表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悠久の放浪者  作者: 神田哲也(鉄骨)
第四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

244/269

第二百四十四話「生命魔法の実習」

ついにストックが切れました……。

ちょっと本業も忙しくなってきていて、毎日の投稿もこれでストップとなります。

今後は更新頻度も減ってしまうかと思いますが、引き続きよろしくお願いします。

「実習?」


 思わず聞き返した俺に、教師の男――ジェベルコーサ先生が黒板を軽く叩きながら頷いた。


「そうだ。明日は実習日だ。奉仕活動だったり、教会の儀式の補助だったり、内容はいろいろだが……一年生は治療院での手伝いになるな」


 一年生にしては早すぎないか? と内心で突っ込みを入れつつ、周囲の反応を伺う。


「特に生命魔法が使える生徒は患者に治癒魔法を施すこともある。心の準備をしておけよー」

「えー!?」


 何人かの生徒たちがそんな不満の声を漏らした。


 ……マジか。そんな本格的なやつ、もうやるのか。


「ちなみに実習の担当は俺じゃなくて、イズミト先生だからな」


 教室全体が一瞬だけ静まり返った。


「……うわ」

「……大丈夫かな?」


 前の席のジミーとシプスが、小声で囁く。その気持ち、分かる。ものすごく分かる。


 最初こそサイコ気味な言動でクラス全員の心を折りにきていたが、授業内容自体は意外とまともだった。

 ……インパクトが強すぎて、苦手意識だけが残ってるんだけど。


 そんなこんなで翌日。

 俺たちは神学校の近くにある治療院に集められた。


 老人が多く、空気は柔らかい。

 清潔な白い壁と、陽の光が反射する診察室。

 看護師たちの穏やかな声。


 ――ここなら一年生の実習でも問題なさそう、って思えるくらいに。


 俺はほっとしながら、ティマと並んで治療院の先生に頭を下げる。


「よろしくお願いします」


 穏やかそうな中年男性が微笑んだ。

 茶髪に白髪が混じり、皺は深くない。品のいい初老の雰囲気だ。


 生徒の中にはまだ治癒魔法をうまく扱えない者もいるが、イズミト先生の“あの初日”の授業を受けてから、不思議と全員が最低限は使えるようになっていた。


 ……何をどうされたのかは深く考えないでおこう。


「では、生徒たちをよろしくお願いしますねー」


 イズミト先生が治療院の先生へ笑顔で頭を下げたあと、

 ゆるふわウェーブの髪を揺らしながら、こちらに振り返った。


「あ、ティマさんとケイスケ君はこっち来てくださいねー」

「え?」


 俺たちだけ呼ばれた? 嫌な予感しかしない。


 ティマは不安そうに俺の袖をそっとつまんでくる。

 その仕草が小動物みたいで、思わず庇護欲が刺激された。


「あの、先生……?」

「大丈夫ですよー。ちょっと別の場所で実習するだけですからねー」


 ニコニコ笑っているが、その笑顔が逆に怖い。

 案の定、治療院を出て向かった先は――。


「先生、ここは?」

「ここはサンフラン王国の兵士さんたちの訓練場ですねー」


 訓練場。


 訓練場……?


