基地
闇に生きる者として、潜む場所、時間帯、色んな要素を加味し、要所で絞り込んであの男児を探してゆく。
一つ、一つ虱潰すように、徹底的に。
けれど、未だに、村の地図が頭に入り切っていない。
そのせいで、思いのほか時間が食っている。
それに、潜伏場所については、同じ種族のものとして、粗方推測は可能だが、地理要素が皆無な俺にとって、逃走経路までさすがに読めない。
彼等が普段使用するルートを判明しない限り、見つけ出すことは不可能。
・・・困った。
万策尽きたと、心の底で焦燥に駆られていたところ。
・・・いた。
目前には、キョロキョロと周囲を見渡して、何やら探し回っている少女。
そして、その後方に、ハラハラと見守る男児が。
家の影に隠れているとはいえ、心配までは隠し切れないようで。
守るべき対象がこんなにも目立つと、それを見守る影まで芋づる式に見つかってしまうのは、考えものだな、、、
とかなんとか、思いつつ、男児の背後に迫る。
「おい。」
挨拶代わりに、一声かけてやった、、、
つもりだったのだが、男児は、肩をすくませて、飛び上がった。
けれど、驚愕したのは、束の間。
早急に身構え、戦闘態勢に入り、「誰だ。」と叫ぶ。
・・・まずった、、、
我ながら、焦りすぎたと、方法が悪かったと反省した。
武器をギラつかせ、今にも飛び掛かってきそうな男児に、両手をあげて、戦闘の意思がないことを告げる。
「先日のものだ。一晩良く考えたうえで、取引に応じに来た。
昨晩の無礼は謝ろう。すまなかった。
けれど、時間がない。情報を売ってくれ。」
相手に有無を言わさぬ迫力で、たたみかける。
男児は、恐らく何が起きているのか理解できていないのだろう。
後ずさり、けれど、逃げることはない。
警戒の色を濃くしたまま、俺に問いかける。
「何故です。あなたは、この取引に微塵も興味なかったというのに。どうして、この話を。」
声が震え、怯えが隠し切れずとも全力の抗議をして見せる。
「先ほど言ったはずだ。よく考えたうえでの決断だ。安易に決めたわけじゃない。別に、お前をおちょくりたいわけではない。」
冷酷に、冷徹に、淡々と、けれど、二度も言わせるなとニュアンスを含めて答える。
「一晩で、考えが変わりますかね。まさか僕が、あなたを信じると。決裂した以上、僕があなたを信じる道理はない。」
構える短刀が、小刻みに揺れる。けれど、彼は煽るような口調を止めはしない。
・・・痛いところを突かれた。
しばし、二人の間に重い沈黙が漂う。
信用を失ったか。
一度、損なった信頼を取り戻すのは、相当難しい。
その上、俺たちは、まだ出会って、一度か二度言葉を交わしたぐらいだ。
仲良くしようという方が難しい。
むしろ悪手だ。
こんな場合において、手ばやに協力関係を築くとなると、やはり、利害の一致に及ぶものはない。
「確かに、お前に俺を信じる謂れは無い。寧ろ信じる必要はない。だから、こういうのはどうだ。お前の姉を守る代わりに、情報をくれ。」
そう。お前からの取引はなかったことにし、俺からまた新たに取引をする。
新たな関係を築くために。
少しは、魅力に聞こえたのだろうか、彼の嚙み締めるように食い縛った口がほのかに、綻んでいく。
けれど、目には警戒の意思が宿ったまま。
しばしの沈黙を経て、彼は答えを口にする。
「だめだ。この村全ての子供を救うと誓え。そうでないなら断る。」
・・・なっ、、、
絶句した。
正気かと、視線を合わせば、微動だにしない真剣な眼差しが向けられていた。
怪しんで、疑って、訝しんで。
・・・もしや、策の主導権を握ろうとしたことが、読まれたか、、、
・・・まさか、、、な。
まあ、少なくとも、対等な関係でありたいのだろう。
勝手な行動を許さないという目線だった。
・・・とうに、覚悟はできているようだな。
ふ。と鼻で笑う。
長居できる身ではないけれど。
彼とは、まだ知り合い始めたばかりけれど。
「わかった。いいだろう。」
承諾した。
