ!」

「お、俺、道具の、て、手入れは得意、なんだ」


 ゲズはすぐさま、さも自分がやったかのように言った。

 いや、それは俺が一人でやったんだ、と訂正する暇もなかった。


「ケイスケもゲズも、すごいわ!」


 だが、訂正するまでもない。そう思ってしまったのがいけなかった。

 すごいすごいと褒めたたえるロビンに、鼻を伸ばすゲズが調子に乗る。


「へ、へっへっへ! お、俺が、教えてやった、んだよ、ロビンちゃん」

「そうなのね! 二人とも、とっても器用なのね!」

「え、えへえへ、そう、だよ。俺は、き、器用なんだ」


 ゲズの変わりように、見ていられない。

 俺は努めて冷静さを失わないように、ロビンに話しかけた。


「ちょっとこの農具を片付けなきゃだから、少し待っててくれ」

「わかったわ! でも私も手伝う!」

「じゃ、じゃあ、ロビンちゃんに、には、こ、これを」


 片付けは三人でやればさほど時間はかからずに終わった。

 まあ、ゲズはロビンにつきっきりで、またもほとんど仕事なんてしていないが……。


 それから俺はロビンに案内され、村長であるオーブリーさんの書斎へと向かった。


 書斎には大きな机があり、その上には大量の書類が積まれている。さすがは村の長というべきか。書類仕事も多いのだろう。

 オーブリーさんは俺の姿を認めると、手に持っていた書類を置いた。


「おお、ケイスケ、よく来たね」

「遅くなって申し訳ありません。それで、話というのは?」

「おお、おお。遅くなってなどいないから大丈夫だ」


 ひとまず座ってくれと言われ、俺は近くの椅子に腰を下ろした。


「聞いたんだが、ケイスケは計算ができるとか?」

「え、ええ。まあ、それなりには」

「ロビンに聞いたんだが、掛け算も、割り算もできるとか?」

「まあ、はい」


 おれの答えを聞いたオーブリーさんは目を輝かせる。

 その目はロビンにそっくりだった。


「それはいい! 実はだね、手伝ってほしいのだが……」


 そう言いながら、オーブリーさんは一枚の書類を俺に手渡してくる。

 オーブリーさんの顔を見ると無言で頷かれたので、書類に目を落とす。


「……これは?」


 タイトルに「ミネラ村」の文字があるのはわかる。書類の中央には数字が並んでいる。しかし、読めない単語が多かった。

 一見すると、何かの管理簿のような感じだ。

 顔をあげてオーブリーさんに向くと、彼はこれが何なのかを教えてくれる。


「これはこの村の財務報告書なんだがね。これから刈り入れもあって、収穫量のとりまとめもして収穫報告書も作らなければいけないし、人口報告書も作成しなきゃいけない。……ああ、そうだ。畑をこの一年で広げたから、土地利用報告書もか……。だから――」


 オーブリーさんは俺の前で立ち上がり、右へ左へと歩きながら話す。

 チラチラとこちらを見ながら。


「だから?」


 彼が言いたいことが分かってしまった。だが、俺はあえて聞いた。


「手伝ってほしいのは、事務仕事というわけですか?」


 パッと笑顔を浮かべるオーブリーさん。


「そうだ! 計算を手伝ってくれるだけでも助かるのだよ。頼むよ!」


 そう頼み込まれては、手伝わないわけにはいかない。


「わかりました。そこまで言うのなら……」

「ありがとう! 本当にありがとう!」


 オーブリーさんは、大げさに喜んでくれた。

 こうして俺は、村の財務や報告書作成に関わることになるのだった。


最後までお読みいただきありがとうございます!

あなたの貴重なお時間を物語に使っていただけたこと、とても嬉しく思っています。

ちょっとでも楽しんでいただけたなら、何よりです!


もし「いいな」と思っていただけたら、

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コメントも大歓迎です。今後の執筆の原動力になりますので、

どんな一言でも気軽に残していただけたら嬉しいです。


これからも【悠久の放浪者】をどうぞよろしくお願いします!

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