 ティマが首をかしげた。

 俺の背中には、冷たい汗が一筋つーっと流れていく。


「先生、俺たちはここで……何を?」

「多分、思っている通りだと思いますよー」


 いやいやいやいや。

 俺の思っている通りが正解だったらダメだろ。


 訓練場に顔パスで入り、いくつかの廊下を進んだ先――。

 眩しい光の向こうに広がっていたのは、砂埃を上げながら声を張り上げて訓練する百人以上の兵士たち。


 剣を振り、魔法を撃ち、盾を構え、転がっている。

 文字どおり死ぬ気で鍛えている。


「あ、やっぱりこういうことか……」


 思わず呟くと、ティマがか細い声で聞いた。


「ケ、ケイスケ……こ、ここで……?」

「貴方たちはここで、治癒魔法の実習ですよー」


 イズミト先生は、広場の真ん中で腕を広げて宣言した。

 まるでここがピクニック会場か何かであるかのように。


「……マジか」


 思わず口癖が出てしまった。


 治癒魔法の実習って、老人相手の穏やかな治療院じゃなくて、

 兵士の訓練場って……。


 嫌な予感しかしないんだが。


 先生は軽い調子で続ける。


「ほら、兵士さんたちは訓練でよく怪我しますからねー。切り傷、骨折、打撲、筋断裂、時々、腕が逆方向に曲がってたりー」

「ちょ、ちょっと待ってください先生!? 最後のはおかしいですよね!?」「……おかしいです!?」


 ティマも珍しく食い気味にツッコんだ。

 でも先生はにこーっと微笑んで、


「大丈夫ですよー。折れてるところを治せるようになっておかないと、いざという時に困りますからねー?」


 と、もはや教師というより拷問官めいたことを言い放った。

 いや、なんで一年生の俺たちがそんなハードな実習を……。


「さあさあ、魔法使い放題ですよー!」


 ……いや、魔法の食べ放題コースみたいに言われても困るんだけど。


 周囲を見渡せば、鍛え抜かれた兵士たちが訓練の余韻であちこちに座り込んでいる。

 擦り傷、切り傷、腫れ、捻挫、打撲――怪我をしていない者のほうが少ない。


 数で言えば、治療院の老人相手とは比べ物にならない。

 確かに実習としては、ここ以上に材料が揃う場所はないだろうけど、こんな特別扱いは嬉しくない……。


「……マジか」


 俺の呟きは、砂埃に紛れて消えた。


「ああ、先生。ようこそいらっしゃいました」


 柔らかい声が聞こえてきた。

 訓練場の荒々しい雰囲気に似合わない、穏やかな声だ。


「お世話になりますー」

「いえいえ、こちらこそ大歓迎ですよ。それで、こちらの二人が?」


 振り向くと、そこに立っていたのは穏やかな物腰の男性だった。

 背は高いが筋肉質ではなく、どこか学者のような雰囲気。

 緑色の作業着のような衣服で、眼鏡の奥の目が優しい。


「あ、こちらは第七兵団所属のイネスさんですよ」


 イズミト先生が紹介すると、男性――イネスさんは柔らかく微笑んだ。


「よろしくお願いします」

「……よろしくお願いします……」


 俺とティマは同時に頭を下げる。


「イネス・ハウサーと言います。イズミト先生からは聞いていますよ。なんでも、聖女候補と並んで“すごい魔力を持つ子”がいるって」


 その視線がきらきらしていて、思わず少し身構えてしまった。


「私はイズミト先生の同級生でしてね。学生時代からよくお世話になっていました」

「そうだったんですね」


 ――だからこの訓練場に俺たちを連れてこれたのか。

 身内のコネというやつだ。


 イネスさんは、この第七兵団の軍医らしい。地位の高そうな人だ。


「では、早速お願いしましょうか」

「はーい。じゃあ二人とも、頑張るんですよー!」


 先生の軽い声に押され、俺たちは訓練場脇の簡易テントに入った。


 中にはイネスさんと似た作業着の人たちが五人。

 みんな軍医の助手らしい。


「よろしくお願いします」「よろしくお願いします」


 と丁寧に挨拶し終えると、助手の1人が作業着を渡してきた。


「じゃあ、これ着てね」


 ティマはつい立ての向こうへ。

 俺は……まあどうでもいいやと、その辺でさっと脱いで着替え始めた。


「あら、順番で使うかと思ったけど、君、思い切りがいいね」


 若い女性助手が苦笑した。


「冒険者なので、別に平気です」

「……へえ。神学校の坊ちゃんかと思ったら、そんな経験もあるんだ」


 いや、俺は坊ちゃんどころか、異世界転移者なんだけど……そこは言えない。


 ティマが出てきた。

 だぼっとした作業着で袖が完全に余っている。


 助手の女性が「可愛いわねぇ」と言いながら袖をまくってあげていた。

 ……なんか、あれだ。サイズの大きい服を着る女の子って破壊力が増すよな。


『ケイスケ、心の声が漏れてるよー』


 リラが影の中でくすくす笑っている気配がした。


「ケイスケ君はぴったりだね」

「はい、問題ないです」


 その会話が終わった頃、訓練場では兵士たちが整列し始めていた。

 ちょうど訓練が終わる時間らしい。


「さあ、来るぞ。診察は素早く。治療は丁寧に。いつもの通り診察は私とオーレンで。神学校の二人はエフカについて軽傷者の手当てを」

「わかりました!」


 助手たちの声が揃う。


「二人はこっちね」


 案内されたのは丸椅子と机が置かれた小スペース。

 傍らにカートがあり、包帯や薬品、その他の医療器具が詰め込まれていた。


 そして――。


 兵士の列が、あっという間にテントの外まで伸びた。


「うわ……」

「お、思ったより……多い……です」


 ティマが小さく震える。


「大丈夫。こっちに来るのは軽傷者だけからだから」


 エフカという助手が優しく声をかけた。

 その直後から怒涛の治療ラッシュが始まった。


 擦り傷、切り傷、打撲。

 訓練のせいか、同じ場所を何度も怪我する兵士が多い。

 腫れている膝、擦れた掌、裂けた眉。


「はい、次!」

「わかりました!」

「……わかりました!」


 俺とティマはひたすら治癒魔法を使い続けた。


「はい、腕出してくださーい! 治癒魔法をかけますからねー!」


 じんわりと魔力が流れ、傷が閉じていく。

 途中、ティマの「つ、次の方……!」という声が意外と大きくて驚いたが、そんなことに構っている余裕はない。


 なんというか、ここは治療院ではなく、戦場だった。


 兵士たちも次々と来るせいか治療が終わるたびに「助かる!」と笑って戻っていく。

 その活気に押されるように、俺たちもテンションが上がっていく。


「ケイスケ君、まだいける? いけるね? じゃあ次!」


 エフカが手際よく指示を出す。


「はいっ!」

「……はい!」


 気づけばティマも、顔を赤くしながら必死についてきていた。

 小さな体で、懸命に。


『ティマ、がんばってるな……』

『うんうん、かわいいねーあの子。ケイスケ、守ってあげなよー?』


 影の中のリラが、相変わらず軽い調子で囁いてくる。


 ――分かってるよ。


 俺たちはただただ治癒魔法を放ち続ける。

 息を吸って、吐いて、詠唱して魔力を流す。


 いつの間にか、汗が頬をつたっていた。


「……はい、次……!」

「おう、頼む!」


 声を張り上げ続けた俺の喉は乾いていたが、不思議と体はまだ動く。

 数だけはこなしてるからだろうか。


 ティマも、荒い息の中で「大丈夫……」と繰り返しながら手を動かしていた。


 終わりの見えない治療ラッシュ。


 それでも俺とティマは、必死で魔法を使い続けた――。


最後までお読みいただきありがとうございます!

ちょっとでも楽しんでいただけたなら、何よりです!


もし「いいな」と思っていただけたら、

お気に入り登録や評価をポチッといただけると、とても励みになります!

コメントも大歓迎です。今後の執筆の原動力になりますので、

どんな一言でも気軽に残していただけたら嬉しいです。


これからも【悠久の放浪者】をどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