そして、互いに目線を合わせ、呟いた。
「交渉成立だ。」
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砂嵐とやらの真相を突き止めるため、彼から色々と情報を教えてもらった。
彼の名は、海原快斗。両親はとっくに他界し、姉の二人暮らしだそう。
実は、この村、先代からこの地に根ざして暮らしていた者と、水を求めはるばる遠方からやってきた難民の、主に2種の民で分かれるらしい。
先住民は、神殿近くの村の中央で、日々を優雅に暮らす。
それに対し難民は、荒れた廃墟の中を肩身が狭い思いで日々を過ごす。
ちなみに、彼は、生まれた時からこの村にいるが難民の出だ。
それは、彼の先祖に当たるものが、移住を完了し終え、この地に住み着いたんだと。
まあ、それは、さておき。
先住民であろうと、はたまた難民であろと、誇りであると自慢したくなる壮大な神殿はどうやらこの地の神が眠っているらしい。
砂漠の守り神
オアシスに宿る神
そんな神から水を分け与えて貰うのだ。
その代価として村人達は日々祈りを捧ぐ。
感謝の心を忘れぬ事が掟だとか。
そういう信仰
そういう宗教
そうやって命を繋ぐ。
難民の多くはそうやって生活を遣り繰りするのだ。
不憫に聞こえるかもしれぬが、あるかも分からぬ泉を探して彷徨うよりかは、よっぽどマシだそう。
そうやって異なる種族とはいえ、仲良くしていたそうな。
けれど、ここまでは序章。
これからが本題。
ーーーーー『砂嵐』ーーーーー
突如として、子を掻っ攫う超常現象。
それは、日の入りから夜更けにかけて、1日に一度、発生する。
分かっていることはこれだけ。
未だ解明に至っておらず、少なくとも彼の祖父母に当たる時代には、既にもうあったそうな。
噂、都市伝説
一見、異邦の者には、そう聞こえるが、、、
現実に、実際に、今なお起きている。
その標的にあう子供が完全ランダムだったら、まだ救われたかもしれない。
けれど、常に被害に遭うのは、難民側の子だけ。
となれば、「おかしい。」と難民側が疑いの目を向けないほうが難しい。
勿論、難民側も、水を分け与え、更に飯まで配給してくれる先住民側に感謝をしているだろう。
けれど、これは別。
話が変わる。
難民側にとって、いつ我が子が番に回ってくるか恐れ続けねばならないのだ。
スラム街を歩いたあの夜、やけに怯えと恐れが混じった静寂さだと感じたのは、そういうことだったらしい。
恩があるとはいえ、先住民側に、そんな不幸を被ることはない。
ならば、先住民側の仕業と疑うのが自然。
この疑念が種族間に溝を深めていく。
配給のときに、和気藹々とした空気はなく、どこか厳粛でピリついた雰囲気だったのは、そういうことだったのだろう。
これが、大まかな状況。現状。
そして、打破すべきタスク。
・・・ふう。
砂嵐、子攫い、毎日、種族、神殿、スラム
一度、頭の中で掻き集めた情報を反芻する。
ゆっくりと着実に。
となれば、、、
・・・『生贄』
そんな意味ありげな単語が浮かんだ。
命を捧げる行為を意味する単語が。
どうも、嫌な予感がする。
悪い想像が膨らんでいく。
ふう。
一息ついて、邪念を払う。
早とちりで決めつけるのはよくないが、これはもしや、俺の得意分野かもしれない。
仮に、もしも仮に、そうであるならば、俺が幕を出ることになるかもしれない。
少し唇をかんだ。
俺が、考えられうる事態を想定していると、快斗から申し出が出た。
親睦を深める談話とはかけ離れ、義務的な情報交換でしかなかったが、それなりに信頼を獲得したらしい。
更に踏み込んだ話をしたいと、この場で話せぬ話題だからと、彼等のアジトに来てもらえないかとのこと。
特に断る理由もないので、快斗の背を追う。
スラムを抜けて、しばし。
完全に人気が消えたところで快斗の足が止める。
目前には、瓦礫の山と化した廃墟が広がっていた。
昔に遺跡でもあったのだろうか。
建物の上階は、陥落。
かろうじて、1階が部分的に残っている。
