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15.捜査二日目 ④捜査会議


「とりあえず、わかっていることを整理すると、被害者の死亡推定時間は11時過ぎから1時の間。そのため、悲鳴は今回の事件とは関係がない。ってことは、あの悲鳴はなんだったんですか? 結局。」


「被害者とは他の誰かのもの、ということだろう。」

「他って、王妃様か侍女しかいないじゃないですか?」

「だから、その中の誰かだ。誰かが嘘をついているということになるな。」


あれから、南京錠を貸してもらえるようにもう一度警備兵団に交渉しに行ったんだけど、サム・リドルへの尋問なんかで忙しくしているらしくて、取り合ってもらえった。

俺たち、協力してるはずなんだけどなぁ。


なので、一旦侯爵家のタウンハウスに戻ってきた。


お嬢様が、お昼の時間に間に合わないって騒ぐし。


ただ、昨日もらえなかったミッション1の見取り図は入手できた。


そして現在、お昼をいただいた後、自室でティータイムを楽しむお嬢様と、これまでの捜査の確認中。


お嬢様の先ほどの言葉を考える。

王妃様からは直接話が聞けてないけど、嘘をつく必要もなさそうだしなぁ。

心証的にはあのアンって侍女が怪しいけど。


「もう一度、話を聞いてみます。今日はウェストウッド殿のところにも行きますし。」

「街に出たら、商会に片っ端からいって来い。大通り沿いの商会を除いた。」


マカロンをほおばったお嬢様がそう言った。


「あー、それ、いただいたミッションリストにもありましたけど、なんでですか?」

「調度品を処分するには、売るのが一番いいからな。」


確かに。でも…


「調度品を部屋から運び出すのって、かなりの労力ですよね?」

「そうだな。」

「お嬢様は、それがロドリゲス嬢の仕業だって言ったじゃないですか?」

「可能性が高いと言ったんだ。」


お嬢様を見ると、俺の話に興味なさそうに口をもぐもぐしていた。

むー。


「彼女が一人で、大きい家具なんか、運べませんよね?」

お嬢様の正面を陣取って、そう言うと、

「だから、協力者がいたんだろう。それこそ、『サム』かもしれないし、例の街で会っていたとかいう男かもしれないしな。」

嫌そうな顔を向けてそう言った。


「もしくは、その両方かもしれないし、その二人は同一人物で、やっぱり一人かもしれない。それに、彼女の仕業ではないかもしれない。」

「ややこしいこと言わないで下いよー。」


あーもう。頭がこんがらがる。


「そもそも、何で調度品を処分なんかしたんですかね?」

「自分で考えてみろ。」


うーん。調度品を処分するって、お嬢様が言うように売るのが一番いいのは確かだ。お金になるし。


「お金…ですかね。」


俺の答えにお嬢様は目を輝かせた。

何が彼女の琴線に触れたんだろう…

わからん。


「そう! 犯罪には『Sex and Monye』! アガサ・クリスティー大先生もそうおっしゃっている。」

誰だよ。アガサって。

俺の気も知らずに、お嬢様は悦に入っている。


「特に、エスパーニャ産の調度品は高く売れるからな。」


確か、クレイトンさんが調度品は前王妃様が持ってきたって言ってたな。

よく覚えてるな。


「なんでですか?」

「おまえは…本当にこの世界のことを勉強した方が良いぞ? お前、どこから来たんだ?」

まったくといった感じでお嬢様は説明を続ける。

知らないものは、知らないんだから仕方ない。

だいたい、俺がどっから来たかなんて、お嬢様が一番よく知ってるじゃないか。


「今、というか、教会の宗派が二つに分かれてから、アルビオンとエスパーニャの交流はほぼ途絶えた。そのため、エスパーニャ産のものをわが国で入手するのは難しくなった。だが、長らく栄華を極め、『沈まぬ太陽』とまで言われたエスパーニャは、文化的にも頂点を極めていた。絵画や彫刻だけでなく、工芸品に至るまで、世界一を誇るのは未だにかの国だ。それが、アルビオンには入ってこない。」


「でも、ここにはエスパーニャ産のものありますよね? それこそお嬢様の書斎とかに。」


「うちは対外政策に力があるからな。」


なるほど。さすが、外交のブラックモア侯爵家ってことね。


「つまり、世界一のものだけど、アルビオンでは買えないので、高く売れると。」


「仮に板だったとしても、エスパーニャの装飾が施されていればかなりの値段で売れるな。」


そうなの?

