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2/19

砂漠

我が手から放たれた『黒光』は、瞬時に砂漠を暗転。

しかし、フラッシュと同様、すぐさま光が舞い戻る。

次第に視界が回復した。


先程いた大群が、()()()()()()()()()()()かのように()()()()()消えた。


自立戦闘機の全滅を確認

目視可能範囲内に増援なし

証拠の隠滅を確認


逃亡から2時間20分

任務完了


ふう。


何とかなったな。

敵を迎撃し、俺がここにいた痕跡を消滅させた。

そうこう簡単に追っては来れぬだろう。

そろそろ、ここいらで休息を取りたいところだ。だが、思いの外、時間をくってしまった。

もうじき日は沈む。

夜の砂漠はマズイ。

いや、まあ、砂漠に限った話では無いが、見知らぬ土地で、勝手も知らぬ環境での野宿は、危うい。

命にかかわる。

せめて、宿を探したい。

とにかく今日は疲れた。

雨風ならぬ砂風しのげる場所で羽を伸ばしたい。


止めた足に、再びエンジンをかけなおす。


あれから程なくして、人の気配のする灯りが見えた。

明かりを見つけた時には、とっくに日は暮れていた。

月明かりでの捜索で正直、心折れそうだったが。

とにかく一安心。


明かりの方へと足を進めていく。

しばし順調に進んでいたのだが、突然、ハタと止まる。


・・・柵、、、なのか?


