表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悠久の放浪者  作者: 神田哲也(鉄骨)
第四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

265/269

第二百六十五話「死霊の森は、初心者に優しくない」

大変長らくお待たせいたしました……。


 静かな森の奥。

 岩山の側面に、ぽっかりと口を開けた洞窟があった。


「……ここだ」


 俺の言葉に、背後の空気が一斉に張りつめるのがわかった。


「うわ……なんか、すげぇ嫌な感じすんな」

「……寒い……」


 ニトが顔をしかめ、ミルカが腕を抱く。

 トルトは無言だが、明らかに肩が強張っていた。


「ここが、リヴネの森……通称、死の森の地下迷宮ってわけね」


 ミルカが授業で習った知識を思い出すように言う。


「地表もダンジョン領域に含まれていて、生物は定住できないって……」


 ヘルヴィウスもまた怯えた表情で呟く。


「……中に入るけど、いいか?」


 俺に続いて、恐る恐る足を踏み入れる。

 洞窟の中へ一歩踏み入れると、空気は一変した。


 光が吸い取られたような暗さ。

 湿り気を帯びた冷気。

 通路の窪みには、いくつもの古びた棺桶。

 石造りの通路は、まるで地下墓地――カタコンベだ。


「……やっぱり、何度来ても気持ち悪いな」

『死霊系だしねー』

「出るなら早く出てきてほしいんだよな……。静かだと不気味すぎる」

『そのうち嫌でも出るよー』


 リラが影の中であっさり言う。

 洞窟の外は風の音だけ。中は俺達が歩く衣擦れ、足音だけ。


「うぅ……」

「……音、しないのが逆に怖い」


 ミルカとティマが身を寄せ合う。

 トルトは前を見据えたまま、ぎこちなく歩いている。

 皆が怖がっていることで、俺は逆に落ち着いていられている。


「初見でここは、まあまあ怖いよな」


 こんな冗談を言えるくらいには。


「まあまあどころじゃねえだろ」


 ニトのツッコミが響いた、その瞬間。


 ――ガタン。


「っ!」


 棺の蓋が、ゆっくりとずれる。


 中から、包帯だらけのミイラが起き上がり、

 床からは白骨が這い出てくる。


「で、出た……!」

「……本物の、アンデッド……」


 ヘルヴィウスが息を呑み、ティマは完全に俺の背後に隠れた。

 いや、魔物だがな。

 でも見た目は完全に人間の死体でしかない。


「落ち着け、弱点は――」

「頭だろ? 知ってる!」


 ニトが前に出る。


「おらあっ!」


 肉体強化魔法。さらに炎の魔法を乗せて。

 次の瞬間、ニトの拳がスケルトンの頭蓋骨を粉砕した。

 崩れ落ちるスケルトンは、そのまま風化するように消えていく。


「お、おお……」

「思ったより、あっさり……?」

「んだよ。手ごたえねーな」

「まあ、まだ浅層だからな」


 俺は説明しながら、次の魔物の頭を砕く。

 動きは遅いし、脆い。

 冷静に対処できれば、それほど怖い相手じゃない。この場所の雰囲気とビジュアルが悪いのだけが問題なのだ。


 ちなみにこんな怖い思いをしてまで何故ダンジョンに来たのか? それはこの世界において、ダンジョンは資源の宝庫であり、鍛錬の場だからだ。


『ダンジョンの中は魔素が濃からねー』


 リラが皆に向けて説明する。


『戦えば戦うほど、自然と魔素を吸収できるんだよー』

「つまり……」


 空気がプロテイン、ってやつだ。

 魔素濃度が高く、それを吸収することで、魔力や肉体により多くの魔素を取り込むことができるらしい。

 そして、魔物は魔素で体を構築している。いわば魔素の塊といえる。魔物を倒すことで、その魔素がより多く吸収できるというわけだ。

 なんだかゲーム的だが、そういうことらしい。


 だが、理屈としては合っている。

 地上でも魔素は満ちており同じように鍛えられるが、ダンジョンは効率が段違いだということ。

 ならばみんなダンジョンで鍛えたりすればいいだろうって?

