第十四話「アップデート」
スマホの画面を見つめたまま、俺は固まっていた。
何かの見間違いか?
いや、確かにそこにはこう表示されていた。
『アップデートが完了しました』
転移前なら何の変哲もない通知だ。だが、今の俺にとっては到底ありえないことだった。
「ドウシタ? ケイスケ」
ゴンタが横から覗き込んでくるが、書いてあることはわからないようだ。
そう、俺はこの世界に転移してから、スマホがネットに繋がらないのを確認し、当然アップデートもできないものだと思っていた。
GPSだってきかない。ネットを開こうとしてもページが見つからない。もちろんアプリを通しても何もダメ。時間だって、適当に自分で設定したから大体の時間の目安で使えてるだけだ。
唯一使えたのは、ネットが繋がっていなくても利用できるオフラインのアプリのみ。
「ちょっと待って! ゴメン、ゴンタ。もう少しここで休んでもいいか?」
ゴンタにそう言って頼み込む。
こんなにもスマホが気になる状態じゃ、旅にだって集中できない。
「ダイジョウブ、アト3ニチ、ナニモコナイ」
「いや、さすがに3日はいらないけどさ」
ゴンタの言葉に安心しつつ、俺は再びスマホの画面に意識を戻した。
恐る恐る通知をタップすると、アップデートの詳細が表示される。
画面が切り替わると。
「まじか……」
そこには驚くべき情報が記載されていた。
『情報媒介の取り込みと、高濃度情報媒介との接触により一部同期完了』
【スキル】
・言語習得速度上昇(LV2)
・肉体再生速度上昇(LV2)
・肉体強度(LV1)
・魔素との同期(3%)
・風素との同期(3%)
・火素との同期(2%)
・水素との同期(2%)
・土素との同期(1%)
・光素との同期(15%)
「まじか、まじか!?」
意味がわからない。いや、意味はわかる。わかるけども。
「でも……これが、本当なら――」
だが確かに、ゴブリンの言葉を習得するのが妙に早いと思っていた。単に俺の記憶力がいいのか、それともゴブリンの言葉が単純だからなのかと考えていたが、違ったようだ。これはチートスキルの力だったのだ。
肉体再生速度の上昇についても、今になって気づいたが、あれほどの暴行を受けたのに、体に痛みはあるが、体を動かせないようなケガはほとんど残っていない。
つまり、そういうことなのだろう。
「ありがとう異世界!」
つい、叫んでしまう。
それだけの情報。希望だった。
俄然、楽しくなってきた。
さらにタップを進めると、見覚えのないアプリが画面に表示された。
「ステータス……?」
アプリには通知マークがついている。開いてみると、そこには俺の名前が表示されていた。
「真田 慧助」
久しぶりに見る自分のフルネーム。しかし、それよりも気になるのはその下に並ぶ謎の項目たちだった。
【ステータス】
・性別:男性
・年齢:◇▽×
・生年月日:□〇〇△▽年6月12日
・視覚:100%
・聴覚:100%
・味覚:100%
・触覚:100%
・知覚:100%
・精神:100%
・免疫:100%
・存在:100%
・魔力:100%
さらにその上には「同期率:100%」と書かれていた。
これは……俺とスマホの同期率ってことか?
もしかしたら、何か俺の体に異常があったら、ここに何か表示されるのか?
「でも、年齢と生年月日がバグってるな……」
年齢と生年月日について表示されているのは記号の羅列だけ。
ひとつ前の画面に戻る。
風素、火素、水素、土素、光素……これは魔法の属性的なものなのだろうか?
そしてなんで光素だけ同期率が高いんだ?
疑問は尽きない。
けれど、間違いなくこれは俺にとってのチート能力の発現だ。
「やったー!」
異世界生活に、思わぬ希望が見えてきた気がした。
「ケイスケ、ワラウ、ヨカッタ!」
俺がスマホの画面を見てニヤニヤしているのを、ゴンタがじっと見つめていた。
そう言われて、俺は一気に恥ずかしくなった。顔を赤らめながら咳払いをする。
「いや、ちょっとな……」
落ち着け、俺。
確かに、まさか異世界チートがあるなんて思わなかったし、テンションが上がるのも仕方ない。でも今は冷静になれ。喜ぶのはいいが、俺たちの置かれている状況を忘れてはいけない。
今は安全と言われているこの場所も、いつまでそうとは限らない。あのゴブリンの群れみたいなやつらにまた出くわしたらどうする?
ドラゴンがもう一度現れてくれる保証なんてどこにもない。
でも――。
「ゴンタ」
俺が声をかけると、ゴンタはすぐに俺を見た。
「ナニ?」
「明日、出発でもいいか?」
するとゴンタは満面の笑顔で、
「イイヨ!」
と答えてくれた。
すると立ち上がって、「タベモノ、サガシテクル!」といって森の中に分け入っていった。
「頼りになりすぎる……」
ほんと、ゴンタはいいゴブリンだ。
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