第十五話「スマホの謎」
ありがとう、ゴンタ。
でも、今はスマホを確認したい。少しだけ……。
俺は改めてスマホの画面に目を落とす。
特に気になるのは『素』という項目だ。
同期率を見ると、一番高いのは『光素』の15%。その次に高いのは『風素』の3%。
「なんで光素の同期率が一番高いんだ?」
項目をタップしてみたが、詳細は表示されない。
何かしらの説明が出るのかと思ったが、情報はこれ以上ないようだ。
次に高い「風素」「魔素」の3%。
「そういえば、メイコが魔石を飲んだ後、そよ風を起こしていたよな」
俺も魔石を飲んでいる。もしかして、あれが関係しているのか?
情報媒介の取り込みと、高濃度情報媒介との接触……。
情報媒介というのは、おそらく魔石のことだろう。魔石を体内に取り込んだから、俺の風素の同期率が少しだけ高い?
じゃあ、『高濃度情報媒介との接触』っていうのは?
ゴンタやメイコが特に変化を見せていない以上、普通に生活しているだけでは発生しないもののはず。じゃあ、俺は何か特別なものに触れたのか?
「そもそも、『同期率』が100%になったら何が起こるんだ?」
疑問が次から次へと浮かんでくる。
ひとまず、他の項目も確認してみよう。
『肉体再生速度上昇』の項目をタップする。
すると詳細が表示された。
「お? これは続きがある」
現在の回復率は70%となっていて、その横には徐々に上昇していく数値が表示されている。どうやら秒間0.01%くらいずつ回復しているようだ。
多分、100%が万全な状態なのだろう。
もしそうなら、ゴブリンたちにボコボコにされた時点では、一体何%まで落ちていたのか。考えるのが少し怖い。
そして、俺は気が付いた。
光素の項目の横に、同期マークがついていることを……。
「これ……何か意味があるのか?」
他の素には同期マークがついていない。光素だけが特別な状態になっている。
光素……。
そもそも『素』とは何なんだ?
「水素なら、化学でよく出てくる元素のひとつだけど……、火素やら風素やらはないよなあ」
俺の知っている物理学の元素とは違う、魔法的な概念なのか?
考えても答えは出ない。
とにかく、このスマホが俺のステータスを管理していることは間違いない。異世界チートがあるのなら、それを活用しない手はない。
俄然、楽しみになってきた。
この世界で生き延びるために、俺はスマホを最大限に活用してやろうと考えるのだった。
周囲を見渡すが、ゴンタはまだ戻ってこない。
ドラゴンの力が残っているというこの周辺には、鳥や獣も近づかないのか、静かなものだった。
「――そういえば、他のアプリとか、開いてなかったな」
ネットが使えないと判断し、もともとあるアプリのほとんどは開いていなかった。
「ブラウザでネットは繋がらず……は、相変わらず、か」
そもそもサーバーがこの世界にはないのだろう。不思議な力でこちらも繋がるとか、そんな都合いいものではないらしい。
「いや、もしかしたら、またアップデートできれば繋がるかもしれないのか?」
希望はある。
まあ繋がったところで、元の世界の情報を見てどうするかといったものでもあるが、チートのようなものが発現するかもしれない。
「写真とか動画とかファイル関係は……全部、消えてる」
昔の写真とかあれば、見て記憶が蘇るかとも思ったけど、ダメみたいだ。
あるのはこちらで撮った、試し撮りの写真が数枚のみ。
「あ……、メイコ」
中にはメイコの写真もある。
ゴンタやゴンスケ、ゴンザブロウも写っている。
「もっと写真を撮っておけばよかったな」
入れていたゲームはもちろん、ネットに繋がらないから起動しなかった。
まあ、暇つぶしに入れていたものだ。繋がったとしてもプレイすることはないだろう。
「この際だ。いらないものは削除しちゃうか」
他にも、色んな店のクーポンが発行できるアプリやら、電車の乗り換え案内やらは使うことはないと判断。
地図アプリやネット通販アプリはまだ念のため残しておく。
「あ、SBT……」
NFTや暗号資産が入っているウォレットとSBT。
俺がこの世界に転移する直前の記憶は、これに係る業務を行っていたときのこと。
「まあこれも、ネットワークのブロックチェーンありきのものだしな」
消そうと考えたが、とりあえず開いてみる。
すると、SBTに紐づいている運転免許や健康保険証、資格情報などが表示された。
持っている暗号資産はもう、この世界で現金に換えることなどできないだろう。
だけど、そこでもまたありえない表示を見つけた。
「あれ? 同期、してる……? あ、同期消えた」
同期率は3%……。
SBTはマルチチェーン対応で、いくつものブロックチェーンに対応している。
震える手で同期先のチェーン情報をタップする。
同期ブロックチェーンは、俺がこちらに来る直前まで関わっていたプロジェクトの名前だった。
「……アペイロス?」
その夜、同期マークが再びつくことはなかった。
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