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20.捜査三日目 ②鍵の秘密


「こちらが鍵を紛失した南京錠で、こちらがもともと使用していた南京錠です。」


前王妃様が作らせたという南京錠は、深い金色の光沢を持ランプの光で輝いて見えた。表面には、アルビオン王家の紋章が細かく彫られていて、中央には王冠と翼を持つ獅子が刻まれている。背面には、バラの花が細かく彫刻されていた。


「見事なものだな。」

南京錠を手に取ってジーっと見ていたお嬢様は、感心したようにそう言った。


「事件の時にこの鍵を開けた錠前師が作ったものならしいです。また開けられなくならないようにロックはしないように―」


そう言っている間に、お嬢様はU字の部分、シャトルを閉めてしまった。


「何やってんです――――――――! あイテテテ…。」

「何やってるは、お前の方だ。」


お嬢様はあきれたようにそう言ったけど、絶対ロックするなって…言われてんだよ?

盛大に叫んだせいで、昨日殴られた頭がちょっと傷んだ。


やれやれと言った態度で、お嬢様はシャトルを動かした。


「あれ?」


「ボルトロック式だ。シャトルを閉めた後、鍵を回さないとロックされない。」


なんだ。そうなの?


「それなら…いいんですけどね?」


その後、ふむと言って、お嬢様は無言で鍵を確認し始めた。

彫刻の部分をさわさわしたり、底の部分を見たり、シャトルをくるくる回したり。

いじりまくっていた。


「ふむ。」


そう言って、お嬢様は鍵穴を加工用に装飾されたリング状の飾りをいじりだした。


すると。

なんか、くるくる回している。


「この部分は可動式だな。」


「こ、壊したわけじゃ…」

「そんなわけないだろう。そもそも真鍮製だ。そんなに簡単に壊せない。最初から動かせるようになっていた。」


「それなら、いいですけど。でも、何でそんな細工してあるんですかね?」


普通に考えて無駄な機能。

前王妃が鍵をいじって円状の装飾をくるくるするのが好きだったとか、そんなわけもないだろうし。


お嬢様は、考え込むように南京錠をいじっていた。


「事件当時、解錠にはそんなに時間はかからなかったんだな?」


「そんなに待ってないと思いますけど。その、錠前師の方は、何かごちょごちょやっていて、『カチっ』ていう音が聞こえたら、鍵が外れてました。」


「そうか…」


俺の言葉を聞くと、お嬢様は顎に手を当てて宙を見た。

考えてるなー。

光の加減で虹彩が緑色に揺らめいていた。


「この南京錠の作りは非常に複雑だ。よく出来ている。その分、ミステリーとしては魅力的だが、安易でもあるな。」


また、良くわかんないことをいってるけど、お嬢様の言葉で、鍵を貸してくれたクレイトンさんの言葉を思い出した。


「その南京錠を作ったのが、その錠前師の人らしいですよ。王都一の技術だって話で、何年か前から王宮の鍵の整備や補修をお願いしてるらしいです。」


「そうか。」


「もう一つの南京錠は鍵もありますよ?」

そう言うと、

「そちらは極めて一般的なものだ。鍵も問題なく使えるだろう。試してみろ。」

と、言われた。


試して解錠できなかったら怖いけど、やってみる。

こっちの南京錠はシャトルは穴に差し込むとロックされた。

さっきお嬢様が言ってたボトルなんちゃらではないみたいだ。

鍵をさして回す。

カチっと音がして、シャトルが外れた。


「確かに、普通のやつですね。鍵も使えましたし。」


そう言ってお嬢様の方を見ると、興味なさそう。

全然こっち見てないし。


考え込んでいたお嬢様が、ふいにこちらに視線を向けた。


「前王妃の交友関係は聞いたか? 仲の良かった使用人など、王宮の中で交流のあったものの情報だ。」


急に話題が変わったな。


「うーん。今回のロドリゲス嬢くらいですかね? ロドリゲス嬢だけがエスパーニャから一緒で、その他の前王妃様付の使用人はアルビオン人だったって話で。使用人からの評判はあんまり良くなかったみたいです。今の王妃様はお優しいだとかで評判いいみたいなんですけど。あの前王妃様の部屋に行くときなんかは、ロドリゲス嬢しか連れて行かなかったそうで、使用人はエスパーニャが何か企んでるんじゃって噂してたらしいですよ。」


まぁ、実際ロドリゲス嬢はスパイだった可能性が濃厚なわけだけど。


「そうか。仕方ない話ではあるな。王宮の儀礼などは国によって全く異なるからな。苦労しただろう。」


そう言って、お嬢様はまた宙を見て、考えこみ始めた。

確かに。


母国語を喋れる相手もロドリゲス嬢しかいない。

故郷の文化を懐かしみ合えるのもロドリゲス嬢だけ。

ご本人がどんな人だったかを知ることはもうできないけど…


彼女の肖像画を思い出す。

部屋に飾られたものと、秘密の部屋で見つけた肖像画は同じ人とは思えないくらいに、雰囲気が違っていた。

国王陛下とは不仲だって話だったけど…

あの部屋で見つけた手紙の束は、大切に保管されていた。


少しして、大きなため息を吐いたお嬢様は


「やはり…動機とは難しい謎だな。」


と呟いた。


動機と言えば…


昨日自分の身に起こったことを思い出す。


「昨日のやつら、なんでロドリゲス嬢の日記を欲しがったんですかね?」


「やつらは雇われただけだろうだがな。雇い主はロドリゲス嬢の日記から機密事項が漏れることを憂慮したんだろう。」


「でも、難しい暗号で書かれてたんですよね?」


「難しいといっても、解けないわけではないからな。完全ではない。」


ってことは、そんなに重大な何かが書かれている可能性があったってことか。


「何が書かれてたんですかね?」


「さぁな。」


お嬢様は全然気にしていない風だけど、あの日記、渡しちゃって大丈夫だったのかな。

俺がもっとしっかりしてれば、こんなことにならなかったし…

剣術でも始めるかな。

そうすれが、お嬢様も守れるし。

良いかもしれない。

タウンハウスの護衛をしている私兵団に訓練の参加を頼んでみよう!


「面倒なことを考えていないだろうな?」


決意を新たにしていると、お嬢様がじとーっという目でこっちを見ていた。

面倒って失礼な。


「考えてないですよ!」


「ならいいが。今日は、おとなしくしていろ。」


お嬢様はまだ怪しいものを見る目で俺を見ていた。


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