第二百四十九話「連戦」
聖騎士たちの実力は、全体的に冒険者の銅級~銀級くらいだ。
みなそれだけ鍛え上げられている。
俺は延々と終わらない手合わせをさせられることになった。
しかし、ルールはパトリックのときとは違う。
俺は剣のみ。相手はある程度の制限をもって戦うことになったらしい。
攻め手の俺はなんでもあり。
舐められているとも感じるが、流石に少年の見た目の、神学校の生徒の俺相手にハンデをくれるということらしい。
できれば辞退したい。
でもパトリックとの手合わせで実力の一端を見せてしまった。
『ケイスケ、大丈夫ー? すっごい目立ってるよー』
『大丈夫だけど、これはまずいな……』
目立ちたくないのに、今俺はこの訓練場で一番目立ってしまっている。注目のまとだ。聖騎士たちは何かを期待するような目で俺を見ている。
溜息をつき、剣を構える。
仕方がない、今は手合わせだ。
それに聖騎士相手に俺の剣がどこまで通じるか試したい気持ちもあるのは確かだ。
気持ちを切り替えて、目の前の聖騎士に対峙した。
最初の相手は、長剣を構えた茶髪の青年だった。
盾は持っているが、かなり小型のバックラーといえるものだった。
開始の合図と同時に、一直線の踏み込み。速い。
「――ッ!」
剣と剣がぶつかる瞬間、手に痺れが走る。
重い。鋭い。こちらの剣を折りにきている。
回避、打ち返し、踏み込み。
一撃を弾いた瞬間、青年が体勢を崩した。
迷う暇はない。切っ先を喉下寸前まで止める。
「勝負あり!」
勝った――けど息は少し上がり始めていた。
二人目は盾持ち。
ゴツいラージシールドを前に突き出し、隙間も見せない。
「盾だけでいい。通せたら君の勝ちだ」
挑発に乗るつもりはないが――あえて突っ込む。
真正面からは無理。足元を狙うと見せて、逆サイドへ跳ぶ。
ガァン!!
盾の縁が薙ぎ払うように横から飛んできた。
読まれていた。頬にかすり傷が走る。
やばい、普通に強い!
瞬時に間合いを外し、回転の勢いを活かして背後へ。
盾の裏――空いた腕を狙って切っ先をぴたり。
「……参った」
息が乱れる。剣の握りが汗で滑りそうだ。
三人目は細身の青年。光幕のような、魔法を描きながら接近してくる。
剣と魔法の同時運用……!
足元の地面が光り、爆ぜた。
間一髪でローリング。土煙が舞う。
剣を突き出そうとした瞬間、眩い閃光。
視界が焼かれ、動きが止まった――。
「そこ!!」
勘で身体を沈め、斬撃を頭上スレスレで避ける。
目が回る。鼓動が早い。
無理に踏み込めばやばい。
だから、わずかに後退。相手に詰めさせる。
光魔法の詠唱の癖――一瞬だけ左肩が上がる。
肩が上がった瞬間、床を蹴った。
剣が閃き、相手の喉元寸前で停止。
「負けだ……!」
俺はぐらつく膝を必死に隠した。
四人目、五人目、六人目――。
剣、槍、拳、肉体強化、読み合い。
どいつも訓練された戦士で、全力を出させられる。
勝ってはいる。
だが、圧勝なんてしていない。
何度も攻撃がかすり
何度も体勢を崩し
何度も追い詰められた。
油断すれば即敗北。
その緊張で全身が焼けつきそうだ。
そして九人目。
明らかに相手の格が違う相手が出てきた。
なんというか、風格が違う。今までが一般兵だとしたら、隊長格。
「まだやれるかな?」
青年と中年の間という年齢の目の前の聖騎士は、優しく諭すように声をかけてきた。
「……正直厳しいので、休憩してもいいですか?」
「ああ、確かに少し休憩したほうがいいだろうね」
意外と話の通じる相手だったので、遠慮なくその場に座り込んで体を休めることに。
「……ふぅ」
息が上がっているが、体はまだ動く。
だけど一度落ち着いて精神を休めたかった。
そのまま座り込んで、目を閉じて回復に専念する。
ジワリと疲労が少しづつ癒えていく。
そんな俺に、聖騎士が話しかけてきた。
「君は、我々聖騎士の創立された経緯を知っているかな?」
「……いえ」
「そうか。そういえば、君はまだ初等部だったね。まだその範囲ではないか」
「ええ、ぺーぺーもいいところですよ」
「それだけ戦えて、しかも生命魔法も使いこなせる君が新米とは、我々も立つ瀬がなくなるが……」
複雑そうな表情をする聖騎士。
「まあいいか。ともかく、我々聖騎士の創立された経緯なんだが、九百年前の出来事が由来となっているんだ」
「九百年前……?」
「そう。魔王の襲来だよ」
「魔王、ですか」
その存在はこの世界に来て、度々聞いていた。
勇者アレクシスとその仲間たちの話は、ミネラ村でロビンたちにも教えてもらったし、教会でも教わった。
そのときに教わったのが、勇者アレクシスは百年前に魔王を討伐した英雄であるということ。
しかし九百年前というと、それよりももっと前の時代の話になる。
そこから導き出される結論はひとつだ。
「もしかして、魔王って何度も出現しているんですか?」
