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4、狙った獲物は逃がさない



(あーもう、油断した……。お気に入りキャラだったのに、フェリクスの能力を忘れていたなんて)


たしかに彼からすれば12歳の少女が持つ強大な力に疑問を持つのは当然だろう。しかもそれを隠して、わざと力を抑えるなんてことをしていることに。


逡巡してシュリエナは口を開いた。


「……ハルスウェル公爵子息さまは、私が人間だと言えば、それを信じてくれるのですか?」


そのことにフェリクスは目を瞬かせた。


(フェリクスの瞳を欺くなんてできない。下手な言い訳も通用しないだろうし。最終手段として頭をぶん殴ることしかない!)


そう思っていると、フェリクスはゆっくりと口を開いた。


「……ごめん、君を困らせるつもりはなかったんだ」

「────へ?」

「ただ、明らかにおかしかったから。気になって声をかけて、尋ねてしまった。だから、君が人間だと言うのなら、俺はそれを信じるよ」


予想外すぎる返答にシュリエナはぽかんと口を開けてしまう。その顔がおかしかったのか、フェリクスはシュリエナの顔を見て小さく吹き出した。


それを見て、シュリエナは顔を赤らめる。


(〜〜っ! 確かにマヌケな顔してたかもしれないけど、人の顔見て笑うなんて!!)


屈辱でさらに顔が赤くなる。無名のときなんて誰にも笑われたことなんてなかったのに。


力のことがバレてしまったのは仕方がないが、笑われたことは仕方がなくない。シュリエナは拳を握りしめると、フェリクスの記憶を消すために頭目掛けて殴りかかった。


「──────っ!!」


しかし力が入りすぎていたのか頭スレスレに通り過ぎ、フェリクスの後ろにあった柱に拳がめりこんだ。


「ちっ、はずしたか」

「え……?」

「今度こそ、記憶を消してやる!!」

「え、待て待て待て!!」


顔を青くしたフェリクスにシュリエナは問答無用で拳をつくり、殴ろうとした。けれど、近くに人の気配を感じて、シュリエナは再度舌打ちをしてフェリクスから離れた。


「た、助かった……」

「命拾いしたわね。言っておくけど、さっきのこと、誰かに言ったら今度こそぶっ飛ばすから」


若干殺気を込めて告げると、フェリクスは焦ったように何度も頷いた。それを見て、シュリエナは息を吐き、壊してしまった柱を指を鳴らして直した。


「……すごい」


それを見たフェリクスは思わずと言ったように感嘆の息をもらす。


「今の、魔術だよね? 壊れた物質を直すなんて熟練の魔術師でもひと握りのはずなのに」

「…………」

「どうやったらあんなことができるの? それに魔術だけじゃなくて、剣術とか武術もできそうな雰囲気あるし」

「教えない。というか、私たちそんなプライベートな話をするほど親しくなかったはずだけど?」


線引きをすると、フェリクスは目を丸くしたあとに獲物を見つけたように瞳を輝かせた。


「ふうん、それが君の素か」

「なに? タメ口だからって親に告げ口でもするつもり?」

「まさか! そんなつまらない事しないさ。それにタメ口で話してくれたほうが仲良くなりやすいしね」

「私は誰かと仲良くするつもりはないけどね」


ドレスの裾を掴み、シュリエナは四阿を出ようとする。今ごろ、あの場に残っていた子息や大人たちのつまらない会話のせいでシュリエナたちの仲を勘ぐられているころだろう。


(さっさと戻ってなんでもないことを伝えないと)


ちょっとだけ壊してしまった柱も直したし、さっきはあった人の気配も今はない。フェリクスを置いて戻れば問題ない。


そう考えていると、後ろにいたフェリクスに左腕を掴まれた。


「待って」

「───なに?」

「っ、そんなに殺気立たないでよ。ただ提案しようと思っただけさ」

「提案?」


後ろを振り返り、わずかに送ってしまった殺気を消す。手を振り払い、掴まれた手首を右手で押える。無言で先を促すと、フェリクスは口を開いた。


「君も考えていると思うけど、会場は俺と君の話に夢中になっている可能性がある。まあ、ハルスウェル公爵家の俺とベルンシュタイン侯爵家の君が一緒に庭園に向かったとなれば、嫌でも話の渦中に落とされる」

