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6.捜査一日目 ⑤執事の証言

コンコン。


ドアをノックすると、返事があってから一人の男性が出てきた。

昨日もお会いした、執事のクレイトンさんだ。


「お待ちしておりました。」

そう言って部屋に入れてくれた。


部屋にはセンスのいい木製の大きな作業机が置いてあった。机の上はきれいに整理整頓されている。部屋の隅に鉄製の扉がついた棚が置かれている。


机の対面おかれた椅子に腰かけると、お茶を入れてくれた。

普段、自分が入れる側だから、こうやってお茶をだされると逆に緊張するな。


「ありがとうございます。それでは、さっそく話を聞かせてもらってもいいですか?」

そう言うと、クレイトンさんは一つ頷いて、

「もちろんでございます。」と言った。


では早速。


「昨日の行動について教えてくれますか? わかる範囲でいいので、時系列でお願いします。」

「かしこまりました。いつも通り、4時に起床しました。支度をと問えた後…」


どうしよう。

そんな前から語ってくれなくてもいいって言いづらいけど、話が長くなりそう。


そんなことを思っている間にも、彼の話は淡々と続く。


「朝の定時ミーティングの後は、ここで業務にあたっておりました。その後、11時過ぎごろにスタッフォード夫人が、王子殿下のお茶会の準備が整ったことを報告しに来ております。その後、一度会場の確認に大庭園に伺いました。部屋に戻り、11時半ごろでしょうか。錠前師のウィンチェスター氏がいらっしゃいましたので、依頼内容の確認を行いました。彼が作業のために退室された後、昼食をとりまして、その後は引き続きこちらで業務を。」

「あの、会場からの行き来の間で、被害者のロドリゲス嬢に会ったり、見かけたりしませんでしたか?」

「いえ。その時は見かけておりませんが、こちらの窓から彼女が庭を歩いているのを見ました。ウィンチェスター氏も一緒だったので、11時半ごろかと。」


クレイトンさんの執務室は、事件のあった棟と回廊で繋がっている別の棟にあって、どちらも俺とお嬢様が昨日散策した庭に面している。

窓を見ると、確かに庭が見えた。


「なるほど。」

メモメモ。


「すみません。続きをお願いします。」


「はい。その後、3時少し前に、サムが訪ねてまいりまして、旧棟で悲鳴を聞いたと報告を受けました。」

「旧棟っていうのは、あの事件のあった棟ですか?」

「そうです。王宮には全部で6つの棟がございますので、それぞれに呼び名をつけております。」


なるほど。


「それで、その旧棟に向かったというわけですか。スタッフォード夫人を呼んだのはあなただと伺ったんですが、それは何のために?」

「昨日は王妃様が旧棟をお使いになる日でしたから、王妃様に何かあったのかと。私よりも、女性の責任者がいるべき事態もあるかと思いまして。」


それはそうだよなぁ。


「ということは、クレイトンさんは昨日、ウェストウッド殿が商談で訪ねてくることや、王妃様があの棟を使うことを知っていたんですね。」

俺がそうつぶやくと、クレイトンさんは表情を変えずに

「はい。」

と答えた。


「グレイ殿から聞いたんですけど、昨日は連絡がうまくいっていなくて、その、旧棟の警備ができていなかったって話ですが、具体的に聞いてもいいですか?」

「こちらからは、毎日の王妃様のご予定を連携しております。考えられるのは、王妃様の予定を書面にまとめた者が書き忘れたか、連絡に行く間で問題があったか、のどちらかと思います。現在、その点は確認しております最中です。」


なるほどなー。


「それで棟に向かって、ウェストウッド殿と合流した後、部屋の鍵を取りに戻ったということですかね?」

「そうでございます。サムに警備兵団に報告するように言っておりましたので、その道中で団長にお会いしました。2人で国王陛下に状況を報告し、部屋の開錠の許可を得て、戻りました。」


「わかりました。詳しくありがとうございます。」

「いえ。」


クレイトンさんの話で、事件当日の動きがなんとなくわかったな。


「ちなみに、ロドリゲス嬢はどんな方でした? 親しい人とかご存じだったら教えていただきたいんですが。」

「彼女は、非常に真面目で優秀でした。動きもとても洗練されておりました。人となりについては、私よりもスタッフォード夫人の方が詳しいかと存じます。」


それもそうか。

王宮に勤める使用人は百人以上。そのすべてを取りまとめているとは言っても、細かいとこまでは把握してないよな。


「わかりました。ありがとうございました。」


せっかくだからお茶をいただく。

お茶うまっ!


『鍵の保管状況を確認にしておけよ』


お嬢様も指令を思い出した。


「あの、事件のあった部屋の鍵なんですけど、いつもはどこに保管しているんですか?」

「あの部屋の鍵は、前王妃様がはかなくなられた後は、国王陛下が管理しておりました。」

「え? 陛下がですか?」


普通、あんな不気味なとこの鍵を陛下自らが管理するかね?


「あの、失礼ですけど、どうして陛下がご自分で?」

「陛下は、前王妃様の件を大変嘆いておいででした。前王妃様が管理されていた鍵が見つからなかった時、それならもう一つの鍵は自分が持っていようとおっしゃいまして。」


うーん。

話を聞く限り、前王妃様と国王陛下は完全な政略結婚だけど…

秘密の部屋にあった手紙の束や肖像画を思い出す。

噂の話も聞いてみていいかな?


「あの、実は前王妃様と陛下の仲があまり良くなかったんじゃないかって噂を聞いたんですけど…」


「噂は、噂でございます。お二人の関係については、私ども使用人には過ぎた興味です。」


そう言って、クレイトンさん会釈した。

流石に、ペラペラしゃべってくれないか。


「どうして、あの部屋にだけ南京錠が二つも?」


「もともと他の部屋と同様に、一つしかつけておりませんでしたが、前王妃様のご要望で、違う鍵を追加したのです。」


なるほど。

でも、なんでだろ。

鍵を二つつけて、自分で管理してるなんて、よほど見られたくないものでもあったのかな。


「それで、鍵が二つそろわないとあの部屋のドアは閉められないし、開けられないってことですね?」

「おっしゃる通りでございます。ですので、前王妃様の一件の際、ドアに南京錠が二つそろっていたのが大変不思議で…。」

それは俺もさっき考えたことだけど…

うーん。


「調度品などは、前王妃様が亡くなるまでは、ちゃんと置いてあったって話ですよね?」


「おっしゃる通りです。調度品類は、前王妃様がエスパーニャからお持ちになったものでした。それに…」


それに?


「あの肖像画ですが、あれは美術品の保管庫に保管されていたはずのものです。前王妃様がお亡くなりになった後、保管庫からその肖像画が消えていることがわかったのですが…。それがなぜ…あの部屋に飾られていたのか…。」


「あったはずの調度品はなくなっていて、もともとなかった肖像画があったってことですか?」

俺の質問に、クレイトンさんは「そうです」と答えた。


どいうことだ?


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