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8.捜査一日目 ⑦侍女の話と被害者の部屋(1)


うーん。


調べれば調べるほどわからないことが増えていく気がするな。


気を取り直して。

スタッフォード夫人にさっき許可をもらって、被害者の部屋を見せてもらう事になった。警備兵団に捜査を許可されているから、勝手に見ていいって言われたんだけど、侍女の部屋って基本相部屋じゃ…

俺が一人で入っていって、不審者扱いされないか不安だ。


そんなことを部屋のドアの前で考えていると


「そこで何してんの?」


と声をかけられた。


声の方に振り向くと、侍女の制服を着た女性が立っていた。

すごい不審者を見る目だけど、顔はかわいい。

金髪の髪を清潔感のあるシニヨンに結っていて、少しゆるく崩した前髪が額にかかっているのがおしゃれな雰囲気だ。

すごい男受けそうな顔立ち。


「えっと、昨日の事件を捜査しておりまして…」


「ふーん。でもあなた、警備兵団の兵士じゃないでしょう?」


「あの、王子殿下と警備兵団にご許可をいただきまして。エドモンド・アンリと申します。」


ブラックモア侯爵家にご迷惑が掛からないように、とりあえず名前だけ名乗る。

ジロジロみてくる。


「あの、こちらのお部屋の方ですか?」

「違うけど。」


違うんだ。そうだったら手っ取り早かったのに。事情を説明して入れてもらえば、不法侵入にならないし。

いや、許可いただいてるけどね? 責任者からは。


「なんで、こんなとこにいるの?」

「あの、被害者の方のことを調べていまして…」

「この部屋ってローザとアンナの部屋だけど…もしかして、昨日死んだのってローザなの?」


「ご存じないんですか?」

「誰かが死んだってことしか。捜査中だから秘密だとかで、それ以外は何も言われてないけど…そっかぁ。ローザねぇ。」


え? もしかして、まずったかな?


「被害者のことは、内密にしていただいていいですか? その、捜査中なので。」

とりあえず、彼女に秘密にするように念を押す。

わかったって言ったけど、怪しいなぁ。


まぁ、いいか。別に、俺は困らないし。


それより。


「ロドリゲス嬢が殺されるのに心当たりでもあるんですか?」

「ないけど?」


ないんかい。


心の中で突っ込む。彼女は話を続けた。


「ローザとは全然話もしなかったし、なんか部屋でいっつも十字架握りしめて祈ってたって話だし。根暗なのに殺されちゃって…かわいそう。まぁ、彼女、王妃様付の私のこと嫌ってたみたいだしぃ。別にどうでもいいんだけど。」


亡くなった方にその言い方どうなのよ?

こんなのが王妃様付で大丈夫なのか? 


「王妃様付ってことは、昨日は旧棟の方にいましたか? ウェストウッド殿と王妃様が商談をされたって…」

「いたけど、それが? 私は事件とは関係ないよ?」


いたんだ。


「昨日、悲鳴を聞きませんでしたか? たぶん、3時前くらいだと思うんですけど。」


俺がそう尋ねると、彼女は驚いた顔をして、しどろもどろに、

「し、知らない。なんにも、し、知らない、けど…」

と答えた。


めちゃくちゃ怪しい。


「聞いたんじゃないですか? 王妃様も悲鳴を聞いたって聞きましたよ。王妃様付で、あの棟にいたのに、悲鳴を聞いてないんですか?」


「あーー。そう言えば、聞いたわ。それで、王妃様がびっくりされていて…」


「その時、どこにいたんですか?」

「え?」


え? って何?

王妃様といたなら、事件現場の隣の部屋にいたんだろ。


怪しい。


「えっ…と、王妃様の部屋の控えの間に、いたけど?」


なんで語尾上げて疑問形なの?


「控えの間って? 使用人がいる用の部屋ってことですか?」

「そう。王妃様の部屋にはそれが備わっていて、お二人のお邪魔にならないように、控えの間で待機してたわけ。」


じーっと彼女を見ると


「なによ! ほんとなんだから。その後、あわててマリアがやってきて、それで二人で王妃様をなぐさめたんだから。」

「マリアっていうのは?」

「もう一人の王女付の侍女だけど…」

「その人は、どこにいたんですか?」

「えーっと、マリアは…いつも商談の合間にお茶のおかわりの用意をしに、使用人用のキッチンに行くから…」


じーー。


「ほんとなんだから。ちゃんと、控えの間にいたんだからね。」


そう言って彼女はプイっと背を向けて去って行った。


それで、結局君だれよ。


気を取り直して。


いざ、秘密の花園へ―


ドアを開けるとそこには、ぐっちゃぐちゃの布団が置かれた小さなベッドがある。


きたなっ。


もう一つの、部屋の奥にあるベッドはそれとは対照にピシッと整えられていた。

性格正反対の二人が同室っぽいな。


スタッフォード夫人の話だと、ロドリゲス嬢のベッドは奥側だって言ってたけど、交換してたりしたらどうしよう。


やっぱり、無理言ってでも彼女に同席してもらえば良かった。

忙しそうで、頼めなかったんだよ。俺の、意気地なし!


自分を鼓舞して、奥の方に進む。

小さな木製のベッドの横には小さなキャビネットが置いてあり、その上にはろうそく置きの他に、にきれいな金色のロザリオが置かれていた。


さっきのなぞの侍女が、ロドリゲス嬢はいつも祈ってるって言ってたな。

旧教のエスパーニャ大皇国出身の彼女のものだろう。

アルビオン王国の人はロザリオなんて聖職者じゃなきゃ持ってないし。


ということで、そのキャビネットを確認する。


「なんか、亡くなった方のことこうやって調べるの気がひけるな…」


『だから事件なんかに首を突っ込むものじゃない。』

そう言いながら、キャビネットの方を指すお嬢様が妙にリアルに想像できた。

ちょっと笑える。


一つ目の引き出しを開ける。

インク瓶やペン、封筒や便箋などの文房具が入っていた。特に変わったものや手掛かりになりそうなものはない。

二つ目の引き出しを開ける。

そこにはノートが一冊と、教会の経典かな? が入っていた。

ノートをペラペラめくる。あっ、これ日記だ。それは、前王妃様の部屋にあった秘密の部屋で見つけた日記と同じように、エスパーニャ語で書かれていた。

経典をペラペラめくる。こちらはいたって普通の古代語で書かれた経典だった。流石、教会の中枢、エスパーニャ出身だな。

最後に、開き戸を開ける。

そこには何冊か本が入っていた。ジャンルもバラバラだ。今はやりの小説から小難しそうな専門書まで。専門書の多くは教育に関するものだった。

王子殿下の教育について勉強してたのかな。


キャビネットに入っているものを、引き出しごとに布袋にしまう。

泥棒みたいで本当に気が引けるけど、お嬢様が持ってこいって…

ブラックモア侯爵家のご令嬢に言われて…庶民の俺は逆らえなかったんです…


そんな言い訳を心の中で呟いていると…


「ちょっと、あんた!人の部屋で何してんの!」


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