「そうね。だからなんでもありませんでした〜って示すために早く戻りたいんだけど」

「なんでもないって言っても貴族はそれを簡単には信じないと思うけど? 疑り深い人間の集まりだからね」

「…………なにが言いたいの?」


冷めた視線を送るシュリエナにフェリクスは提案した。


「いっそのこと、俺と婚約しない?」

「…………は?」

「疑われるなら初めから婚約すると公言したほうが手っ取り早い。それにお互い公爵家と侯爵家だ。身分の釣り合いも取れているし、なによりもこれ以上婚約の打診をされずに済む」

「却下」

「え……」


断られないと思っていたのか、フェリクスは信じられないと言った顔をする。しかし信じられないのはシュリエナのほうだ。


(話を聞いたのがバカだった。なにが婚約よ。私にとってメリットなんて何もないじゃない)


貴族で12歳ともなれば婚約話が持ち上がってくるのは当然のことだ。だから王子と悪役令嬢も婚約したわけで。


けれどシュリエナは誰かと婚約するつもりなどない。


「え? なんで? ハルスウェル公爵家と親戚になれるのに?」

「私がそんなものに興味があると思ってんの? そもそも婚約話なんて持ち上がったこともないからあんたと婚約する必要なんてないし、家のために婚約とか嫌に決まってんでしょ」


その気になれば今すぐ貴族やめてダンジョン生活だってできる。貴族で居続けることにそこまでこだわりなんてない。


話は終わりだと切り上げようとしたのに、フェリクスはシュリエナの発言に食いかかった。


「え、婚約話持ち上がったことないの? 一回も?」

「そう。だから盾になってほしいとかそういうのもない」

「信じられない。だって君はそんなにも可愛いのに?」

「あら、いいこと言うじゃない。でも残念。私が可愛いことなんて毎日鏡見てるから分かってんのよ。だから今の発言じゃときめかない」


とんだナルシスト発言だと思うが、生憎と事実だ。鏡を見て、毎日可愛い顔してるって思ってダンジョンに潜っている。今更誰かの褒め言葉に照れるほど、あまちゃんじゃない。


「話は終わり? なら、私は会場に戻るから」


シュリエナは今度こそ、会場に戻ろうと足を踏み出す。しかし、またしてもフェリクスに止められた。


「あのねぇ……」


いい加減にしてほしいと振り向くと、フェリクスの顔を見て、思わずゾクリとしたものが背中を襲った。


「……っ」

「俺は君のこと、こんなにも気に入ったのに」


顔を見た瞬間、その妖しく光る瞳から逃げ出したくなった。恐怖ではない。けれど、逃げ出さないと、一生逃げられないと本能で感じた。


「君は俺のこと好きじゃないの?」

「っ、好きか嫌いか以前の問題よ。まだ会って間もないでしょ。そんなので好きか嫌いかなんて判断できないわよ」

「おっかしいなぁ。今までの令嬢は俺の顔みてすぐに好きって言ってたのに」

(おかしいのはあんたの頭よ!)


そう叫びたいのを我慢して、シュリエナは睨みつける。たしかに、フェリクスの顔は好みだ。だからお気に入りキャラになっているわけだが、好きとかそういう話ではない。


「まあいいや。嫌いじゃないなら、君を惚れされるだけだ」

「ふん、私は自分よりも強い相手にしかときめかないっての」

「それを言ったら誰も君の恋人に立候補できないじゃないか」

「そうね。だったら諦めて、次の相手でも探すことね」


シュリエナはそう吐き捨てるが、フェリクスは目を細め、妖しく笑うだけだった。


「まさか、そんなことしないよ。だって───」


腕を捕まれ、フェリクスの方へと引き寄せられる。顔が近づき、その黄金の瞳に射抜かれた。


「狙った獲物は、逃がさない主義だからね」


嫌な汗が背中を伝う。シュリエナはとんでもない相手に気に入られてしまったと思った。



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