といっても、砕けた瓦礫が辺りを散らかし、
そこから天が望んで見えた。
「ようこそ、僕らのアジトです。」
快斗は手を広げ歓迎の意思を告げる。
「・・・」
頷くだけで、返事はしない。
値踏みする目で廃墟を見回す。
人目がつかぬことは、上出来だが、ここを基地にするのは不向きだ。
こんな瓦礫の地では、せいぜい貯蓄ぐらいが関の山。
本当かと真意を問う、訝しげな目を向ける。
快斗は、察したのか付け足す。
「この下です。」
あなたを試したのですよ。とでも言いたげに快斗は、ニヤリと微笑する。
そして、其の場にしゃがみ、砂を掃く。
すれば、鉄製の円盤が現れた。
快斗は、手で円盤を叩く。
3回程。
何だと不思議に思えば、直様3拍刻んだ音が鳴った。
・・・ああ、なるほど、合図か。
快斗は慣れた手つきで円盤を外し、地下へと続くハシゴに足をかけて、告げる。
「狭苦しいところですが、どうぞ中へ。」
俺も倣って、ハシゴを降りていった。
降り着いた所は、地下というよりは洞窟と言った方が近い。
人の手で1から作られたと言うよりも、自然にできた空洞を人間好みに改造したように感じられる。
やはり、そのため窮屈さを感じる。
けれども、日光を遮られるだけでも有難い。
外が暑いがために、余計に地下は涼しい。
そんなことを、考えながら連れられる。
ある一角の部屋に通され、席に招かれた。
「ここには、もてなせる物がありませんが構いませんね。」
「ああ、構わん。」
快斗の問に短く受け答えた。
「さて、お遊びはいりません。本題から入ります。」
先程までの丁寧な口調に、怒りが増す。
「断言します。砂嵐は、教徒の仕業だと。」
鬼気迫る表情で、快斗は言いきった。
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ここからは、快斗から聞いたことを粗方簡潔に、まとめたものだ。
ーーーーー『教徒』ーーーーー
ここでは、オアシスに宿る神、いわば水神とやらを信仰する者を指す言葉らしい。
その信仰は、先住民による発祥とされ、其れがゆえに教徒のほとんどが先住民が占める。時たま、移民が感銘を受けてその宗教団体に入団するとか。
思想としては、水の恵みを分け与えた神に拝むという形で感謝を示すのだと。
その面に関しては、素晴らしいことだと俺は思う。
けれど、先住民はそうはいかない。
砂嵐の疑いが晴れぬ以上、先住民の多くが構成するその教徒に疑念が寄せられる。
それに、その疑いを加速させる話もある。
それは、俺がこの地に来る、数年前や数十年前といった話。
遥々、この地を目指して、移動してきた男がいた。
この地に辿り着き、何とか水の確保は安定できたよう。
けれど、時間がたつごとに、貧富の差に不安が募り、配給があるとはいえ、我慢できなくなったという。
彼は、それに怒りをあらわにし、愚痴を吐き、抗議をした。
そのデモが伝染していくのは、あまりに簡単だった。
誰もが口に出せないだけで、心では疑っていたのだ。
『教徒』の仕業だと。
微小な火種だったものが、燃え上がる炎のように、同士が集結する。
娘を無くした者。
息子を救えなかった者。
孫を守れなかった者。
為すべきことは、簡単だった。
『教徒』の秘密を暴き子供を探すこと。
たとえ戦闘になっても、たとえ命に代えても、子供だけは救ってみせると。
そう彼等は意気込んだ。
ある早朝。彼等は総出で神殿へと乗り込んだらしい。
我が子の安寧を願って、、、。
けれど、、、彼等が帰ってくることは、なかったという。
ふむ。
よくある結末で、よくある顛末で、よくある幕切れだ。
まあ、順当に考えて教徒が彼等を抹殺したと考えていいだろう。
いや、まあ、死んだと断定するのは早いけれど。
でも、敵の位置に立って物事を考えれば、無事に帰らせなかった理由がわからない。
行方不明になったとか、それはもう教徒側が犯人だと自白するようなもの。
そのリスクを背負ってでも抹殺すべき対象だったのだろう。
