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 リセロットが目を開ける。


「アーサー……?」


 布団の中に彼の姿はなく、何故か自分が眠っていた。

 さっと背中に寒気が走る。


 慌ててリビングに行けば、アーサーの荷物はなくなっていた。


「どうしたんだ、こんな朝に」


 走っていたせいか、オークリーを起こしてしまったらしい。

 忙しなく動くリセロットに、目をこすりながら聞いてきた。


「その、アーサーがいなくて……」

「なんだと?」


 オークリーが窓の外に目をやった。

 もう雪はやんでいて、青い空が真白の雪を照らしている。


「そういえば、朝方に物音が聞こえたような」

「きっと、それです」

「お前たち、喧嘩でもしたのか?」


 オークリーの問いかけに、リセロットは目を見開いた。


「喧嘩、とはなんですか」

「知らないのか? とんだ箱入り娘だな」

「すみません」


 頭をガシガシかきながら、オークリーは思案する。


「あー喧嘩っていうのはな、仲の良い奴らが、意見が噛み合わなくなって、仲違いをすることだ」

「……その喧嘩というモノをしたら、一生元の仲には戻れないのですか?」


 不安そうな顔をするリセロットを目を丸くして見つめてから、オークリーは彼女の頭を撫でた。


「大丈夫だ。一発ぶん殴って、言いたいこと全部言えば仲直り出来るさ」


 瞳を輝かせるリセロットに、オークリーは親指を立て見せる。


「良いか? あいつと一緒に、ここに帰ってこい。スープでも作って置いてやるから」

「……はい!」


 アーサーは、雪が止んでから出ていった筈だ。それなら後を追える。

 リセロットはムン! と気持ちを引き締め「行ってきます」と手を振った。


 

