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悠久の放浪者  作者: 神田哲也(鉄骨)
第四章

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202/236

第二百二話「王都の威容」

 翌朝。

 俺は冒険者ギルドに顔を出した。

 本当は、ダッジやバンゴたちの姿を探していたのだが、姿はない。


「そういえば、ビサワのほうにいるんだっけ」


 相変わらずの、巨大な岩そのもののような、建物といっていいのかわからない冒険者ギルド。

 俺は念のため外套を被り、顔を隠してカウンターへと向かう。

 怪しいことこの上ないだろうが、受付のステラさんが笑顔は迎えてくれた。


 名乗るとすぐにステラさんは俺のことを認めてくれた。

 冒険者にも様々な事情をもつ人がいる。顔を隠していることに突っ込まないのは、流石プロだ。


「おかえりなさい。ケイスケ君。久しぶりですね」

「ただいま戻りました。あの……リームさん護衛の報酬、受け取りに来ました」


 依頼は、ビサワ行きの護衛。途中でとんでもない事件に巻き込まれたから、失敗扱いになってるかと心配していた。

 だが、ステラさんの返事は意外だった。


「大丈夫ですよ。リームさんが気を利かせて、ちゃんと完了報告してくれてますから」

「……本当にありがたいです」


 普通なら失敗で報酬ゼロ、下手したら罰点扱いになってもおかしくなかった。

 リームさんには、感謝してもしきれない。


「それとね、クェルさんの方からも連絡があったんです。しばらくは冒険活動を休止って。だからケイスケ君のほうも休んでても問題なしですよ。今回の長期休暇もお咎めなしです」

「助かります」


 さすがクェル。抜かりない。


 ふと、俺は思い出して尋ねた。


「そういえば……ダッジたち三人は、やっぱりビサワのほうへ?」


 ステラさんは「ああ、そうそう」と思い出したように指を鳴らす。


「そうですねあの人たちなら、ビサワに拠点を移すって言ってましたよ。だいたい三か月くらい前だと思います」

「なるほど……ありがとうございました」


 あの三人らしい。あっちの方を気に入っていたし、本当に拠点を移したのか。

 なんだかんだ憎めない奴らだったから、顔を見れなくて少し寂しくもある。


 そこで、ふと思いついて尋ねる。


「これから王都に向かうんですが、王都行きの荷物の運搬依頼とかって、何かありますか?」

「王都へのですか……」


 ステラさんは少し考え込むと、すぐに「あっ」と声を上げた。


「ありますよ。ちょうど王都行きで急ぎの荷物があるんです。受けてもらえると助かるんですが」

「ぜひ」


 迷わず即答する俺。

 王都へはどうせ行くんだ。なら少しでも役に立ちたい。


 ステラさんは小さな小包を持ってきた。両腕で抱えられる程度のサイズ。


「これを王都の魔法教会に届けてほしいんです。依頼達成の報告は王都の冒険者ギルドに札を提出してください。報酬はそこで受け取れますから」

「わかりました」


 受け取った小包は意外と軽い。だが、妙に厳重に梱包されている。

 中身は……聞かない方がいいだろう。


「あとね、ケイスケ君。もししばらく王都に滞在するなら、冒険者ギルドに転属届を出しておいてくださいね」

「転属届……あ、はい」


 転属届は必須ではない。けれど出しておけば、トラブルがあった時に「どこの誰だ?」と疑われにくくなる。

 忘れずに手続きしておいた方が良さそうだ。


 ステラさんに礼を言い、小包を抱えてギルドを出た。


 外に出た瞬間、影からリラの声が響いた。


『どーするの? もう王都に向かうー?』

『うーん……そうだな。なんだか皆に急かされてるし、準備して午後には出るかな』


 リラは「ふふん」と笑う。


『旅立ちの準備ってやつね。なんだか冒険者っぽいじゃん?』


 そこにアイレの落ち着いた声も重なる。


『なんだか、忙しいですわね』

『ほんとになー』


 カエリまで呟いて、俺は思わず苦笑した。

 ダンジョンを脱出してからというもの、次から次へと予定が詰まっている気がする。

 でも、不思議と嫌ではない。


「さて……じゃあ、腹ごしらえしてから準備するか」


 王都への旅路が、また新しい一歩になりそうだ。


 リームさんに王都へ出発することを告げると、彼は少し驚いたように目を丸くした。だがすぐに、相好を崩して店の奥から包みをいくつも持ってきてくれる。


「旅の間の食料だ。保存が利くものばかりだから、役立つはずだぞ」

「ありがとうございます。助かります」


 正直なところ、王都までなら大した距離じゃない。レガスに乗れば数時間の旅で終わるだろう。だがそれをわざわざ言えば、また余計に驚かせるに決まっている。だから俺は何も言わず、ただありがたく受け取ることにした。


