表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
191/202

第百九十一話「クェルのステータス」

誤字報告ありがとうございます! 大変助かります!

感想もありがとうございます! 作品を進めるのに注力しているので返信はなかなかできませんが全部拝見しております!

 けれど、クェルは肩をすくめただけだった。


「体液? なんだ、ちょっとじゃあ、やってみようよ!」

「……えっ!?」


 まさかの即答。しかもノリが軽い。

 俺の声は裏返り、見事に夜の静寂に反響した。


「ん? どしたの?」


 きょとんとした顔で俺を見るクェル。

 彼女の目はまるで「なにかおかしい?」とでも言いたげで、俺の方が完全に狼狽える番だった。


「いや、その……クェルは、嫌じゃないのか?」

「んー……まあちょっと気にはなるけど、ケイスケのだったら、別に気にならないかな?」

「……マジで?」


 おいおい、そんなあっさり言う?

 なんだこの羞恥心ゼロの天然生命体は。

 俺の方が顔真っ赤で挙動不審だというのに、本人は風に髪をなびかせて涼しい顔をしている。


「じゃあ、さっさと試してみようよ」

「えぇっ!?」


 何をどうしたら、そんな前のめりな姿勢を取れるんだ。

 俺がもじもじしてるのが馬鹿みたいじゃないか。


「どしたの? ほら、早く」


 そう言って、クェルは腰から短剣を引き抜いた。

 狩りにも使う鋭い刃――解体用の本気仕様だ。


「……え?」


「ほら、早く?」


 手渡されて、俺は首を傾げた。


「これは?」

「え? だって、これで指とか手を切ったほうが早いでしょ?」

「……ん?」


 指とか手を……切る?

 ……いや、待て、話が全然繋がらないぞ。


 クェルは当然のように続ける。


「血、飲めばいいんでしょ?」

「ち……」


 血。

 体液=血。


 ――あっ。


 俺の頭の中で、見事に一本の線が繋がった。


「ああっ!?」

「わっ!? どしたの?」


 クェルが驚いて目を丸くする。

 やばい、動揺が顔に出すぎた!


「そ、そうだな! ちょっと待って、すぐに手を切るから!」

「え、うん……?」


 なんか変な間があったけど、勢いで言ってしまった。

 そしてその勢いのまま、スッと自分の掌を斬っていた。


「いってぇ……!」


 想像以上に深く切れてしまい、血がだらだらと流れ落ちる。

 森の夜風が生温く当たり、傷口がじんじんと痛んだ。


「ケイスケっ、大丈夫?」


 クェルが心配そうに覗き込む。

 けれど、次の瞬間――ためらいもなく、俺の手を掴んだ。


「ちょ、クェ――」


 止める間もなく、彼女は俺の掌に顔を寄せ、口をつけた。

 温かい舌が傷口をなぞり、血を啜る感触が伝わる。


 ……いや、これ、あかん。

 心臓が跳ねすぎて死ぬ。

 なんでこういうときだけ、やたら真剣なんだよ……!


「ん……ふぅ。……で? どう?」


 クェルはケロッとした顔で見上げてくる。

 唇の端に、うっすら赤が残っている。

 なんかもう、色々な意味で心臓に悪い。


 俺は視線を逸らしながら、スマホを開いた。

 ――そして、画面を見て息を呑む。


 クェルの名前がある……。


 俺は迷わず登録することに。


 するとそこには、新しい項目が追加されていた。


【ステータス】

・名前:クェル

・年齢:25

・性別:女性

・状態:良好


・視覚:100%

・聴覚:100%

・味覚:100%

・触覚:112%

・知覚:97%

・精神:78%

・免疫:98%

・存在:100%

・魔力:87%


【スキル】

・身体操作(LV2)