 上着を着込み、マフラーを蝶々結びにしてから外に出たリセロットは、儚くサラサラとした雪を踏みしめながら歩く。


 真っ白で平らな世界に、足跡がついている。リセロットは走りながらそれを辿った。


「アーサー、何処にいるのですか」


 死んでいたら、どうしよう。

 不安が押し寄せる。


 それを誤魔化すようにひたすらに走る。

 ふと、雪が盛り上がっている所を見つけた。丁度人一人分埋まっているような。


 慌てて駆け寄り指で雪を剥がせば、中からアーサーが出てくる。

 顔色が悪く、体も冷たい。

 リセロットが身につけていたマフラーや上着をかけながら肩を揺らし続ければ、うっすらとその目が開かれた。


「リセロット……」

「……っ、アーサーの馬鹿!」

「へぶぅっ」


 リセロットはアーサーを思い切り平手打ちした。

 アーサーが涙目になりながら、じんじんと熱を持つ頬を押さえる。

 赤くなった手を膝の上に下ろしてから、リセロットは肩を震わせた。激情が込み上げる。


「え、リセロット……?」

「貴方は馬鹿です、馬鹿馬鹿馬鹿! どうして、私が起きるのを待っていてくれなかったのですか! 私はただ一言、アーサーを恨んでいないと伝えたかったのに!」


 アーサーの瞳が揺れる。


「でも」

「だってもでももありません! ……死んでしまっていたら、どうするつもりだったんですか」


 アーサーの体に縋り付けば、彼の息が止まる。


「ごめんなさい、リセロット」

「まずは帰りましょう。こんなに冷えて……」


 リセロットがアーサーをおんぶする。

 もう男の矜持とかなんとかも言わなくなったようで、そっとリセロットの肩口に顔を埋めていた。


◇◇◇


「早い帰りだな。ちゃんと仲直りは出来たのか?」

「まだ途中ですが、とりあえず一発殴りました」

「……そうか」


 暖炉の前でアーサーを溶かす作業をしながらオークリーに答える。


「ほら、約束のスープだ」

「あ、ありがとうございます……」


 今更になって寒さが来たのか体を震わせるアーサーに、スープを食べさせる。

 オークリーが席を外し、アーサーがスープを食べ終わってから話し始めることにした。


「アーサー」

「……うん」

「博士はですね――とっても馬鹿なんです」

「うん……えっ?」


 リセロットの唐突な宣言に、アーサーが顔をぎょっとさせた。


「人のことを考えないから、代わりに自分が死ねば良い、みたいなことを考えて簡単に実行する、そんな人です」

「…………」

「博士の優しさは美徳です。ですがそれは、時に私たちを苦しめる」


 だから、とリセロットはアーサーの手を握りしめた。


「私たち、博士に迷惑かけられた仲間ですね」

「……っ」


 アーサーの頬を、涙が伝う。


「一緒に行きましょう、博士の下へ」


 ずっとずっと苦しかったのは、アーサーもだ。

 だからどうか、思い悩まないで。

 そんな意を込めて笑えば、アーサーは言葉を詰まらせてから「ありがとう」と言葉を絞り出した。


 背中を擦っていれば、涙が止まってきたアーサーが顔を上げた。

 

「……でも、博士は隣国で死んだんだ。死体すら、残ってない。どうやって会いに行くの?」


 その質問に、リセロットは自身を指さすことで答えた。


「私には迷子レーダーがあり、それは博士の持つペンダントを発信源にしています。……私が来るのが嫌なら、それを壊せば良かった」


 アーサーの瞳に光が戻る。


「つまり、ということは、」

「ええ」


 あの博士はどうやら、まだ見つけて欲しいモノがあるらしい。

 顔を見合わせた二人は、屋根裏部屋で内緒の話を共有したように笑い合った。


 それからリセロットたちは、一晩をオークリーの家で過ごしてから、翌日の朝出発した。


「今まで、ありがとうございました」

「ああ、達者でな」


 短い挨拶とともに、パンなどを渡される。

 何度もありがとうを繰り返しながら、リセロットたちは歩き出した。



 雪の道を歩き続ける。

 段々雪は薄くなっていき、遂になくなった所で、リセロットたちは辿り着いた。


 荒野には戦争の悲惨さが色濃く残っている。


「……博士のペンダントは、こっちから」

「でもここ、なにもないよ?」


 かつての研究所もなくなり、迷子レーダーが示したのは草すら生えぬ大地。


 首を傾げるアーサーの隣で、リセロットはしゃがみ込んだ。


「博士、言ってたんです。大事なモノは床下に隠すと」


 手をかざす。

 そうすれば緑の光が放たれ、地面が真四角の蓋が無くなったようにポッカリと空いた。


 中には、ペンダントと魔道具、そして本が三冊入っていた。

 リセロットは不思議に思いながら、本を手に持ってみる。


 博士は本を読むが、そんなに欲しかった本だったのだろうか。

 不思議に思いながら、ページを捲る。

 リセロット好みの話だ、とパラパラしながら緩く文字を読みながら、彼女はようやく思い当たった。


「……あ」

「どうしたの、リセロット」


 戦争中であっても、品物は買える。それは自分のモノであったり、あとは大切な人の下に贈ったり。


 もしも、これが博士からの贈り物だったら? あの家にリセロットはいないことになっている。直接贈ることはできない。

 だからリセロットに見つけて貰うのを待った。


 誕生日プレゼントを、贈りたかったから。


 リセロットの中のなにかが、痛みに顔を歪ませ悲鳴を上げた。

 熱い熱い塊が零れそうになる。

 リセロットは震える唇を叱咤しながら、必死に言葉を紡いだ。


「……博士、こんな所で迷子になっていたんですね。ほら、帰りましょう」


 ――博士、今度こそ私は正しい言葉を選べたでしょうか。これが、貴方の望んだ言葉でしたか?


