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救出劇

ーーーーーー時間は、しばし遡る。


勢いよく飛び出す、快斗と千優を放っておくわけにはいかず、二人の背を追う羽目となったわけだが、、、


先導する少女の脚に迷いわない。


その姿は、どこか確固たる自信が湧き出ているが、果たして、彼女のアテに、どれほど信頼を寄せ良いものなのか。


そのアテを疑わしく思う自分がいる反面、そのアテを覆す程のアテを自分が思いつかないのも事実。


最近ふらりと立ち寄った、外界の者よりも、長年この地で過ごした二人の方が、土地勘は格段に良いはず。


一見、博打に見えるが、進行を二人に任せるのは、意外と理に適っているかもしれない。


兎に角、黙って彼らの後を追うこととする。


それから走ること、しばし。


赤髪の少女が、突如、()()()を前にして、ハタと足を止める。


この砂漠一帯を守護する神が祀られるとされ、

悪とは無縁で、清く、正しく、神聖な場所。


その地とは、即ち、ーーー神殿。


相変わらず、壮大な有様で、厳かに聳え立っている。


外見上、倒壊の原因となりえるヒビも、争った形跡も見当たらない。


されど、それは、所詮外見の話である。


俺は、神殿の中ではなく、その更に下、即ち地下に、身の毛が弥立(よだ)つような、只ならぬ気配を感知する。


それは、快斗とて同じ。


ただ唯一、千優だけが、この事態を理解してたかのように驚きを示すことはない。


始めから、こうなる事を見越していたとでも言うように、少女は、懐から携帯用プラスチック爆弾を取り出した。


「離れて。」


設置をしながら、彼女は、見守る二人に距離を取るよう促す。


恐らく、敵の根城である場所を、爆破による正面突破は、些か無謀すぎるとも思えたが、入り口なるものは、見当たらないし、攫われた雨音のことを思えば、一刻も無駄にはできない。


