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悠久の放浪者  作者: 神田哲也(鉄骨)
第一章「異世界スタート地点:ゴブリンの森と優しき村」
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第一話「異世界転移?」

新しく投稿していきます。

それなりにストックは書けているので、ひとまず予約投稿で毎日投稿していきたいと思います。

よろしくお願いします。

 意識がゆっくりと浮上する。まどろみの中、静かに目を開けた。

 視界に広がったのは、灰色の天井。無機質な石だ。

 ぼんやりとした頭で状況を整理しようとするが、うまくいかない。体はすこぶる快調なのに、記憶がまるで靄に包まれているようだった。


「……ここは……?」


 反響する声。声は出せる。

 上半身を起こし、あたりを見回す。三十畳ほどの広さの空間。壁も天井も石造りで、寝ていたのは石の台のようだった。

 なぜこんなところにいるのか、まったく思い出せない。途方に暮れながら首元に違和感を覚え、そっと手を伸ばす。指先に触れたのは、何か硬いプレートのようなもの。

 手に取って確認すると、それはネームプレートだった。表には「ケイスケ」と刻まれている。


「……俺の名前か?」


 呟くと、霧が晴れるように記憶の片鱗が戻ってくる。確かに俺の名前はケイスケだ。しかし、それ以上のことは何も思い出せない。

 自分の服装を確認する。紺のスラックスにYシャツ、黒い革靴。まるで仕事帰りのような恰好だが、そんな記憶はない。

 頭を振り、深く息を吐いた。

 ふと、足元から差し込む光に気づく。陽の光だ。周囲を見渡してもどうやら、外に通じる道はそこしかないらしい。

 俺は立ち上がり、そちらへとゆっくり歩を進める。石造りの部屋の冷たい空気から抜け出し、外の眩しさに目を細めた。

 そして、目の前の光景に息を呑む。

 一面の緑。見渡す限りの森林が広がっていた。

 青く澄み渡る空、白い雲が悠々と流れ、吹き抜ける風がむせかえるほどの緑の匂いを運んでくる。

 耳をすませば、聞いたことのない動物の鳴き声が響いている。鳥のようにも獣のようにも聞こえるが、その正体はわからない。


「こりゃまた……。壮絶な景色だな」


 思わず独り言が漏れる。

 俺がいた石の部屋は、どうやら小高い山の頂上付近にあるらしい。ここからは遠くまで見渡せる。その先に、大きな川が流れているのが見えた。

 水があるなら、まずはそこを目指すべきだろう。何もわからない以上、動かないよりはましだ。


「ここには何もなさそうだしな……」


 周囲を見渡しても、目に入るのは石の壁と石の床のみ。

 小石がちらほら落ちているが、それ以外は何もない。

 ポケットを探る。手に触れたのはスマホとボールペン。

 スマホの電源を入れるが、圏外の表示。ネットは繋がらず、GPSも機能していなかった。


「これはまさか……異世界転移というやつか……?」


 そんな突飛な考えが浮かび、苦笑する。しかし、今の状況を見れば、それが現実である可能性は捨てきれない。

 俺は深く息を吸い込む。

 生暖かい、森の匂いが鼻孔から脳へ。

 吹き付ける風が髪を揺らし、頬を撫でていく。

 足元の草を踏みしめる感触が、やけに生々しい。

 それら全部がこの世界が現実であることを、否が応でも突きつけてきている気がした。


 山を下りるたびに、靄がかかっていた記憶が少しずつ鮮明になっていく。

 俺は、そこそこ名の知れたIT企業に勤めていた。

 年齢は三十五歳。次世代の移動通信システムの構築に携わるエンジニアだった。


 仮想通貨や暗号資産が普及し、NFTや現実資産の管理までブロックチェーン上で行われる時代。大規模インフラは分散型システムへと移行し、分散型OS、AIエージェントが一般化していた。

 移動通信システムは世代を重ね、6G、7Gを経て、新たな技術革新が求められていた。

 俺が関わっていたのは、次世代移動通信システム「∞G(インフィニティG)」の開発。コードネーム「アペイロス」、ギリシャ語で無限を意味するそのプロジェクトは、分散型人工知能に通信の管理を委ねるものだった。