「たまには顔を出してくれよ?」

「勉強、頑張るのよ」


 イテルさんも笑顔でそう言ってくれる。ケイムを抱くその姿は、すっかり母の顔だ。


「ケイム、またなー」


 ケイムの柔らかい髪の毛を優しくなでる。するとふにゃっと笑ったような顔をした。

 胸の奥が温かくなる。俺は深く頭を下げ、領都ハンシュークをあとにした。


 街道に出てしばらく歩き、道を外れて森の中へ。

人目につかないようにレガスを呼び出すと、いつものようにドン、と地面が揺れた。

 巨体が現れた瞬間、周囲の鳥たちが一斉に飛び立つ。


『ケイスケ、コッチノホウデイイカ?』

「うん、だけどちょっと試したいことがあるんだ。反対方向に飛んでみてもらえる?」

『ワカッタ!』


 レガスが大きく翼を広げ、力強く羽ばたいた。俺は鞍にしがみつきながら声を張る。


「とにかく限界まで高く飛んでみてくれ!」

『ワカッタァ! アガルゾォォ!』


 レガスの巨体がぐんぐんと空を駆け上がっていく。

 雲を突き抜けた瞬間、目に飛び込んできたのは一面の青空と広大な雲海だった。


「おお……雲の上だ……」


 地上の景色は、白い海の切れ間からほんの少しだけ覗いている。

 浮遊感と共に、なんとも言えない感動が押し寄せてきた。


『コレヨリウエ、クルシイ!』


 レガスの声に俺は頷く。


「雲の高さは大体二キロから七キロくらいっていうから……。今は五キロ前後か?」


 ふと気づき、スマホを取り出した。マップアプリを開くと、現在位置がしっかりと表示されている。しかも高度まで。


「おお……。流石チートスマホ。今は四千百メートルだな」


 画面には俺が通ってきた道程が線となって刻まれていた。南側――つまりビサワ方面には広がっているが、北側は空白。どうやら自分の行動範囲がそのまま地図化される仕組みらしい。


「レガス、高度を上げられない理由は?」

『クウキ、ウスイ! イキデキナイ!』

「やっぱりか。アイレ、レガスに空気を送れるか?」

『承知しましたわ』


 レガスの周囲を風が渦巻き、薄い空気が満たされていく。

 再び翼を広げて上昇――六千五百メートルに達したところで、ついにギブアップ宣言。


『コレイジョウ、ムリィ! サムイ! ハナ、ツメタイ!』

「了解、無理させて悪かった。無理はさせられないな」


 次は速度の試験だ。高度を二千メートル前後に落とし、王都の方向へ進路を取る。


「さあ、思いきり飛ばしてみてくれ!」

『オウ! トツゲキィィィィ!』


 風を裂く音が轟く。

 アイレが加速の補助に回ると、レガスは信じられない勢いで加速していった。


「速っ!? ちょ、早すぎ! あれ、視界が流れ――うわっ!」

『ハハハ! オレ、ハヤイ! オレ、スゴイ!』

『調子に乗らないで。ケイスケ様が吹っ飛びますわ!』

『ア、アブナイ! オチル!』

「落とすなよ!? 絶対落とすなよ!?」


 レガスが風を裂く。アイレが補助に回った結果、驚異の時速四百キロを記録した。


「マジか……! 新幹線並みじゃないか!」


 スマホの数値を見て思わず声が漏れる。アイレがいなければ時速二百キロが限界らしい。それでも十分速いのに。

 風を切る音が耳を打ち、視界の景色があっという間に流れ去っていく。


『シンカンセン? ダレダ? オレノホウガハヤイ!』

「乗り物だ! お前よりは静かだけどな!」

『ウソダ! オレ、サイコウ!』

『……音がうるさいだけですわね』

『ウッ! ク、クヤシイ……!』


 やがて、遠くに巨大な街並みが見えてきた。


「……あれが、王都か」


 地平線の向こうに、巨大な城壁と尖塔がいくつも突き立っている。

 そして町はかなり広大だ。遠目にも分かる、放射状に伸びた大通り。それを中心にきれいに区画された建物群が、幾重にも同心円を描いている。

 ハンシュークの街が領都として立派に見えていたのに、それがまるで子どもの積み木に見えるくらい、王都は圧倒的に広い。道は碁盤の目のように整備され、石造りの屋根が夕陽に照らされて金色に輝いていた。

 広場らしき空間には、人や馬車の動きが豆粒のように見える。遠くには高くそびえる塔や城壁も確認できた。王城だろうか。陽光を浴びて白く輝くその姿は、空から見下ろすとまるで物語の中の宮殿のようだった。


『オオキナ、ニンゲンノ、マチ……!』


 レガスも興奮気味に声をあげる。

 よく見ると街道にも、絶え間なく人や荷車が行き交っている。郊外にも建物が点在していて、王都の活気が街の外にまで溢れ出しているのが分かった。


『主、あの街の上空に、別の飛竜に乗った騎士のような人間がいます。見つかる前に降りてしまった方がいいかと』

「王都には、飛竜に乗った騎士がいるのか……?」


 流石王都といったところか。

 俺はアイレの助言に従い、さらに十キロほど離れた森へと降り立ち、そこから徒歩で街道へ出ることにする。


「日が沈む前には王都に入れそうだな」


 木々の間から差し込む夕暮れの光が黄金色に輝いている。走る必要もなく、俺はのんびりと街道を歩き始めた。背中にはレガスとの空の旅の余韻、胸には新しい街への期待。――そんな気分で、俺は王都を目指した。


最後までお読みいただきありがとうございます!

ちょっとでも楽しんでいただけたなら、何よりです!


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