・魔素との同期:12%

・火素との同期:2%

・風素との同期:2%


「……本当に、できた……」

「おー! やったじゃん!」


 クェルは無邪気に喜び、俺の手をぎゅっと握る。

 その笑顔に毒気を抜かれつつも、俺はまだ胸の鼓動が収まらなかった。


 ……心臓、もうちょっとで爆発するかと思った……。


 それでも、結果は上々。

 クェルがこの世界でどんな可能性を秘めているのか、少しだけ見えた気がした。


 ステータスを改めて確認する。

 彼女の魔法適性は、風素と火素の二つだけ。

 表示されていないということは、他の属性は完全にゼロなのだろう。


 同期率はどちらも二%。

 決して高くはない。これでは属性魔法を使うことはできないはずだ。


「クェル、風と火、どっちの魔法を使いたい?」


 俺がそう聞くと、クェルはすぐに目を輝かせた。


「んー! どっちも! 風なら天瞬の技を使えるし、火ならカエリの力を借りなくても自力で空中軌道できるでしょ!」


 即答。即夢想。

 さすがはクェル、欲張りにもほどがある。


「いや、どっちもって……いきなりは無理だぞ」

「えぇーっ、なんでよ! せっかくステータス出たのに!」

「そんなうまい話でもないんだよ」


 いや、うまい話だな。これは。だって、同期が進めば魔法を使えるんだから。

 しかしクェルはむっと頬を膨らませた。


「なんかそれ、ケイスケが言うと説得力あるけどムカつくなぁ」

「俺だって最初は使えなかったんだよ」

「ほんとに? でも今はピカーって光らせてるじゃん」

「光らせるって……なんか俺の魔法、原始的な扱いされてない?」


 クェルはケラケラと笑った。

 彼女の笑い声が夜風に混じって、どこか心地よい。

 そんな彼女を見て、俺は少しだけ笑ってしまった。


 項目さえあれば、自動スワップ機能を設定できる。

 俺はクェルの火素の同期率に、自分の火素を設定してやった。


「……これでよし」

「ん? なになに? 私の中で何が起きてるの?」

「簡単に言うと、俺の魔力の“流れ”をクェルの中に繋げてる感じかな。しばらくすれば、少しずつクェル自身の魔力でも扱えるようになるはず」

「え、それって……今すぐはダメってこと?」

「今すぐは無理」


「ええぇぇぇっ!!!」


 思わずのけぞるクェル。

 大げさなリアクションが、逆に愛らしい。


「じゃあ、どのくらいで使えるようになるの?」

「……まあ、早くて数週間てとこじゃないか?」

「えー……じゃあ、もっと早くならないの?」

「無理だってば。それよりも、同期率が上がっても、詠唱を覚えなきゃなんだぞ? 大丈夫か?」


 そう、魔法を使うには、詠唱が必要だ。

 そういうとクェルは「げっ……!」と顔を顰めた。


「私、あれきらーい」

「……子供か」


 唇を尖らせるクェルの姿に俺は思わず笑いをこぼした。


「……あーあ、明日から魔法少女になれると思ったのになぁ」

「いや、どこの世界でもそんな即席で覚えられたら苦労しないよ」

「だってさー、飛んでみたかったんだもん!」


 クェルは腕を広げて、欄干の上に足をかけようとする。


「おい、やめろ。ほんとに落ちるぞ」

「落ちたら風で浮く!」

「浮かないっつってんだろ!」


 クェルは笑いながら欄干から降りた。

 その笑顔に、つい力が抜けてしまう。


 俺は彼女の火素との同期を確認しながら、ふと未来の光景を思い描いた。


 ――空を蹴って飛び回るクェル。軽やかで、自由で、誰よりも楽しそうに。


 そんな彼女に、俺はきっと追いつけない。

 でも、それでいい。


「はは……また勝てなくなるな、俺」


 少し遠い目をして呟くと、クェルは「へへん!」と胸を張って笑った。


 バルコニーの向こうで、梟が一声、低く鳴いた。

 夜は深く、静かで、冷たく。

 けれど不思議と、その空気はやさしかった。


 やがて、瞼が重くなり、俺たちはそれぞれの寝床へ。


 俺はすぐに眠りに落ちていった。


最後までお読みいただきありがとうございます!

ちょっとでも楽しんでいただけたなら、何よりです!


もし「いいな」と思っていただけたら、

お気に入り登録や評価をポチッといただけると、とても励みになります!

コメントも大歓迎です。今後の執筆の原動力になりますので、

どんな一言でも気軽に残していただけたら嬉しいです。


これからも【悠久の放浪者】をどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