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 一階に行けば、アーサーがリセロットを待っていた。

 普段の髪型とは違い、髪を下ろしているリセロットを見たアーサーは溢れんばかりの笑みを浮かべた。


「凄い可愛い。本当に天使みたいで、もう今日死んでも良いくらい可愛い。こんな可愛いリセロットと一緒に花まつりに行けるなんて夢みたいだ。結婚して欲しい、一生一緒にいてリセロット」

「ありがとうございます、そして求婚はお断りさせていただきます」

「残念」


 口では惜しみつつも、着飾ったリセロットを見て満足しているのかアーサーは笑みを崩さない。


「では、俺にエスコートさせていただけますか? リセロット」

「ええ」


 差し出された手に自らのを乗せたリセロットは、手を振る女将に礼をしてから花まつりに行くことにした。


◇◇◇


 昨日からだいぶ賑わっているとは思っていたが、いざ花まつり当日になれば昨日の比ではないくらいの人がいた。

 はぐれないように手を繋がれながら、リセロットは人混みの中を歩く。


「リセロット、まずは何処に行きたい?」

「はい。最初は果実飴を売っている所に行ってみたいです」


 女将に教えてもらったのだ。

 果実がパリパリの飴でコーティングされている、とても甘くて美味しいモノがあると。


「それだったら……あ、あれかな?」


 リセロットがぎゅうぎゅう押されて前も後ろも分からなくてなっている間に、背の高いアーサーは果実飴屋を見つけたのかずんずん進んでいく。

 アーサーに手を引っ張られながら人の海に溺れそうになっていると、それに気づいたアーサーが「ごめんね」と一言詫びを入れてからリセロットの脇の下に手を差し込んだ。

 つま先が浮き、その間に運ばれる。


「はい到着。ごめんね、女の子を急に持ち上げて」

「いえ、助かりました。ありがとうございます」


 リセロットはもみくちゃにされ曲がったリボンを直しながら、どんな飴が売っているのか物色する。


「アーサーはなににしますか?」

「俺? 俺は別にいいかな」

「そうですか。それでは私は苺のにしましょうかね。すみません、苺の果実飴を一つください」

「はいよ」


 果実飴屋の店主がお金を受け取ると、リセロットに三つ苺が連なった果実飴を差し出した。


「ありがとうございます」


 受け取ったリセロットは、人混みからそれた所で苺飴に齧り付いた。

 パリッと飴が割れる心地良い音の後、ジュワリと苺の甘みが溢れ出す。

 てっきり、飴が甘い分苺の甘みは劣ると思っていただけに、リセロットは目を見開いた。


「あ、甘いですアーサー。パリパリです」

「良かったね」


 夢中になって食べるリセロットを、アーサーが柔らかく見つめる。


 むしゃむしゃ食べていたリセロットは、人混みの中歩く騎士たちを見つけた。


「警備として騎士たちが見回っているんですね」

「だね。こんなに大規模なまつりじゃ、なにか起こらないことの方が珍しいから」


 食べ終わったリセロットとアーサーは、もう一度手を繋ぎながら歩き出した。


「アーサーは行きたい所、ないんですか?」

「うーん、特には思いつかないな。それよりも、美味しいモノを食べているリセロットを見るほうが俺は好き」

「そうですか」


 そういうことなら遠慮なく食べよう。次はなにを食べようかな、と思考を巡らせるリセロットは、子供の泣き声で我に返った。


「あっちですね」


 アーサーも気づいていたのか、一つ頷いてからリセロットが指した方へ歩き出す。


 辿り着いたのは射的屋だった。

 リセロットは泣く子供に駆け寄る。顔を真っ赤にし鼻水を垂らす子供は、リセロットに銃を見せた。


「どうなさったのですか」

「た、弾が全然飛ばないの……っ」


 ズビズビ泣く子供から銃を貸してもらい、残り一つのコルクを詰めて品物を狙う。

 だが確かに、コルクは緩く半円を描くだけで品物には届かず、そのまま地に落ちていく。


 ニヤニヤ笑う射的屋の男を、リセロットは厳しく見据えた。


「これは不良品ではないのですか?」

「いいや? ちゃーんと撃てる奴だよ。お嬢ちゃんたちが間違っているだけじゃないのかねえ?」


 下卑た笑いを浮かべる男に嫌悪感が募る。


 拳を握りしめ男ににじり寄るリセロットを、アーサーが肩を掴んで止めさせた。


「店主、俺にも一回やらせてくれないか?」

「ああいいよ坊主」

「……っ、アーサー!」


「――落ち着いてリセロット」


 アーサーがリセロットの耳元で囁いた。


「この銃は、隣国の銃を元にして作られたんだね。この国とは違って、ほら、もう一つレバーがある。これを引かないとちゃんと飛ばないんだ。俺はちょっと腕には自信があるんだ。この子供たちの分、きっちり獲ってくるよ。だからリセロットは、騎士たちを呼びに行ってもらってもいい?」