 会いたい。

 もう一度会えるのではと、願ってしまう。

 どんな姿でも良い。

 言いたい言葉がある。伝えたい気持ちがある。

 ようやく、ちゃんとリセロットは分かった、真の意味で理解したのだ。

 貴方をどう思っていたか、リセロットにとって、どんな人だったか。


 ペンダントを首にかける。握りしめれば、まだ体温が残っている気がした。


「さ、帰りましょう。アーサー」

「……うん。リセロット、この魔道具ね、俺作ってるの見たことあったよ。博士が言ってたんだ。指定した場所へ帰る為の魔道具だって。――君に、一刻も早く会いたかったんだね」

「博士は出不精ですから、それもあったのでしょうけどね」

 

 魔道具を手に持ち、アーサーと手を繋いでからそっとそのボタンを押す。


 刹那光が溢れた。白い光に耐えられず目を閉じる。

 体が何処かに飛ばされていくのを肌で感じとって。次に目を開けた時には、良く見慣れた景色が広がっていた。


 住み慣れた家が、目の前にある。


 足を進め、ドアノブを捻りながら、ふと思う。

 リセロットはずっとこの家にいた。『ただいま』という言葉からは縁遠かった。


「……私は、『おかえり』と言うのだと思っていました」


 そっと目を伏せる。


「私が、『ただいま』と言う側になるとは思いませんでした」

「……リセロット」


 リセロットはこの旅で、答えを出した。

 博士とリセロットの関係性の、その答えを。


「お父さん」

「え?」

 

 リセロットの小さいけれど曲がった所のない、芯が通った声が静寂を貫く。


「……沢山のことを、会得したかったんです。それが始まりだったんです」

「うん」


 アーサーは肯定も否定も疑問の声も上げず、ただ相槌を打ってくれる。


「人は不測の事態にどう対応するのか、それを知りたかっただけでした」


 博士をシナモンクッキーを焼く匂いで起こしたことがあった。

 博士のお誕生日を聞き出して、大好きなシチューを作ったこともあった。


 それからも、沢山沢山博士を驚かせて。だけどまだ足りなくて、してあげたいことはもっとあった。

 暇さえあれば、ずっと博士はなにをしたら驚くのか考えていた。


 ――そして博士が戦争に言った後、とある言葉を見つけた。この言葉を、台詞を言った時、博士がどう驚くのか見てみたかった。

 今思えば、その時既に答えは出ていたのだろう。

 リセロットが気づかなかっただけで。


「博士が帰ってきたら、言おうと思っていたんです」


 喉が熱くて、声が震える。

 可笑しいな、とリセロットは不器用に首を傾げた。何回も練習した筈なのに、いざという時にかぎって上手く声が出せない。


 ゆっくり、息を吸う。

 

 頬をこそばゆいモノが転がって、パタリと落ちた。


 レオに教えたあの言葉。

 その言葉を告げる日を望んだのは。

 その言葉の重みを、痛い程理解していたのは。

 なにも、人間だけの特権ではない。

 ――不器用だけど、鈍かったけど、同じ重さを、リセロットも抱えていた。


「『お父さん、おかえりなさい』って。そう、言いたかったんです……っ」


 それからはもうなにかが決壊したように、涙が止め処なく零れ落ちる。


「ふ、ぅ……っうわあああん!」

「リセロット!」


 アーサーに抱きしめられた。その胸に顔を押しつけ、リセロットは嗚咽を漏らす。


「帰ってくるって、言ったじゃないですかっ! 言ったのにぃ! どうしてですか、お父さん、お父さん……っ」


 優しい、春の日差しのような笑みを思い起こす。

 