 それはその通りだ。しかし。


「でも、ダンジョンでだけ鍛えても、技術が追いつかなくなるって聞いたことがあります」

「それに鍛えるのには最適だが、便利なダンジョンは少ないからな」

「管理できないと、人が住めないから、ですね。そして、管理されているダンジョンは、人が多い」

『そうなると、魔素は薄くなったりしてるかもねー』


 ミルカが続ける。


「でもこの辺りは山が多くて、水もないし……」

「周りも、岩だらけだっただな。農地には向かないだよ」


 人が定住できない。

 ダンジョンだけが、そこにある。


 かつてクェルの故郷もダンジョンの氾濫で飲み込まれた。……それは人為的なものであったのだが。


「ビサワの大氾濫、ですね」

「……ダンジョンって、扱い間違えると災害だな」


 そんな会話をしていると、再び骨の音が響く。


「来るぞ!」


 今度は数が多い。

 トルトが前に出る。


「……ポッコ!」


 土の壁が生え、スケルトンの進路を塞ぐ。

 ミルカは水で動きを止め、ヘルヴィウスは風で吹き飛ばす。

 ティマの放つ聖なる浄化の光が、死霊を一瞬で浄化した。


「……きれい……」

「天から舞い降りた聖女、って感じだな」

「ち、ちがう……!」


 ティマが顔を赤くして、ぽこぽこと俺の腹を叩く。


 戦闘は安定していた。

 全員、初めての死霊ダンジョンにしては上出来だ。

 俺よりもずっと精神的に安定している。


「よし、問題なさそうだな」


 俺は皆を見回す。


「ここはまだ入口だ」

「つまり……」

「本番はこれから、だな」

「おうよ!」


 最初のうちは、おっかなびっくりだった。


 骨が動けば悲鳴が上がり、ミイラが立ち上がれば足が止まる。

 それでも、戦闘は数を重ねるごとに確実に洗練されていった。


「……次、来る」


 トルトの低い声と同時に、床からスケルトンが這い出す。

 ニトが前に出て、迷いなく炎の拳を振るった。


「らぁっ! こいつら、よく燃えんな!」


 強化された一撃で頭蓋骨が砕け散る。炎の余波で、周囲のミイラが燃え上がっている。


「吹き飛べっ!」


 ヘルヴィウスがアイレと共にスケルトンをまとめて吹き飛ばす。


「任せるだよ!」


 大質量の土と石でミイラを押しつぶすトルトとポッコ。


「ミイラは乾いていますから、水分を含むとぐずぐずになって崩れやすくなるんですね。勉強になります」


 ミルカはシュネと共にミイラを水攻めにして、更に水流を加えて脆くなったミイラをバラバラにしている。

 もはや悲鳴はない。皆、戦いのリズムを掴み始めていた。


 特に、ティマの浄化は凄まじかった。


 淡い光が広がるたび、死霊は音もなく消えていく。

 あまりに効果が高すぎて――。


「……ティマ、ちょっと待って」


 ミルカが制止する。


「それ、効きすぎ。皆の鍛錬にならないわ」

「……ご、ごめん……」


 しゅん、と肩を落とすティマ。

 いや、正論だけどな。


 その後も探索は順調に進み、やがて――。


「……宝箱だ」


 トルトが指差した。


「え、また?」


 蓋を開けると、中には武具、古い金貨、用途不明の魔道具。


「前回来たとき、こんなに宝箱あったか?」

『うーん、私は気づかなかったかもー』

『私も、記憶にありませんわ』


 精霊たちも首を傾げる。


 理由はわからない。

 ダンジョンマスターの気まぐれか、サービスか。

 いずれにせよ、探索は前回よりもはるかに順調だった。


 そして――。


「……十層、だな」


 ニトが言う。


「そうね。階層的にも、丁度ここが区切りだわ」


 大広間。

 床一面に散らばる無数の骨。

