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7.捜査一日目 ⑥侍女頭の話

挿絵を表示いただくと、ざっくりした王宮と現場の棟の見取り図が確認いただけます。


「昨日は、王子殿下のお茶会の準備で、朝からあわただしくしておりました。」


クレイトンさんと別れた後、俺は彼の執務室の向かいにある、侍女頭のスタッフォード夫人の部屋を訪ねた。


クレイトンさんと同じように、昨日の行動について聞いている最中です。


「朝一番で準備に取りかかり、会場の準備が整ったのは11時頃でした。」

「その後、クレイトンさんに報告に行ったんですね?」

「そうです。その後、すぐに食堂で昼食を取り、ここに戻ってまいりました。事務作業を片付けておかなければなりませんでしたので。」

「お茶会は、2時からでしたよね?」

「そうです。ですので、1時半ころ部屋をでて、もう一度会場の確認をし、その後、お客様のお出迎えの準備をいたしましたが…」


彼女はそれまでスラスラと語っていた言葉を、突然切った。


「なんですか?」

「そう言えば…ローザが、その時おりませんでした。あの時は忙しくて、気にしませんでしたが…。」

「ロドリゲス嬢はもともとお出迎えの担当だったんですか?」

「いえ。そうではありませんが、ローザは殿下付の侍女で、殿下に関しては、それはもう…。何から何まで口をはさむものでしたから…。昨日の準備の時にも、あちこちに細かく指示を出したりして。そのローザが、大事な殿下のお茶会の場にいなかったのが…」

「変だなってことですか?」


俺がそう尋ねると、彼女はコクリとうなずいて肯定した。


うーん。つまり、ロドリゲス嬢は王子殿下に関しては口うるさい感じだった。で、スタッフォード夫人はそれをよく思ってなさそうだな。彼女の言い方的に。


「最後にロドリゲス嬢を見たのは、何時くらいかわかりますか?」


彼女は少し考えて、

「たぶん…11時頃です。会場の準備に区切りをつけた後、一人で確認しているのを見ましたから。」


なるほど。その後、旧棟の方に行く彼女をクレイトンさんが目撃したってことかな。


「わかりました。お茶会の間は、ずっと会場に?」

「いえ。お出迎えが終わり、無事にお茶会が始まったのを確認して、その場を離れました。何かあればすぐに報告するように言って、事務作業の続きをここで。」

「なるほど、その間に、クレイトンさんが訪ねてきたってことですか。何時頃か覚えていますか?」

「3時少し前だったと思います。」


クレイトンさんとスタッフォード夫人の話に大きな矛盾はないな。


「ロドリゲス嬢について聞きたいんですが、特別親しかった人や、恨んでる人など、何かご存じですか?」


スタッフォード夫人はしばらく考えた後、答えた。

「特に思い当たりません。彼女は、もともと周りと距離をおいているようでしたから。心を開いていたのは、イザベラ様、前王妃様くらいでしたし…。イザベラ様の事故の後は、それがよりひどくなって…王子殿下にしか心を許していませんでした。恨むほど関係のあったものはいないと思います。」


うーん。他国から来て気を貼ってたのかなぁ。


「その、前王妃様と彼女はどんな様だったんですか?」

「そうですね…。彼女は前王妃様のことを随分尊敬していたようです。前王妃様は少し冷たい、といいますか、私たちに気軽に声をかけてくださる方ではありませんでしたし、厳格な方で…。彼女とは合っていたんだろうと思います。それで、わざわざエスパーニャから連れてきたんじゃないでしょうか。」


なるほど。似た者同士ってことかな。


「ちなみに、前王妃様と国王陛下の関係についてなんですが…」

「典型的な政略結婚のご夫婦でしたよ。お互い、相手の立場を尊重していれば良かったんでしょうが、前王妃様は立場をわきまえず、政治や予算のことに口を出したりして…。正直に申し上げて、今の王妃様がいらっしゃって、良かったと思ったいるんです。」


「そうですか。」


うーん。

いくら関係の良くない国の出身だからって、亡くなった王妃様のことそんな言うかね?

ロドリゲス嬢が王子殿下にべったりだったのって、周りが彼の母親を悪く言うからだったんじゃないの?


ついでに、事件現場の部屋についても質問しておこう。


すると、夫人の表情に一瞬陰りが差した。

先ほどよりも顔が青白くなっているように見える。彼女は少しの間、言葉を探しているようだった。


何かあるのかな?


「あの…大丈夫ですか?」

声をかけると、彼女はコクコク頷いてた。


うーん。大丈夫そうではない。


「何か思うところがあるなら、お話いただけませんか?事件に関係がなくても、何かの手掛かりになるかもしれませんので。」

なるべき優しく聞こえるように丁寧にそう告げると、彼女はうつむいていた顔をはっと上げてこちらを見た。


しばしばの静寂。


また顔を下げた彼女はぽつぽつと話してくれた。


「お話しするのは少し気が引けますが…あの日は、ちょうど夕暮れ時で、庭園を通り抜けていたときのことでした。ふとあの部屋の方に目を向けると、薄暗い光が漏れているのに気づいたんです。ずっと閉ざされていたはずの部屋から、微かに灯る明かりが見えて…それで…その…何かが動いたんです。」


え?


彼女は少し震える声で続けた。

「その時、私ははっきりと人影を見ました。明かりの向こうに、誰かがいる…でも、その部屋はずっと使われていないはずですし、誰も入ることができないはず。何が起きているのか理解できず、恐ろしくて…」


え? え?


スタッフォード夫人は、一瞬の沈黙の後、さらに言葉を絞り出すように話を続けた。


「その光景が、あまりにも不気味で…。前から、王宮内では前王妃様の死にまつわる噂がありましたから。一人でいる時にバルコニーから落ちるなんて…しかも、部屋に外から鍵がかけられていて…。彼女の死が本当に事故だったのか…何かもっと別の…恐ろしい力が働いたのではないかって…そういう話が絶えず囁かれています。それまでは馬鹿馬鹿しい話だと思っていましたが、その…」


そう言って彼女は言葉をつぐんだ。


え? ほんとに心霊現象的な? 人外の存在が関係してるの?


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