 どうかもう一度だけ会いたい。

 もう一言だけ。


 ううん、もう一度会えたとしても、それからはずっとリセロットは一人ぼっち。

 この家で、機能が停止する日を待つだけ。

 また離れ離れになる恐怖を体験するのなら、もう二度と会えない方が幸せなのかもしれない。


 リセロットはポツリと言葉を漏らす。


「今度は私が、迷子になっちゃいました……」

「――リセロット」


 力強い言葉に顔を上げると、強い光を宿したアーサーがいた。

 リセロットの頬にポロリと零れる涙を、ささくれ骨ばった指が拭ってくれる。


「俺が、リセロットの新しい居場所になるよ。だからどうか俺と、結婚してください」


 胸が詰まる。

 いつも通り断れば良い筈だ。

 だけど言葉が出てこない。


 言葉を返す代わりに、アーサーの胸に顔を埋めた。今はそれが精一杯だった。


◇◇◇


 朝、いつも通り目を覚ます。懐かしいベッドの上で、軽く伸びをした。

 ヒリヒリする目元をタオルで冷やしてから、リセロットはエプロンを付け、ホコリが溜まりに溜まった家を掃除することにする。


 ゴシゴシと濡れ布巾で棚を拭き上げながらも、考えるのはアーサーからの求婚。

 ため息が一つ漏れる。


 そこで丁度アーサーが階段を下りてきた。彼には、博士のベッドを使って寝て貰った。あの本の束に囲まれながら良く眠れたのか、と不安になったが、アーサーの顔は健やかだった。


「おはよう、リセロット」

「おはようございます、アーサー。昨日は見苦しい所を見せてしまい申し訳ありません」

「全然気にしてないよ。むしろ約得だね」


 笑うアーサーを、リセロットはじっとり見つめた。


「アーサーは、どうして私が好きなのですか?」

「え? 最初から俺言ってたよね。『一目ぼれだ』って」


 確かに言われた。だがあの時はアーサーだけが一方的にリセロットを知っているだけだったし、嘘だと思ったのだ。

 リセロットの側に来たアーサーが、彼女の頬に手を当てた。


「最初は、無愛想でびっくりしたんだよ。本当に博士が作ったのかなって」

「喧嘩売ってます?」

「ううん。ちゃんと似てたよ、リセロットと博士」


 寝ぼけ眼のアーサーが、深い緑色の瞳をとろりと緩めた。


「とびきり優しくて、笑顔が素敵な所」


 リセロットはまた不意に涙が込み上げ、袖で目元を擦った。

 