例えば、生かしておけぬ、情報が耳に入ったとか、、、。
単に反乱の火種となる恐れのある者を消したかっただけかもしれないが。
まあ、そのへんは推測の域を出ないから一旦保留。
どうも反乱を企てた者たちの人数は膨大だったらしい。
村の一大行事と間違えるほどの。
今の、スラムに大人がやけに少ないと感じたのはそういうことだったらしい。
そして、恐らくだが快斗の両親も、それで居なくなったのだろう。
まあ、これも所詮、憶測なわけだが。
自身から語らない以上、此方から聞くつもりはない。
まあ、もしそれが分かったところで、何かヒントに繋がるわけでもないからな。
下手に関係を悪くしたくない。
さて。ここからが依頼だ。どこまで、情報をひけらかしたのか分らぬが、ある程度提供してもらった以上、その代価として『砂嵐』の対策を講じなければならん。
『教徒』、、、恐らく、時折見かけた影のことだろう。
村中に潜む悪の権化。
何体いるか把握できない。その上、『砂嵐』も対処せねばならぬ。
到底一人ではできぬ所業。
・・・どうしたものか、、、
行き詰まっていたところだった。
すると、ずかずかと、怒りを露わにした足音が近づいてきた。
誰か来ると察知し入り口に目を向ける。
すれば、あの赤髪の少女が通り過ぎていくのが見えた。
「ちょっ、千優さん。」
快斗は、慌てて立ち上がって、追いかける。
「すっ、すいません。しばし、お待ちを。」
それだけ俺に告げて、個室を後にする。
「千優さん。安静にしておかなければならないですって。」
快斗が宥めるように話しかける。
「平気よ。怪我はないわ。今度は同じヘマはしない。今度こそ、きっちり奴を暴いてやるんだから。」
心配をかけまいと、気丈に振る舞う少女の優し気な声が聞こえた。
けれど、最後の語句には、自信とやる気に満ち、迷いは微塵も感じられなかった。
「いや、ですから、休息を取ってください。それに、素顔を晒したんですよ。」
「どこから『砂嵐』び狙われるか分からない。」そう、快斗は告げたかったのだろう。けれど快斗の不安を遮り、少女は豪語する。
「平気よ。そんなこと恐れる程ではないわ。私にかかれば造作もないことよ。」
だから不安に思うことはないのよ。とつけ加えて、、、、、俺と目が合った。
ーーーーーー
一秒、いや一秒に満たないかもしれない。
一瞬。
黒い線が俺の目元に飛び込んできた。
グラッとよろけ、すんでの所で躱す。
すれば、カランカランと背後から虚しく音が立った。
間一髪だった。
「誰よあんた。」
先程の穏やかな声とは違い、怒りに満ちた叫びが飛んだ。
「待ってくれ、その人は協力者だ。」
鬼の形相で俺に駆け寄る少女に、快斗が腕を掴んで制する。
「協力者?コイツが?」
「そうです。千優さん寝込んでましたから伝えられていなかったのです。」
千優と呼ばれる少女は、俺をじっくりと見つめ告げる。
「フン。使えなさそうね。」
そう吐き捨てて、ツカツカと通路を進んでいく。
「いや、だから待って下さいよ。これから作戦を立てるんです。千優さんも一緒に、、、」
小走りで追いかけながら快斗は、声を掛ける。
「そんなのいらないわ。どうせ逃げ出すに決まってる。結局今回も同じに決まっている。」
そんな快斗の言葉に振り向きもせず、少女はそう吐き捨てた。
快斗は何度も説得を試みたのだろう。
だが、折れたのか、結局俺の元には一人で戻ってきた。
そして、申し訳無さそうに話し出す。
「あの、大変申し訳ありませんでした。彼女は千優と言うのですが、少し横暴なところがありまして。貴方に失礼を働いてしまった。私からですが謝罪を。」
普段は、優しいんですけどね。と、付け加える。
けれど、と彼女を擁護するように話を続ける。
「前も、子供を攫う悪行を許せないと協力してきた者が何人もいたんです。けれど、いざ戦闘になれば、命がかかるとなれば、責任を背負うとなれば、みな逃げていったのです。あれから、千優さんは、協力者と名乗る者に期待しなくなったのです。誰も彼も。」
