第百二話「新しい機能と看破」
『格納ー?』
なんのこっちゃ? と思ったが、機能名の横にハテナマークがついているのでタップすると、機能の説明が表示された。
「なになに……? 精霊を、このスマホに格納して運ぶことができる機能で、何体でも、収納可能……?」
そのままの説明に、やはり首をかしげる。
『私が、その中に入れるってことー?』
「……そうみたいだけど、リラ、入れるか?」
『やってみるー』
わからないなら、試してみるしかない。
リラは軽く返事をして、スマホに近づく。
『ふんふん……。あっ、なるほどねー』
そんな声が聞こえたと同時に、リラの姿がスマホに吸い込まれるように消えていった。
「あっ!?」
思わず声をあげるが、すぐにリラはスマホから顔を出して言った。
『なかなか快適ー!』
「快適なのかー」
『うんー!』
リラの能天気な声に、力が抜ける。リラはそのままスマホに出たり入ったりを繰り返して、やがて満足したのか、評価を下した。
『このスマホの中、すごく快適だったよー! でも、スマホに入ってるとケイスケの声は聞こえるけど外の様子がわからないから、私は外にいる方がいいかもー』
確かにリラなら、俺の影の中にいることで、周囲の目からは見えないように隠れられている。
「これは、リラにはそれほど必要ない機能ってことか」
『そうだねー』
がっかりだ。折角のアップデートだったというのに。
気を取り直してスマホを操作して、同期率をチェック。
魔素との同期:12%
風素との同期:3%
火素との同期:11%
水素との同期:11%(自動スワップ設定中)
土素との同期:3%
光素との同期:25%(自動スワップ設定中)
「おっ! もう水素の同期率が10%超えてるな」
『おめでとー!』
リラの軽い声が響く。これで、水魔法を使えるかもしれない! ……とはいえ、詠唱を知らないのが致命的だ。
領都には魔法書があるという噂だが、俺みたいな新参者がそう簡単に手に入れられるとも思えない。
「魔法となれば、教会か……」
今のところ、頼りになるツテといえばそこくらいだ。ティマのことも気になるし、近いうちに顔を出すべきだろう。
一応、スワップ機能で次は土素に切り替えておく。今は全属性を満遍なく上げるのが目標だ。その後、また光素に戻せばいい。
「詠唱の初めの部分だけでも聞ければなあ……。呼びかける精霊の名前さえわかれば、あとは自分流に改変できるのに」
……と、独り言を呟いていたが、ふと違和感を覚える。
「それにしてもクェル、遅いな……?」
俺はギルドの前で彼女を待っていた。彼女はちょっと買い物に行ってくると言って、もう三十分は戻ってきていない。
「消耗品を買うにしては、時間がかかりすぎてるような……何かトラブルに巻き込まれたか?」
いや、クェルの場合は、トラブルに「巻き込まれる」というより「巻き込む」側だろう。
「クェルに限って、それはないか?」
「うんうん」
「でもクェルも、黙っていれば可愛いからな。ナンパでもされてるかも」
「え? 可愛い?」
「うん。普通に可愛いと思うよ」
「へー? ケイスケの好みなの?」
「そうだな。顔だけなら確かに好みかなあ」
「へー……」
……会話してるの、リラだよな?
おそるおそる声のほうを向くと、そこには満面のニヤニヤ笑顔を浮かべたクェルが立っていた。
「……は?」
クェルは明らかに俺を認識していた。
「なんで? 見えてる!?」
確かに俺の腕は透けている。つまり、リラの魔法はまだ発動中のはずだ。けど、クェルの視線は完全に俺に向いている。
「確かに姿は見えなかったけどね! そこにいるのはわかるよ!」
「マジで?」
『バレちゃったから、魔法は解除するよー』
リラの念話がして、「うん、頼む」と返すと、透過がふわりと解除された。
「お、出てきた出てきた」
「なんでわかったんだ?」
「んー、匂いと音かな。ケイスケの姿は見えなかったけど、普通に話してたし、匂いもしてたからね!」
匂い……そこまで意識してなかった。透明になっても、体臭までは消せないのか。
そんなに自分が臭いとも思えない――思いたくないが。
「あ、肉体強化魔法――ドーピーか!? それで嗅覚を強化したのか?」
「半分はそうだけど、あとは勘かな」
「勘かー……」
銀級冒険者のクェルの勘。たぶん、馬鹿にできるレベルじゃない。だが、ドーピーで嗅覚や聴覚を強化する発想は面白い。
そう思っていると、クェルが言った。
「あ、ちなみに素人が匂いや音をドーピーで強化して感じようとするのはお勧めしないよ。特にこんな街中だとね」
「ん? なんでだ?」
クェルは悪戯っぽく笑って、通りの向こうを顎でしゃくった。
「考えてみなよ。ほら、あそこのおっさん。あのおっさんの股間に顔突っ込んで、思いっきり臭いをかげる?」
……想像して、心から理解した。
「……鼻や耳の強化は止めとく」
「うんうん、それがいいよ」
でも、とクェルは続ける。
「狩りや追跡なんかでは有用な使い方だから、もっと人のいないとこで練習して使えるようになっておくといいよ!」
「なるほどなあ。ほんと勉強になるな」
こう見えて、クェルは意外と――いや、かなり頼れる師匠だ。
「じゃあ行こっか」
「はいよ」
クェルに促され、俺たちは再びギルドへと向かって歩き出した。透明人間になっても気は抜けない。そう思い知らされた出来事だった。
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