 嫌でも、思い出す。


「前回のボス部屋だ」


 その瞬間――。


 ――ガシッ。


「きゃああっ!」

「ひっ!?」


 地面から伸びた無数の手が、足を掴む。


 ミルカとティマの悲鳴が重なり、

 ティマが反射的に浄化の魔法を放った。


 光が爆ぜる。


 次の瞬間、広間のアンデッドの半数が、跡形もなく消え失せた。


「……」

「……」


 全員、言葉を失う。


「……ご、ごめんなさい……」

「いや、正解だ」


 そう言った直後だった。


 骨のローブを纏った存在が、天井近くに浮かび上がる。


 ――リッチ。


「来たぞ!」


 戦闘が一気に激化する。


 ニトの炎が走り、

 トルトは大質量の岩を纏った槌を振るい、

 ミルカは水流を叩きつけ、

 ヘルヴィウスは風で吹き飛ばす。


 俺はティマに近づくアンデッドを蹴散らす役に回った。


「リッチの魔法に気をつけろ!」

「わかってんよ!」


 黒い魔力弾が連射される。

 だがそれらをニトやヘルヴィウスは躱し、トルトの壁に阻まれ弾かれる。

 どれも致命打にならない。


 だが、問題が一つ。


「……空、飛んでやがるな」


 リッチは天井近くを漂い、こちらの攻撃は届きにくい。

 一方的に攻撃されているような状況だ。

 そして――。


「魔力を貯めてるわ!」


 ミルカの警告。


 次の瞬間、黒い悪霊のような魔力の塊が、広範囲にばら撒かれた。


 蛇のようにうねりながら迫るそれは、

 先ほどの魔力弾とは別物だった。


「っ……!」


 躱しきれない。

 その瞬間、ティマが前に出る。


『輝ける精霊たちよ、集い重なりて、害なすものから我らを守る光の壁を建て……アーシェントム!』


 淡く、しかし確かな光の壁が展開され、

 悪霊はそれに阻まれ、霧散した。


「……しばらくは、これで……」


 ティマの声は少し震えていたが、壁は安定していた。


「よし、作戦会議だ」


 俺は声を張る。


「どうする?」

「浄化で消せるんじゃねえのか?」


 ニトが言う。

 だがティマは、首を横に振った。


「……あんなに、遠くまでは……届かないと思う……」


 リッチは、天井近く。確かに遠い。ティマの浄化の魔法の範囲の外だ。

 このままでは、決定打がない。


「……引きずり下ろすしか、ねえな。あっ、ケイスケは手ぇ出すんじゃねえぞ?」

「えー……」

「んだんだ。ケイスケがやると、あっという間に終わる気するだよ」

「そうね」

「……経験に、ならないかも」

「ティマさんも同じようなものですけどね……」

「……むぅ」


 なんというか、信用があるのかないのか……。


『あらら、完全に除け者だねー』

『主が戦えば、確かにあっという間に決着がつきますものね』

『浄化の魔法で一発だろ?』

『あのくらいの高さなら、簡単に飛び上がれますねー』

『ん。簡単』


 精霊たちの俺の評価がえぐい。

 いや、簡単じゃないよ? なんでそんなに俺の評価高いの?


 俺は遠い目をして、皆の作戦会議を眺める。


 とにかく俺の扱いは逆の意味で散々なものだった。


最後までお読みいただきありがとうございます!

ちょっとでも楽しんでいただけたなら、何よりです!


もし「いいな」と思っていただけたら、

お気に入り登録や評価をポチッといただけると、とても励みになります!

コメントも大歓迎です。今後の執筆の原動力になりますので、

どんな一言でも気軽に残していただけたら嬉しいです。


これからも【悠久の放浪者】をどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