第百六話「優しい相棒」
クェル視点での話の続きになります。
夜の草原を駆け抜ける。月はなく、風の音が耳を撫でていく。
暗闇に目を凝らしながら、私とケイスケは言葉少なに走り続けていた。
チラリと隣を走るケイスケを盗み見る。
ケイスケは、いっぱいいっぱいみたいだね。
ケイスケ。ギルドで寝てた私を起こした少年。
出会いはそれだけだった。なのに……。
まだ、出会ってから十日くらいしか経ってない。
たったそれだけの時間なのに、私は――ううん、私の中の“何か”が、彼とならやっていける気がしてる。
うーん、気がするっていうより、そう、期待……かな? この先、面白くなりそうだって期待。
何せね、私のペースを乱さない“格下の冒険者”なんて、初めてだったから。
いやいや、自慢じゃないけどね?
私は昔からウザ絡みが酷いって言われてて、だいたい誰もついてこれなかったんだ。私がひとりで喋って、勝手に走って、突っ込んで終わる――そんなもんだった。
色々と言われたし、あったけど、全部蹴散らしてきた。
それがケイスケときたら、私をそのままをまるで水を飲むみたいに自然に受け流す。
あ、そうそう、ケイスケは私のこと「可愛い」って言ってくれたんだった。
正直なところ、他人の評価とか、興味もわかないというのが本音。でも、そうだね、ケイスケからの評価なら少しは気になるかも。
自分じゃ顔の造作とか気にしたこともなかったけど、そう言われるとやっぱりちょっと、ほんのちょっとだけ嬉しいよね。
パートナーとしてやっていく相手のことは、やっぱり気になる。興味ってやつが芽生えるものよ。
それにしても、ケイスケはほんっとに優秀。
あの体力、頭の回転、そして魔法の才能――全部が高水準。
魔力なんて溢れすぎてんじゃないのってレベル。肉体強化魔法――通称ドーピーを使っての長距離移動でも、ほとんど魔力の多さだけで私についてこれるんだもん。
私についてきた奴なんて、今までひとりもいなかったのにさ。
私と組み始めてやっと条件付きの銅級になったけど、実力はもうそこらの銅級と変わりないと思う。私の『爆足』だって、もうものにしはじめてる。
そして何より、精霊。リラちゃん。
光の精霊ってだけでも驚きなのに、喋れるし、察しが良いし、連携もできるし……正直、ズルい。
私がどんなに目を凝らしてもわからない遠くの敵影も、リラちゃんには見えてる。まるで神の目ってやつ?
ケイスケがリラちゃんのすごさをわかってないってのが、もったいないっていうか、惜しいっていうか。
まあ、あえて言わないけど、だからこそ私がそばにいて、教えてあげるってわけなんだけどね。
不思議なのは、ケイスケの頭の良さ。
たまーに変なとこで無知だったりするのに、肝心なところは一発で飲み込む。
地頭がいいんだろうなあ。理屈を並べ立てるより先に、状況から察する力があるっていうの?
だから説明いらずで作戦が通る。これは本当に助かってる。いや本当に。
それでいて、光魔法、火魔法、生命魔法の三属性持ち。
光魔法と生命魔法が近いから、実質二属性って話だけど、どっちにしても超希少。
光魔法なんて、アポロ教会の専売特許だよ?
冒険者でそんなの使えるなんて、ちょっとした事件レベル。
教会にバレたら、きっとあれこれ勧誘とか囲い込みとか、大変なことになるに決まってる。
だから、私が引っ張ってるの。
ケイスケは自分の価値をぜんっぜん分かってないからね。
ったく、こんな逸材を野放しにするなんて、ギルドも見る目ないわ。
……引っ張って教えていかなくちゃなんて、本当に自分でもびっくり。私がこんなこと考えるなんてね。
それにしても、真面目なんだよね。ケイスケって。
私がノリで冗談めいたことを言っても、全部律儀に受け取るし。
それって、いいことでもあるけど、ちょっとだけ心配になる。
今度の盗賊団の殲滅任務でも、気後れしてたし。人を殺すってことに、やっぱり抵抗あるみたい。
まだまだ付き合いは浅いけど、ケイスケが優しいのはわかってる。
盗賊相手にだって、そんな優しさから殺すことを躊躇ってることだって。
まあ、わかるよ。わかる。
私だって最初の一回は、ちょっと気持ち悪かったもん。
血の匂いとか、目の焦点が合わなくなる瞬間とか、ああいうのは、慣れるまでは嫌なもんだ。
でもね、盗賊は“人の形をした魔獣”だと思えばいいの。
実際、あいつらは人じゃない。人の暮らしを壊して、命を奪って、家族を泣かせてる。
聞いたでしょ? 『狂犬の牙』のやってきたことを。強盗、殺人、誘拐、暴行――やりたい放題の連中なんだよ? 奴らに罪の意識なんか、これっぽっちもないんだよ?
そんな奴らを人として扱う必要なんて、どこにもないの。君がこれから殺すことになる人の形をしたものは、人じゃないんだよ。気にしなくていいんだよ。
それでも駄目なら……そうだね。私がやってあげるよ。
ケイスケはとどめだけ刺せばいい。
昇格条件はそれだけだから、あとは私がやる。
全部を背負わなくていいの。余計なものは背負わないでいいように、私がいる。
――だから、これから先、君が成長して、本当に強くなったときには。
パートナーとして、私の“目的”に協力してね? クミルヒースを取り戻すときに、さ。
ふふ、ちょっとだけ重いお願いかもしれないけど、その頃にはきっと、君も快く引き受けてくれる気がする。
そのときまでは、私が君の手を引いてあげるから。
私が君の前を走るから。
よろしくね、ケイスケ。
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