第二十四話「ミネラ村の朝 2」
「おっと、ロビンちゃんじゃないか」
モンドが笑いながら言ったが、ロビンの表情はまったく緩まない。それどころか、今にも飛びかかってきそうなほど怒っているのが伝わってくる。
「なんでこんなところにいるのよ!」
ロビンは腰に手を当て、まるで雷を落とすかのように怒鳴った。正直、ここまで怒られるほどのことをした覚えはないのだが、どうやら俺が村の端まで来たことが気に入らなかったらしい。
モンドは俺とロビンを交互に見たあと、少し声を潜めて言った。
「……約束してたのか?」
「あ、ああ、一応」
本当はそこまで明確な約束をしていたわけじゃないけど、まあ、ロビンの中では俺が彼女を待たせていたことになっているのだろう。
モンドは納得したように頷くと、ニヤリと笑った。
「じゃあさっさと行きな。また来いよ。剣を握らせてやるから」
「うん、ありがとう」
剣を持たせてもらったのはいい経験だったし、モンドのような気さくな人とはこれからも仲良くなれそうだ。俺は軽く手を振ると、ロビンのほうへと向かう。
「なんで村の端っこで遊んでるのよ!」
「遊んでたわけじゃないよ。ロビンを探してたら、いつの間にかここに来ちゃったんだ」
「まったく、ちゃんとしてよね」
ロビンは呆れたようにため息をついた。
「ごめんごめん」
実際、俺としてはロビンを探していたのも本当だし、村の様子を見て回るのも楽しかった。とはいえ、ここで言い訳を重ねるのは得策ではない。俺は素直に謝った。
ロビンはまだ不満そうだったが、とりあえず俺を引っ張るように歩き出した。
「ところで、さっき勇者アレクシスの話をしてたんだけど」
「ああ、おとぎ話に出てくるのよ!」
ロビンは得意げに言った。
「ダンジョンに行って魔王を三人の仲間と倒すのよ! それで宝を持ち帰って、お姫様と結婚するの!」
なるほど、勇者アレクシスというのは、この世界での有名な英雄譚らしい。魔王にダンジョン、お姫様との結婚……なんともテンプレじみた話だ。
「ダンジョンは実在してるのか?」
「この近くにはないわね! 惑いの森のほうに行ったら、もしかしたらあるのかもしれないって、お父さんが言ってたけど」
ダンジョンが実在している可能性があるというのは驚きだ。俺のいた世界では、ダンジョンといえばゲームや物語の中のものだったが、この世界では実際に存在するものらしい。
「あるのか、ダンジョン……」
「もしあったら、もっと村も発展してるわ」
「そういうもんか?」
「だって、ダンジョン目当てでいっぱい人が来るもの」
「なるほど?」
ダンジョンがあるということは、それだけ人が集まり、交易も盛んになるということか。ロビンの言う通り、ダンジョンがこの近くにあれば、村はもっと活気づいているかもしれない。
冒険者のような存在もいるのかもしれない。
「ところで、ケイスケのところではどんなお話があったの?」
ロビンが興味深そうに尋ねてくる。
「そうだね、似たようなお話はあったよ」
たとえば桃太郎なんかは、鬼という異形の存在を倒し、宝を持ち帰るという点で勇者アレクシスの話と共通している。ほかにも、一寸法師や金太郎なんかも、子供に読み聞かせられる定番の英雄物語といった感じだ。
「へえ、モモタロね。おかしな名前ね」
ロビンが首を傾げる。
「そうだね、昔の人がつけた名前だから、実際にいたら俺だって変に感じるよ」
「ふーん。あー、おじいちゃんとかの名前みたいな感じなのね」
「そんな感じ」
どうやらニュアンスは伝わったようだ。
ロビンは納得したように頷くと、また歩き出す。
「ところで、どこへ向かってるんだ?」
「いい場所があるの!」
ロビンはニコッと笑い、俺を先導するように足を速めた。
彼女と並んで歩いて向かった先は、村の柵の外だった。
「え、結局外に出るのか?」
思わずそう呟いたが、どうやら俺たちが向かうのは正面の門ではなく、反対側らしい。村の周囲を囲む柵の端へと向かっているようだった。
村の門のそばに立っていた門番の村人がこちらに気づくと、大きく手を振った。
「おー、ロビンか! 今日はどこへ行くんだ?」
「ちょっとね!」
ロビンは軽く手を振り返して笑う。門番の男は俺の姿を認めると、ニヤリと笑って言った。
「気を付けて行けよー」
「はーい!」
ロビンが元気よく返事をすると、俺もなんとなく頭を下げておいた。こうして気軽に村の外に出ることができるというのは、それだけこの辺りが安全だということなのだろうか?
「この辺は、村の外でも危険じゃないのか?」
「今は畑に人が多いから大丈夫よ」
ロビンが指さした先には、金色の麦畑が広がっていた。もうすぐ刈り入れの時期なのか、作業をする人々の姿が見える。確かに、この光景を見る限り、すぐに獣が襲ってくるような危険地帯ではなさそうだ。
しばらく歩くと、視界が開けた。
「着いたわ!」
ロビンが指さした先には、見晴らしのいい丘が広がっていた。その頂上には、一本の大きな木が立っている。
「どう? ここから村がよく見えるのよ!」
言われて振り返ると、確かに村全体が見渡せた。瓦屋根の家々が並び、その間を細い道が通っている。村の中央には広場らしきものも見える。
風がさわさわと木の葉を揺らし、ロビンの髪をふわりと浮かせた。
最後までお読みいただきありがとうございます!
あなたの貴重なお時間を物語に使っていただけたこと、とても嬉しく思っています。
ちょっとでも楽しんでいただけたなら、何よりです!
もし「いいな」と思っていただけたら、
お気に入り登録や評価をポチッといただけると、とても励みになります!
コメントも大歓迎です。今後の執筆の原動力になりますので、
どんな一言でも気軽に残していただけたら嬉しいです。
これからも【悠久の放浪者】をどうぞよろしくお願いします!




