第十九話「村の風景と異邦人」
村の名前はミネラというらしい。
馬車の揺れが止まり、俺たちは村の入り口に到着した。
村は、腰くらいの高さの石垣と、その上に木の柵で囲われている。完全な防壁ではないが、獣や賊の侵入を防ぐには十分だろう。
門の前には、腰に鉄の剣を帯びた男が立っていた。その脇には弓やボウガンのような武器が立てかけられている。
「よく来た!」
門番の男は、馬車を引くリームさんに向かってそう言った。
俺は、そのやり取りを聞きながら、不思議な感覚を覚えていた。
なんとなく、言葉がわかる……。
たった一日、馬車の中で会話を聞いていただけなのに、片言なら会話ができそうなほどには理解できるようになっていた。
もちろん、すべての単語がわかるわけではないが、文脈や単語の意味がつかめるだけでも大きな進歩だ。
やっぱり、言語習得のチートは本物みたいだな……。
自動翻訳ではないが、かなり異常な速度で言語を習得できる能力があるらしい。
おかげで、村の人々とも意思疎通ができそうだ。
村の中に足を踏み入れると、小さな川が村を貫いて流れていた。
村の建物は、木材と、壁に土を塗ったような造りになっており、白や茶色の壁が多い。屋根は藁葺きか、赤茶色の瓦のようなものが使われている。
地面は基本的に土のままだが、ところどころに石畳が敷かれている。
文化レベルは、それほど高くはなさそうか?
電気などが普及しているような気配はない。目につくものは人の手で作られたものという感じで、大量生産の工業製品がありそうでもなかった。
リームさんの馬車が進むと、村の人々がちらちらとこちらを見る。
俺は何となく彼らの視線を感じ、気まずくなった。
そんなに珍しいのか?
リームさんやイテルさんと似た顔立ちの人が多い。茶色い髪と目、日焼けした肌。
黒髪の人は一人もいない。
今の俺の装いは、麻っぽい、すこしごわついたクリーム色の上着に、茶色のズボン。リームさんが貸してくれたもので、この世界の一般的なもののはずだ。実際、村人を見ても差異は感じられない。
俺の髪の色か、それとも顔立ちか、装いが珍しいのか──村の人々は、あからさまに俺のことをじろじろと見ていた。
というか、総じて皆背が高い。
カルチャーショックって、こういうことを言うんだろうな……。
異国に来た気分を、改めて実感する。
馬車はやがて村の中心部らしき広場に到着した。
ここは石畳になっており、村の中でも特に人通りが多い場所のようだ。
リームさんとイテルさんは手慣れた様子で馬車から商品を下ろし、布を広げて品物を並べていく。
俺は特にやることもなかったので、リームさんの手伝いをすることにした。
並べられる商品を見てみると、塩や衣類、雑貨、農具などの鉄製品が中心だった。
対して、村の人々が売っているのは、麦や果物、木材、木工製品など。
なるほど……。
この村では、農産物や木材と、商人が持ってくる生活必需品を交換する形で交易が成り立っているらしい。
貨幣もあるようだが、取引の多くは物々交換で行われていた。
リームさんが俺のことを「旅人のケイスケ」として村の人々に紹介してくれた。
すると、周囲の視線が少し和らいだ気がする。
──そして、次に俺を取り囲んだのは、子供たちだった。
「お兄ちゃん、どこから来たの?」
「旅の話をして!」
「ドラゴン見たことある?」
俺よりも背の低い子供たち。
次々と好奇心いっぱいの言葉が飛んでくる。
いや、めっちゃ見たし、一度遭遇したけど……今の語彙では説明できる気がしない。
俺は苦笑しながら手を振った。
「えーっと……マダ、言葉が、上手ジャナイから……」
そう言って、俺は適当な理由をつけて逃げることにした。
子供たちの追及から逃れた俺は、村の様子を改めて観察することにした。
村の雰囲気は、イメージする中世ヨーロッパの田舎に近い。
道具や家の作り、村人の服装、そして商売の仕方を見ても、そう感じる。
実際に勉強したわけでも、行ったことがあるわけでもないので曖昧だが……。
門番のところには、銃らしきものはなかった。やはり剣、槍、弓、弩あたりがメインウエポンだろうか?
まだ魔法を使う人間には出会っていない。
この世界には魔法があるはずだが、村の人々は特に魔法を使っている様子はなかった。
……リームさんも、普通に火打ち石で火をつけてたしな。
火をつけるくらいの魔法なら、もし一般的なら商人のリームさんが使っていてもおかしくない。
それなのに、火打ち石を使うということは、魔法は思ったよりも珍しいのか?
それとも魔法が存在する世界でも、全員が使えるわけじゃない……?
俺は、未知の世界の常識に頭を悩ませながら、村の風景をじっと眺めるのだった。
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