アジトに乗り込むのは、隠密が最適だが、この際は仕方ない。


もしかしたら、この爆撃が、陽動となって、いいほうに傾くかもしれない。


そんな淡い希望を抱いて、突撃の瞬間を待つ。


ーーードオーン


神殿を揺るがす爆音が鳴り響き、設置した箇所のクオーツが派手に舞い上がる。


すれば、千優が一目散にこじ開けた穴に飛び込んだ。


遅れまいと、快斗がその背に続き、順よく俺も続く。


着地ざまに短剣を振りかざし、待ち伏せに警戒。


・・・どうやら、敵のいない場所をこじ開けられたらしい。


運がいい。


されど、敵があんな爆撃を聞いて、異常を感知しない馬鹿ではないはずだ。


すぐさま、敵対することであろう。


そんな初歩の初歩は、彼らとて十分に承知している。


そのうえで、警戒を解くことなく、敵の根城を詮索する。


あれから、至る所を歩いてしばし。


異常なまでに敵と接敵しない。


いや、敵の気配すらしない。


視界には、無機質なコンクリートが映るばかりで、異常なまでの静寂が不安を加速する。


思い当たるところは、虱潰したはずだ。

残るは、この通路だけ。


その通路は、他よりもなお不気味で、進んでしまえば生還を望めない、と本能に訴えかけるような異彩な雰囲気を醸している。

闇に慣れた目でも、奥まで視覚できないことが、更に不気味さを加速する。


されど、進む以外に道はない。

異様な雰囲気を切り裂くようにして進む。


長い長い通路であった。


あまりに飾り気のない通路のあまりループを錯覚する程に長い。

ともすれば、正気を失う程である。


それに、これ程長い通路を歩いていながら、敵の遭遇は愚か、罠の作動すらない。


・・・どういうわけなのだろうか


進めど、進めど、我らの行く手を遮るものはない。


このあまりに異様な事態と、不気味な通路が先に進めと急き立てる。


先ほどまで、侵入を悟られぬよう、足音から息遣いに至るまで、気配を遮断して詮索にのぞんでいたのだが、この通路の醸す魅惑に取り憑かれたように三人は、走り出す。


虚を突かれた。

肩透かしを食らった。


この、まるで敵の侵入に対し何も講じないこの通路に、そんな気分にさせられる。


いや、そういえば、始めから、『教徒』なるものは、俺達に眼中など無かったではないか。

まるで、幼子をあしらうように、まるで相手などされていなかったではないか。

ならば、俺らの侵入も脅威に値しないと判断したのだろう。


・・・そうだと見なせば、筋が通る。


となれば、侵入した俺達を横目に、攫った雨音を処分していることだろう。

奴らの目的が何なのかまで、相変わらず明白ではないが、雨音が危険な状態であることは、予想に難くない。


膨れ上がる不安に呼応するように、ピッチが加速する。


長い、長い通路にようやく光が差し込んでくる。


待ち伏せに構わず、駆け抜け、開けた空間に踊り出た。


ーーー頭が真っ白になっていた。


状況理解に数分。


それほどまでに、映った光景は悲惨であった。


始めに目に飛び込んできたのは、得体の知れぬ巨大な影が、無防備に逃げ惑う者達に、容赦なく狩り取っていく。


すれば、思わず覆ってしまうほどの強烈な腐臭が鼻を襲う。


何事かと視線を落とせば、アレの犠牲と思わしき、歪みに軋んだ(むくろ)が散乱し、まだ酸化に至らない鮮血が埋め尽くすように床を這う。


これを現実と見なすには、些か戸惑うものであった。


されど、この光景で府に落ちるものもある。


自身のアジトがこんな手に負えない異常事態に陥っているとなれば、よそのことなど考えが過ることもなかったであろう。

つまり、奴らが、俺達を相手にしないのではなく、そもそも相手に出来なかったというわけか。


されど、そんなことが分かったところでという話だ。

寧ろ、奴らの範疇を超えたアレの出現に悲観すべきかもしれない。


悲鳴と断絶間が聴覚を埋め、逃げ惑う者達で視界が塗り潰される。


もう敵に、俺らという侵入者を存在に見向きもせず、撃退する素振りもない。

ただ、本能の駆られるままに生存の限りを尽くしている。


もう奴らは敵ではない。


そう判断し、荒れ狂う人の波を掻き分けて悲劇を知りに前進する。


やっとの思いで人の波を振り切り、視界に飛び込んできたのは、死を受け入れた雨音の姿であった。


「姉貴。」


快斗が雄叫(おたけ)びを上げて、弾かれたように駆けだす。

一歩遅れて、千優も駆けだす。


けれど、、、


・・・それでは、間に合わない。


化物の触手は、既に雨音の目前にまで迫ってきている。

この距離では、物理的に無理だ。

駆け寄る前に、殺される。


・・・致し方あるまい。


普段から常備している手袋を脱ぎ、焼け焦げた素手を露わにする。

その手で、すかさず、銃の形をつくり、可能な限り正面へと、腕を伸ばす。


ーーーーー閃光


人差し指から放たれたソレは、祭壇の禍々しい空気を切り裂いて進むとともに、化物の触手を穿いた。


駆けだした二人は、すかさず雨音を救い出し、化物の索敵範囲外から逃れる。

そして彼らは俺が攻撃を防いだことを露知らず、奇跡的、救出劇に歓喜する。


本当に、本当に、すんでのところであった。

狙いが外れていたら、、、と思わずにはいられない。


だが、そんなことは、後回しだ。

まだ、地獄が終わったわけではない。


この怪物を処理しないことには、悲劇が収まる筈もない。


得体の知れぬ、悍ましい異彩を放つ化物をこれでもかとばかりに、凝視する。


あれほどまでの武力集団を一夜にして、壊滅に導く存在に

人知の超えた人の手では、手に負えぬ存在に


ーーー心当たりがある。


いや、断定できるはずだ。


されど、過去のトラウマが、その可能性を否定したいと淡い期待が、結論を先延ばしにさせる。


得体の知れぬ化物が、此方を見据えた()()()()


そして、


「ーーーーーーーー」


あわや鼓膜が潰れる咆哮が、祭壇を揺するようにして轟く。


脳を浸透し、直立もままならない轟音であった。


次第に騒音の嵐が過ぎ去り、化物による殺意がこの場を支配する。


先ほどの無作為に殺戮の限りを尽くすとは異なる、俺に向けた、あまりに明白すぎる敵意。


その只ならぬ殺意は、あれ程までに、悲鳴と助けを懇願する叫びで五月蠅(うるさ)かった者達にまで氷漬けにする。

これには、俺に応戦しようと戦闘態勢に入っていた二人にも体を委縮させる。


・・・動けば殺られる。


全ての者がそう悟った。


物音一つ許さぬ静寂。

息の詰まる沈黙。

怯え、恐れ、畏怖、といった絶望が祭壇を取り巻く。


この緊迫した場面で俺は、怪物を前にして、ただ立ちはだかる。


逃げるでもなく、挑むのでもなく、ただ佇む。


化物の気配に飲み込まれぬよう、ただ睨むだけ。


ーーー俺はコイツの正体を知っている。


だから、目視できる図体が、奴の全体でないことを知っている。


だから、奴の本来の脅威が()()()()()でないことを知っている。


だから、、、丁重に、穏便に、事を済ませねばならないのだ。


ーーー完全に、手に負えなくなる前に。


長い、長い、、、長すぎる沈黙が続く。


どれほど時間が経ったのだろうか。


全神経を研ぎ澄ませ、全集中を注いだ俺には、そんなことまで頭が回らない。

だが、結末は、拍子抜けするほどに、あっけなく訪れる。

化物がのそりと攻撃の素振りを示したかと思えば、根負けしたとばかりに、得体の知れぬ体が床へと沈んでいく。


あっという間に、怪物は、闇の中へと消えていった。


・・・ふう。


額の汗を拭って、一息つく。


すれば、事の顛末(てんまつ)を見守っていた周囲から安堵の溜息が一斉に吐き出され、生存した喜びを分かち合う。


間抜けなものだ。


此方からすれば、いつ敵対されるか分からない。


かといって、ここで仕掛けても、保護対象の雨音を抱えて、敵を殲滅させるのは、分が悪い。


腰の抜けた雨音を千優が抱きかかえ、即座に基地へと帰還した。

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