 真剣な顔つきのアーサーに小さく頷き、リセロットは騎士を探しに行った。


「さっきまで、ここら辺にいたのだから――」


 ブーツで早足で歩く。

 人混みを掻き分けながら歩けば、騎士たちを見つけた。

 黒い騎士服を着た男を筆頭に町を歩いている。キョロキョロと視線は絶えず動いていて、誰かを探しているようだった。

 だがそんなことはどうでもいい、とリセロットは声をかける。


「すみません。子供たちを泣かせている店があったのですが……」


 黒い騎士服の男が高い身長を屈めてリセロットを見た。

 ここは侯爵家の領地なせいか、騎士も規律が整っている。一糸乱れず並んだ彼らは、リセロットの言葉に顔を顰めた。


「花まつりの日に、なんて悪事を。……一旦、そちらに向かおう。お嬢さん、そこまで我々を案内していただいても?」

「勿論です」


 歩き出すちんまりとしたリセロットの後ろを、大男である騎士たちがついていくという奇妙な状況を作りながら、彼女たちは射的屋へと向かった。


 辿り着いた射的屋では、最初とは違い、子供たちが歓声を上げ射的屋の男が顔を真っ赤にしていた。


「お兄ちゃん凄い凄い! もう十個目だ!」

「く、くそう! 坊主が、調子に乗りやがって!」

「次は何が欲しい?」

「わたし、あのふわふわのお人形が欲しい!」

「よし来た」

「あああ、高い人形が!」


 アーサーが玩具を持った子供たちにわらわらされながら、銃を構えている。

 真っ直ぐに構えられた銃から放たれたコルクは、力強く本を落とした。


 銃を下ろしたアーサーが、リセロットとその後ろに連なる騎士たちを見つめ顔を和らげた。

 黒い騎士服の男に銃を渡す。


「これは、隣国の銃を元に作られたモノだと思います」

「……なるほど。確かにそのようだ。銃は例え玩具だとしても密入とみなされる。それで悪事を働いていたなら尚更だ。連れて行け」

「はっ」


 規律が整った騎士たちにより、射的屋の男はすぐに捕縛されどこかへと連れて行かれた。


「ご協力、感謝する」

「いえいえ」


 一度敬礼し、騎士たちはまた見回りに行った。

 子供たちも、アーサーが獲ったモノを大切に持ちながら親に連れられていった。

 手を振られ、小さくリセロットも振る。


「でも凄いですね、アーサー。銃の扱いがそんなにも得意だとは思っていませんでした」

「ありがとう。俺、かっこよかった?」

「ええ、かっこよかったと称するに値する働きだったと思います」


 素直に褒めれば、アーサーは頬をピンクにした。


 アーサーが銃を構えた格好には、ブレがなかった。


「何故騎士なのですか。銃の方が輝けたでしょう」


 今日は部屋に置いてかれている剣を思い浮かべるリセロットの前に人差し指を立て、アーサーはチッチッと振った。


「男のロマンだよ、ロマン」

「……なるほど? 会得しました」


 確かに博士も、ロマンと言って振れもしないのに剣を作っていた。


「さ、次は串肉を食べに行きましょう。さっき騎士たちを探している時に見つけたのです」

「ちゃっかりしてるね……」


 呆れるアーサーの手を引きながら歩いていると、目の前からローブを着た人が走ってきた。

 打つかりそうになり避けながら、リセロットはそのローブ姿に既視感を持ち、腕を掴んだ。


「きゃあっ、なんですの!」


 顔を覗き込めば、銀髪の令嬢がリセロットを眉をひそめながら見つめてくる。


「わたくしに気安く触らないでちょうだい」

「いえ、一人で歩くのは危ないですよ」

「余計なお世話よ」


 言い合いをしていれば、アーサーがリセロットの後ろに立った。


「リセロット、大丈夫?」

「私は大丈夫です。ですが――」

「……あ、貴方名前はなんですの!」

「え? 俺は、アーサーですけど」


 顔を顰めていた令嬢が、リセロットに対する態度とは違いたおやかな笑みを浮かべアーサーに擦り寄る。


「まあ、素敵な名前……わたくしの名前はレイラですわ」

「そうなんです、ね?」

「どうぞ、レイラと呼んでくださいまし?」

「あはは、それは恐れ多くて俺には出来ないですね……」


「あの、令嬢であるレイラがそんなに男性に触るのははしたないと思いますよ」


 アーサーとレイラの間に、リセロットが割って入った。

 レイラが顔を真っ赤にする。


「ちょっと、貴女にはレイラ呼びを許した覚えはないわよ!」

「離れてください、アーサー、いいえ不審者。女性に不用意に近づいてはいけません」

「えっ、俺が不審者扱いされるの? 心外だよリセロット、俺にはリセロットだけなのに」


 グイグイと胸を押されながらアーサーが反論するが、リセロットは真顔のまま「不審者」と連呼する。


「〜〜っ、もう、なんですの、このわたくしを無視するなんて!」


 二人の掛け合いに痺れを切らしたレイラが声を荒げると、二人はレイラに向き合った。

 アーサーが心配そうな顔を作る。


「あの、でもやはり令嬢の一人歩きは危険だと思うのですが……」

「あら、それなら貴女がエスコートしてくださる?」


 レイラが手を差し出し、冷や汗をかいたアーサーはチラリとリセロットを見る。

 アーサーの瞳を見返したリセロットが、ぎゅっとレイラの腕に引っ付いた。


「私が守りましょう。さ、レイラまずは串肉を食べに行きますよ」

「ちょっと、だから貴女には言ってないわ! 離してちょうだい!」

「暴れないでください、レイラ」


 ムギュムギュレイラにくっつくリセロットに苦笑しながら、アーサーはふと思った。

 この領地を治めている侯爵家の一人娘も、レイラと同じ銀髪だったことを――

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