憎しみを抑えた声で話す。
・・・ならば、何故、この俺を、、、
そう聞くよりも彼が口にした。
「けれど、あなたは違う。あの正義を語るだけの無能とは違う。そう確信できるのです。」
彼は力強く言い放った。
・・・何をこう、信頼しているのか、、、
まだ話して間もない俺にそこまで信じ切っているのか。
疑いを向けると、視線が合う。
黒に染まりきった淀んだ目。
光の無い掠れ切れた目。
問わなくとも分かる。
あれは、幾度の絶望をみてきた目だ。
言われなくても、聞かなくても、分かってしまう。
何故ならそう。俺も同じ目をしているのだから。
ふっ、と笑いが込み上げる。
・・・コイツ言葉よりも目で判断しやがったか。
面白い。
俺は確信した。コイツには労力を割く価値があると。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
快斗によれば、十代前後の子供たち、数十名でこの村の警護にあたっているらしい。
活動は、やはり、日の入りから日の出まで。
夜間にみっちりと働くため昼は、特に縛りはない。
日光を浴びに行くもの。
村の賑わいを見に行くもの。
夜間に備え寝るもの。
昼でも警戒を怠らないもの。
各々が好きなように、時間を過ごす。
今日は、偶然、皆が出払っていたらしい。
この地下に、今は俺と快斗しかいない。
まあ、それは置いといて。
彼等は夜間、二人一組を原則として任務を遂行する。
可能な限り、村民を巻き込む恐れがあるため、戦闘は控えることが鉄則だが、万が一ならば、武器を手に取ることは止むを得ないという決まりらしい。
けれど、砂嵐の正体も掴めず、被害が拡大するばかりで、埒が明かないと悟った彼らは、次の作戦に出た。
囮
自分から砂嵐を探すのではなく、砂嵐から来てもらう作戦。
ここでの欠点としては、可能な限り無防備であることを装わなければならないのだ。
となれば、素顔を晒し、ずぼらな格好で夜の村を練り歩かなければならない。
あの恐怖の時間をたった一人で。
命を投げ捨てる覚悟を誓ったとはいえ、まだ子供。
いざ、自分の身を己から危険に晒すとなると尻込みする。
それを引き受けたのが、名を千優といったか、赤髪の少女だ。
いかにも、正義感の強そうなお人よしだ。
他人に危険が及ぶなら自分がその責務を果たそうとするタイプだろう。
まあ、それはさておき。
これらの作戦を練り上げたのは全て快斗だ。
恐らく、というか、口ぶりや態度から見るに、こいつが、ここの長だと確定していいだろう。
そこに、戦力を、千優が補う形で成り立っているのだろう。
いい配分だ。
けれど、まあ、さっきの会話を聞く限り、どこか食い違いがあるようにも感じられるが、、、
とにかく、砂嵐の情報が少なすぎる現状、囮の作戦が有効であろう。
正直、それに乗っかかるつもりだ。それを、俺好みに仕上げていくだけ。
「快斗。砂嵐が狙う対象てのは、予め決まっているのか。」
「絞れはしますが、確定ではありません。気まぐれなようなときもあるので、なんとも。」
俺の問いに快斗は正確に答える。
・・・やはりそうか。
対象が一つに絞られているというなら、籠城でも、護衛でも何でもできるのだが、、、
無差別となると、、、
「確か、お前の姉貴、前々から狙われていたんだっけか?」
「はい。そうです。それもこみで、あなたを頼ったんです。」
・・・ほう。少なくとも狙われる恐れはあるわけか。
「お前の姉貴、連れてこれるか。」
有無を言わさぬ迫力を告げた。
なぜなら、この任務を遂行するためには少なくとも対象との接触が不可欠だからだ。
「えっ、構いませんけど、、、戦力として数えられませんよ。」
心底驚きという顔で快斗は答える。
姉貴、いうことを聞きません。
危ないと注意したのに、一人で夜道を彷徨うんですよ。
なんべん忠告したことか。
と、ため息交じりで愚痴をこぼす。
「別に構わない。会えればいい。」
俺は、そう返答した。