じゃあ、お嬢様の書斎にはいくらかかってんの?


「でも、お金に困ってたんですかねぇ?」


彼女の部屋を思い出す。贅沢らしい贅沢はしてなかったんじゃないかな。


「紙袋には、少なくとも1000ポンドは入っていたな。」


「えーーーー!そうなんですか?」


思わず前のめりになってお嬢様に尋ねる。

そんな、大金。


お嬢様は、コクリとうなずいて、もう一つマカロンを頬張った。


「じゃあ、そのお金を工面するために…」


はっ!


「もしかして、故郷に病気の家族とかいたんじゃ…。『サム』っていうのは、兄弟とかで…」

「興味深い推理だな。」

「だって、それしか考えられませんよ!」


もしそうだったら、そのお金はちゃんと『サム』に届けてあげないと…


「残念だが、『サム』はうちの国では非常に一般的だが、エスパーニャでは普通つけない名前だぞ。」


そうなの?


「『サム』は経典にでてくる『サミュエル』という天使の名を短縮したものとして、新教のアルビオンでは普及している。が、敬虔な旧教のエスパーニャでは元の語源の『サミュエル』が名前として使われる。愛称にするときも、むこうでは『サム』ではなく、『サマンサ』だしな。」


なんだよ、それ。


「じゃあ『サム』は…」

「アルビオン人だろうな。」


そうすると、彼女は男にお金を?


考えるのをやめよう。


「こういう時は分かっていることではなく、解き明かすべき謎を確認するものだ。」


言葉を切ったお嬢様は、お茶を一口飲んでから言葉を続けた。


「一つ、誰が何の目的で部屋の調度品を処分したのか。二つ、彼女が会っていた男の正体とは。三つ、『サム』とは誰か。四つ、なぜ彼女は殺されたのか。五つ、この事件は計画殺人か、衝動殺人のどちらか。」


「密室の謎はどうなんですか?」


「密室は謎ではない。前にも言っただろう。解き明かすべきは、なぜ密室になったか、その過程だ。」


「じゃあ、あの秘密の部屋は?」

「そちらについては、既に我々の手の届かないところに行っているだろう。」


どういう意味だ?

相変わらず良くわからないことを知たり顔で言うくせに、詳細は説明してくれないんだよなぁ。


「じゃあ、王妃様の予定が連携されてなかったのは?」

「それは、侍女にでも話を聞いてみろ。たしか、ウィルソン嬢と言ったか? スタッフォード夫人の前では言わなかった証言が得られるだろう。」

「なんで、そんなことがわかるんです?」

「話を聞く限り、その二人は王妃の信頼をかけて対立している。」


確かに、ちょっとピリピリしてたもんなー。


「じゃあ、もう一回話を聞いてみます。」

「そうしろ。」


お嬢様はお茶を楽しみながら、気のない返事を返した。


「そもそも、現状わかっていなことが多い。情報を集める必要があるな。」


それもそうか。


「ちなみに、五つ目の謎ってなんなんですか? 計画殺人か、衝動殺人かって。」


「衝動殺人の場合は、その場で実行できる方法で殺人に至る。あの部屋には、凶器になりそうなものがなかった。調度品が処分されているのに、不自然に凶器になりそうなものだけが残っていたとは考え難い。可能性としては、燭台置きなどが考えられるが、後頭部の傷の形状と一致しないので、それはない。そうすると、凶器は犯人によって持ち込まれたことになる。計画殺人なら、犯人が凶器を持っているのは計画のうちだろう。だが、衝動殺人だった場合はどうなる? 犯人はたまたま持っていたもので、彼女を殴り殺したことになる。金属製の角のある何かをたまたま持っている場合とは、どんな状況が考えられる?」


どういう事って…

うーん。


「仕事で必要とか…? 持ってても不自然じゃない物ってことですもんねぇ。」


そう言われると、確かに変だな。

使用人で、人の頭を陥没させるくらい強度のある金属製の何かを持ち歩いている人って…いるか?


お嬢様は考え込むように視線を少し宙に向けて、手にしたカップを口につけた。


「はー。なんかわかんないことだらけですねぇ。」


「地道にやるしかないだろう。ロドリゲス嬢が大きな秘密を抱えていたのは間違いないしな。事件に関係あるかはわからんが…」


「秘密って何ですか?」


そう言うと、お嬢様は俺の方を見て

「昨日持って帰ってきた、彼女のロザリオを」

と言った。


持って来いと。はい。


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