幕間
『必ず、生きて帰ってきます。』
そう言った男の顔を思い出すことができない。
顔も思い出せないのに、こうして未練がましく何度も夢に見るのはなぜだろうか。
これが夢だと知っている。
遠い記憶の夢だ。
そして、夢の行きつく先は…
良く晴れた夏の日。
雲一つない澄んだ青い空。
焼けるように熱いのに、体の芯が冷えて寒くて仕方がない。
馬車の揺れで目が覚める。
馬車からは異国の街並みが見える。
レンガつくりの家屋など、私の国では横浜くらいでしか見なかった。
この風景に慣れる日は来ないだろう。
夢を見た後はひどく喉が渇く。
渇いて、渇いて、仕方がない。
彼は約束どおり生きて戻ってきたのだろうか。
そうだったとして、何だと言うのか。
私は約束を果たすことはできなかった。
結果が変わっていても、合わす顔もないし、会うこともなかっただろう。
もう一度、目を瞑る。
『必ず、生きて戻ってきます。』
やはり顔を思い出すことはできない。
「愛とは、なんだろうな…」
先ほどの男を思い出す。
彼が愛しているのは自分自身だろう。
きっと、私のことを世間知らずで、苦労も知らない箱入り娘だと思っていることだろう。
女の身とは生きづらいものだ。
この世界でも、前でも。
男と言うのは、女は結婚すればなんの苦労もないとでも思っているんだろうか。
次男で家督も爵位も継ぐことができないからといって、人の孤独を食い物にしていいものか。
だが、わからないものだ。
「本当に利用していたのは、どちらだったのか…」
やはり、王妃など望む位ではない。