「その通りだよ。まあ別にこれは隠しているようなことでもないから、知っている人は知っているかもな。そして知っている人はこうも言う。――魔王は必ず復活する……とね。聖騎士団は主に、その魔王復活の際に民を守れるように組織されたものなんだよ」
だから、あんなにも守りを重視した訓練をしていたのか……。
「さて、休憩はもう十分かな? 始めようか」
その言葉に、俺は返事を返し、剣を手に立ち上がった。
俺の前に、聖騎士がどっしりと構える。腕は太く、体格は岩みたいだ。右手には巨大な盾がひとつ――と思いきや、いつの間にかもう片方の腕にも同じサイズの盾を構えていた。
マジか。二丁盾スタイルってどういうことだよ。
「一撃、有効打を与えられれば君の勝ちだ」
そんな涼しい顔で言っておいて、相手は最初から防御一辺倒。
俺は剣しか使えない縛り。
攻撃は俺だけ、相手は守りのみ。
これ……だいぶ不利だろ。
とはいえ逃げるわけにもいかない。結果から言ってしまうと、序盤は完全に詰んでいた。俺の剣はまったく通用しなかった。
全力で踏み込む。
斬り上げ、斬り下ろし、水平。
盾に当たるたび、甲高い音が響くだけでびくともしない。
「ちっ……」
どこを斬っても、音が変わるだけ。まるで楽器だ。
力の乗った攻撃も、速度を殺した精密な一撃も、全部同じ。
それどころか相手の腕は共鳴ひとつ起こさない。衝撃すら伝わっていない風だ。
『わー、硬そー』
影の中からリラの呑気な声が響く。
『ケイスケも魔法使えばいいんじゃなーい?』
『いやそれだと負けた気がするだろ……剣でやりきって勝ちたいじゃん。』
『さっきから勝てる気配ないけどー?』
うん、言い返せない。今のところ完封されてる。
数分が過ぎた頃。さっきせっかく休んで回復したのに汗が流れ、息も荒くなってきた。
「どうした? いつでもこい!」
「いや、それ反則でしょ!?」
思わず声を荒げる。
だって、聖騎士――光魔法で結界張っているんだよ。
ただでさえ堅牢な二つの盾。そこに光の結界。
さらに肉体強化魔法――ドーピー全開。
ガチガチの守りの塊だ。何だこのラスボス仕様。
普通の手段なら、どう足掻いても崩せない。
ここまでやられたら、さすがに剣だけじゃ勝てないと悟る。
はあ……仕方ない。
「……ちょっと、待ってください」
聖騎士は盾を構えたまま俺を見下ろす。
降参か、という顔だ。
降参? するわけないだろ。
剣に魔法を込められれば良かったけど、これは訓練用。俺の黒魔鉄の剣みたいな魔力伝導はない。
なら――光魔法を直接ぶち込むしかない。
詠唱に入る。
かつては詠唱しか知らなかった魔法。
でもロシオリー先生の授業で、魔法の本質が詠唱じゃないと知った。そこからは早かった。夜な夜なリラに協力してもらい、誰も寝静まった後に魔法制御の練習。土魔法なら光らないし、見つからない。それを延々と。俺には魔力の底がないから、限界を感じたことがなかった。
だから――制御はきっちりできる。
光の魔素を集め、手のひらの上にゆっくりと球体が浮かぶ。
それは、普通の光弾の何倍もの魔力を抱えた暴力の塊。
「……これは」
聖騎士の目がわずかに細まる。
気配で威力を理解したらしい。これは意図的に見せた。
次の瞬間、俺は動いた。
光弾を正面から放つ――と同時に爆速で踏み込み、砂煙を巻き上げながら横へ抜ける。聖騎士は正面から光弾を受け止め、結界が重々しい音を立てて震える。
壊れはしなかった。けど、感触でわかった。
あと二、三発で落ちる。
なら遠慮しない。
予備動作なしで光弾を生み出し、背後から撃ち込む。
砂煙を撒き散らしながらまた横へ。
右から、左から、背後から。
ドンッ、ドゴォン、ガァァン――!
結界が砕け散る光音が訓練場に響き渡った。
外野には砂煙で何が起きているのかわからないだろう。
「なんだとっ!?」
視界が戻った時には、聖騎士の背後に俺がいた。
今度はさっきよりもさらに魔力を詰め込んだ光弾を背中めがけて撃つ。
白い閃光が炸裂。
聖騎士の体勢が初めてぐらついた。
「ここっ!」
踏み込み。
砂を蹴り、剣を横から叩き込む。
切断する気で振らないと通らない相手だとわかっていたから、本気で振り切る。
腕に強い衝撃が返ってくる。切断には至らない。だがそのまま振り切り、足は払えた。
巨体がバランスを崩して地面へ倒れこんだ。立ち上がる隙など与える気はない。
首元に剣の切っ先をぴたりと止める。
「……俺の、勝ちですね」
聖騎士は俺の剣を見つめ、しばし沈黙し――口を開いた。
「……敗北を認めよう」
砂煙の中、訓練場が静まり返った。
俺も、相手も膝をついた。
だけど勝った気はまったくしない。
ただ、必死にしがみついただけだ。
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