「アーサー……、私ちょっと森を歩いてきます。朝食にパンを焼いてあるので、食べてください」

「ありがとう。気をつけて行ってきてね」


 緩く手を振られ、会釈をしながらリセロットは森に出た。

 空は薄い雲が重なって、薄水色をしていた。


 ぼんやりと森の中を歩く。

 リセロットは、気づけば迷子レーダーの発信源であるペンダントを握りしめていた。


 ――誰か、私を見つけてください


「そっか、私ずっと、寂しかったんですね」


 誰かと言いながら、思い浮かべるのは一人だけだった。


 白に近い灰色の雲が、空に伸びていく。上を見上げれば、ポツリとリセロットの鼻先を濡れ、やがて霧のような雨が降り出した。


 サアサア雨が降り注ぐ中、リセロットは大樹の下に座りしのぐ。


 自分の体を抱きしめる。

 寂しくて、体がバラバラになってしまいそうだった。

 博士の気持ちが、痛い程分かってしまった。


 雨が地面を叩く音。葉の上を転がる音。空気に触れる音。

 雨の音だけがリセロットの耳を満たす。

 だけど不意に、違う音が混じった。


「アーサー……?」


 雨が降っているから、探しに来たのだろうか。


 リセロットは腰を上げ、ペンダントを握りしめながら歩き出した。

 雨で髪も肌も濡れる。それでも歩みは止まらない。


 アーサーに会いたくて会いたくて堪らない自分の気持ちに、リセロットは今気づいた。


◇◇◇


 勿論発信源のペンダントなど持っていないアーサーが何処にいるのか、リセロットには分からない。

 ただ声を頼りに探し続ける。


「アーサー、アーサーっ」


 呼んでみるも、返事は来ない。

 逆方向に進んでしまったのかもと、リセロットは来た道を戻ろうとする。

 振り返った所で、誰かがリセロットの手を掴んだ。


 大きい手で、もうそれだけで誰か分かってしまう。


「博士……」

「リセロット、アーサーがいるのはそっちじゃないよ。さ、行こう」


 唇を噛み締めた。

 リセロットはその姿勢のまま動かず、拳を握りしめる。

 子供のように、彼女は顔を横にブンブン振った。


「嫌です。そしたら、博士がいなくなってしまいます」

「リセロット……」

「行かないでください。博士がいなくなったら、私は一人ぼっちです」


 優しく、だけど凛とした声がリセロットの耳朶を打った。


「一人にはならないよ。アーサーがいてくれるから。――僕はね、リセロット。君を最初、母親と同じ姿にしようとしたんだよ」


 知っています、という言葉を飲み込み、彼の言葉に耳を傾ける。


「でも変えて、リセロットの髪の毛とかは伸びないけど、身長は成長するように作った。というよりも、年相応の姿になるように頑張った、ていうのかな?」

「……何故、そんなことを?」

「憧れだったんだ。お前みたいな奴に娘はやらんって言うの」


 なにその台詞、と呆れたリセロットは博士に顔を向けた。

 おどけた顔をして笑う博士が、あの日と変わらない姿でそこにはいる。

 

「でも困っちゃったよね。だってアーサー、良い子なんだもん。安心して任せられちゃう。……それにね、リセロットはアーサーの他にも、沢山いるでしょ、知り合い。ちゃんと勘定に入れないと、怒られちゃうよ」


 ね、と頭を撫でられる。

 叫びだしたいような怒りと愛おしさが込み上げた。


「でもっ、私のお父さんは、博士だけです!」


 絞り出したような声に、真っ赤でくしゃくしゃなリセロットの顔に、博士の顔が悲痛に歪む。


「ごめん、ごめんね。僕の大切な、ただ一人だけの可愛い娘」


 冷たい体に抱きすくめられる。

 この冷たい体は、全て雨のせいだったら良いのに。

 そう思いながら、リセロットは博士を抱きしめ返した。


「どうか、幸せになってリセロット。寂しかった僕の元に来てくれた、天使みたいに素敵で、不器用だけど一生懸命な、僕の可愛い娘。愛してるよ」


 ボロリと涙が溢れた。


「私も、ですっ。愛してます、愛しますお父さん」


 嗚咽が漏れるばかりで、それ以上は言葉に出来ない。


 抱きしめ合っていると、博士が顔を上げた。


「さ、アーサーは向こうだよリセロット」


 声は雨が地面を打つ音に溶けていく。

 涙で顔をぐしゃぐしゃにしたまま、博士がいた場所を見るが、もうそこには誰もいなかった。


 代わりに、リセロットの体が雨で濡れなくなる。リセロットの背後に、傘を持ったアーサーが立っていた。


「探したよ、リセロット」

「あ……」

「泣いてたの?」


 目元に手を当てられる。温かくて、優しい手。


 何故か急に恥ずかしくなって、リセロットは言い訳をする。


「い、今まで、泣いたことなんてないですのにね。どうかしてしまったんでしょうか、私。だから、その、」


 リセロットの言い訳に耳を貸していたアーサーは、ふと表情を緩めた。


「それはきっと、もうリセロットが迷子じゃないからだよ。――リセロットは偉大なる博士、オリヴァーの愛娘で、そして俺の奥さん!」


 目を見開いたリセロットは「奥さんはまだ、確約したわけじゃないです」とだけ小さく否定した。

 アーサーには聞こえていなかったようで、「ん?」と聞き返される。

 それに緩く首を横に振って返せば、アーサーがリセロットに手を伸ばした。


「さ、帰ろうリセロット。俺たちのお家に」

「……はい」


 手を伸ばしたリセロットは、口を開く。

 博士が教えてくれた、大切な笑顔を、大切な人に向ける。

 

「――私、貴方が好きです、アーサー」


 雨はいつの間にかやんでいる。

 微笑みを浮かべるリセロットと顔を赤くするアーサーを、葉に乗った丸い雫が、ひっそりと映し出していた。


               終わり

ここまでお付き合いいただきありがとうございます

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