 開発は順調に進んでいたが、一部の思想団体からは「AIによる支配」だと批判を受けていた。

 だが、俺はただ、その巨大なプロジェクトの一部門を担う技術者にすぎなかった。


 だからこそ、自分がテロの標的になるなんて考えもしなかった。


 目が覚めるまでの記憶を辿る。


 ――そうだ。俺は、俺たちは管理者権限の整理をしていたんだった。


 アペイロスには世界各国の研究者が携わっており、新規参加者や退職者の管理は煩雑を極めた。

 管理者権限は個人のSBT――ソウルバウンドトークンに紐づけられていた。

 譲渡や売買が不可能なSBTは、個人に紐づけられた唯一無二のデジタルIDだった。ブロックチェーン技術によって、データの透明性と改ざん防止が保証されている。

 シビルアタック対策としても有効であり、現代社会においてはほぼ全員が所持していた。

 俺の役割は、そのSBTと管理者権限の整理だった。


 顔は靄がかかったように思い出せないが、同僚であるハタノとその作業中、突如として社内にサイレンが鳴り響いたことを思い出す。


「現在、不審者が社内に侵入しています。銃を持っています!」


 社内放送の声は悲鳴に近かった。そして震えながらも必死に状況を伝えようとしていた。

 ハタノと顔を見合わせ、何が起きているのか理解する前に、警報音の中に混じって足音と破壊音が聞こえてきた。

 俺たちのいる部屋は、特にセキュリティの高いエリアだった。外部からの侵入は困難なはず。

 そう考え楽観視しようとするも、 ガンガン! といった音と、振動にすぐ意識は戻されてしまった。


 脅威がすぐ近くまで来ているという濃厚な気配。


「お、おい、なんかやばそうだぞ!?」

「っていってもケイスケ、この部屋、あそこしか出入口ないんだぞ!?」

「ここの扉って……」

「……ぶっちゃけ、普通の扉だ。鍵だけは厳重だけど」


 セキュリティの高さ故に、この部屋には窓がなかった。出入口は一つだけ。

 しかしその出入口の向こうでは大きな物音がしており、今にも破壊されそうな有様。


「隠れる場所……!」


 二人で部屋を見渡すと、部屋の隅に、ある大学との共同研究で開発されたコールドスリープ装置の試作品があった。

 まるで鉄でできた大きな棺のようなそれは、中に籠ればそう簡単には壊されることはなさそうな代物だ。

 数は丁度二つあった。

 ハタノと顔を見合わせ、頷き、装置に駆け寄って装置の蓋を開ける。

 電動式の蓋の開閉動作はテストで動かした際はSFっぽくて感動したものだが、この状況ではただただ緩慢で焦りを募らせるものでしかなかった。

 どんどんと大きくなる破壊音。

 焦りと」恐怖から、俺たちは悲鳴を上げ続けた。


「ケイスケ! 早く入れ!」


 漸く半開きになった装置。それにハタノが俺を押し込む。


「お前は!?」

「いいから!」


 思わず抵抗しようとしたが、その瞬間、耳をつんざくような爆発音が響いた。

 硬直する体は、閉まりゆく装置の蓋を防ぐすべを持たない。

 蓋は完全に閉まり、外部の様子は完全にうかがうことはできない。

 遠く聞こえてくる音は、大勢の足音。


 不意に電子音が耳に聞こえ、抗えない睡魔に襲われ、そして、俺の意識は闇に飲まれていくのだった――。

ご拝読いただきありがとうございます!

あなたの貴重なお時間を物語に使っていただけたこと、とても嬉しく思っています。

ちょっとでも楽しんでいただけたなら、何よりです!


もし「いいな」と思っていただけたら、

お気に入り登録や評価をポチッといただけると、とても励みになります!

コメントも大歓迎です。今後の執筆の原動力になりますので、

どんな一言でも気軽に残していただけたら嬉しいです。


これからも【悠久の放浪者】をどうぞよろしくお願いします!

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