等間隔に打ち付けられた木の杭にワイヤーが張られた障害物。

対獣用だろうか、対人用にしては低い気がする。

その上、所々不備が見える。

管理が行き届いていない証拠だろう。


特に苦になることもなく侵入。

人気もしないので堂々と。


領域内に入ってしまえば、お手の物。

お得意の潜伏で町内を駆け巡る。

ひと()ずは、この村の中央から。


影に身を潜めながら、周囲を詮索する。


地面は相変わらずの砂だが、砂岩造りの街並み。

ガラスのない吹き抜けの窓だが、そこから温かな光がこぼれ出る。

肌色と白を混ぜた色彩の壁は、暗い夜にくっきりと浮かぶ。


家を伝いながら、順調に探索を進める。


が、瞬時に後方へ下がり、身の安全を確保する。

声が聞こえたのだ。


方角 南西

距離 およそ5m

内容までは聞き取れぬが、ワッと楽し気な大人数の会話。


まあ、なんにせよ、こちらに気づいてはいないようだ。

気を張りすぎた。


声の出所に誘われるように、足を進める。


その先には、一段とホンワカとした温かみのある明かり。

ワイワイガヤガヤと騒がしくも賑やかな声。

得体の知れぬオブジェを取り囲み、大の大人が飲み食いに耽る。


宴会か祭りだろう。

だが、俺のような闇に属する者に、そういうのは似合わない。

そもそも相応しくない。


地理と建物を確認し(きびす)を返す。


村の中央から外れ、周辺を探索。

中央から遠ざかるほど人目を(はばか)れるはずだ。

人目に付く前にとっとと寝床を確保してしまおう。


勢い良く駆け出して、、、すぐさま異変に気付く。


ゴミが散乱し、(はえ)が好き勝手に飛び交う路上。

ありあわせの物で、つなぎ合わせただけのハリボテ建築。

地面を這う飢えた民。

そして、何よりもここには明かり一つない。


人気(ひとけ)はするのだが弾んだ会話も談話もしない。

物音一つ許さない静けさ。

ひっそりとした夜。

言うなれば、閑散とした廃墟。


・・・スラムだ


まあ、こういう光景は何度も目にしているから、吐き気を催す程ではないが、、、

心良いものではない。

先程の楽し気な雰囲気と裏腹に地獄のような、何かに怯えるような、耐えるような雰囲気。

心苦しい。


まあ、これは俺の個人的な感情だ。

俺がどうにかできる話ではない。

どうにか出来るのなら、そもそもこんな惨状になってなどいない。

そう。しょうがなく、同仕様もない話だ。


何かから逃げるように、スラム街を走り抜けていった。


通り過ぎてしばし後、廃墟と化した小屋に身を隠す。

周囲の物見に()け、どの方角からでも逃亡可能。

最高の寝蔵だ。


ホコリが被った台を引っ張り出し、その上で眠りに就いた。


ーーーーー



翌朝、太陽が昇るよりも早く、日課のように目を覚まし、再び村に舞い戻る。


日が出る前に、あらかた村の全貌を確認しておきたいのだ。


この村に長居するつもりは無い。

準備が揃い次第すぐさま発つ、つもりだ。


この村にお目当てのものが何も無いだとか。

逃亡に長けた立地でないとか。

そういう風にこの村が悪いわけではない。


逃亡の身であり、こと俺に限っての話では、定位置に潜伏するよりも常に移動したほうが、まだ比較的安全なのだ。


どれ程、うまく身を隠そうと、生きた痕跡を掻き消そうと、『連中』は必ず見つけてくる。

此れは嫌と言うほど、己の失態を通して実によく学んだ。

同じ(てつ)は踏まない。

となれば、足を止めることなく進み続けることが最善だろう。


俺も気づかぬ間に袋のネズミ、なんてことはザラにある。

勿論、逃げる途中でばったり出くわす、あるいは待ち伏せに合うかも知れぬ。

そんな事は、予想に難くない。

ただ、そんな局面であれば、俺は切り抜けられる。

此れは、数多ある修羅場をくぐり抜けてきた経験、及び、知識からくる自信だ。

根拠のない希望や願望などではない。


移動し続けるのは、『連中』に、一点集中されるのを避けるためだ。


つまり、ありったけの人手、技術、戦力、を集中砲火させないためだ。


きっと、これが最善で、、、

これ以外に策はない。


そう。

走り続ける限り

歩みを止めない限り

立ち尽くさない限り


自由を保障されるのだ、、、


砂漠についた足跡も、戦闘の痕跡も、自律戦闘機の残骸も、跡形もなく消し去った。

だが、それが精神安定剤になる訳ではない。

ただの遅延行為。嫌がらせ。醜く、もがく抵抗だ。


そんな訳で、なるべく早く出立したいが、その前に装備を揃える必要がある。


それで、この村のどこに何があるのか把握しているのだ。


仄かに照らす朝日を背に村を縦横無尽に駆け回った。


ーーーーーーーーーー


日が完全に昇り、人目を避けられなくなった。


とっくに闇の住民は影に潜む時間だ。

すぐさま御暇(おいとま)させてもらおう。

一度捜索を辞めて、小屋へと目指す。


ポツポツと並ぶ家の屋根を飛び交いながら撤退を試みる。


飛び交う合間、1人、2人、また1人と進む住民の姿が目に入る。


昼間近故に、外出することなど、疑問を抱くものではないが、進む方角が決まって同じ。

歩むもの辿り着く先は同じというように、、、。


それに、ある者は桶を、ある者は筒を担いで闊歩する。

そうこう偵察する間にも、また1人、なんなら、子供達も追うように歩むのが目に入る。


・・・此れはもう、何かがある。


そう踏んで、彼等の背後に潜んで行方を調べることにした。


ーーーーーーーーーー


彼等がどこかに進む合間、何処からともなく現れた、別の歩む者と合流し、合体を繰り返し、集団を形成、更に別の集団に呑み込まれ最終的には大御所の団体と化す。


大規模の祭りでもあるのだろうか、この村の住民、一人残さぬ勢いで何処かへと向かうようだ。


ズラズラと進む団子が、程なくしてハタと止まる。


どうやら目的地に、ついたようだ。


見上げるような城壁と門が、砂岩で匠に彩られる。

けれどその壮大さを超える潔白で、神聖な神殿が、(そび)え立つ。


その門から吸い込まれるかのように村人は入っていく。


間違いなく神殿に用があるだろう。


何があるのかと疑問に思い侵入を試みたが、門には厳重な警備が施されている。


番人が目を光らせ、一人一人チェックしてから入場を許可しているようだ。

抜け目ない。


けれど、こちらに門から入らなければならない道理はない。


直様(すぐさま)、壁に手をかけよじ登っていく。


まさか、壁を伝って侵入してくる者などいないと思ったのだろう。

壁には、警備が手薄だ。

軽々と登り終え、神殿の中を見渡す。


砂の上に浮かぶ生命の源泉

命をつなぐ奇跡の恵み

青々と清らかに綺羅びやかに輝く水面


・・・オアシスか


台座するかのようにデカデカと神殿の中央に位置している。


オアシスの周辺に村人が集って列をなしている。


先頭のものから、祈りを捧げ、その代価として、恵の水と僅かな食料を受け取っていく。


・・・なるほど、此れを求めて遥々集まってきたのか。

得心した。


恵みを受け取る間、警護兵の目が光り続けている。


・・・どうも厳粛な配給だ。

和気あいあいとしたボランティア活動とは程遠い、作業のような援助。


推測でしかないが、この村は水の徹底管理を敷いているだろう。

来る者、来る人、どの者も貧しい身なり。


腰の曲がった年寄りに、手足が不自由な若者に、身寄りのない子供。


少なくとも、健康体とは言えぬ人々が長蛇の列を形成して利口に順番を待つ。


影一つない砂漠の上で

陽炎が立ち込める猛暑の中で

ジリジリと焼きつける太陽の下で

暴動一つ起こさずに


給付を受け取ったものから、オアシスをとりじりとなって去っていく。


どうもそれだけのようだ。

無料で施しを受けられるのは願ってもない機会を得られるかもしれないが、俺を認知されることは、甚だまずい。

早期に撤退しよう。


壁から飛び降りる。

けれど、身を潜められる障害があまりにも少なく、黒のローブで全身を覆い、村人が帰宅する中を紛れ込むようにして姿を隠す。


彼ら村人に紛れてしばし。


どうも歩みが遅い。

意識して歩幅を合わせねば抜かしてしまう。


生れながらのせっかちなうえ、時間効率にうるさい俺は、どうもこの遅さにむしゃくしゃしてしまう。


と、その時


「あの、これ、どうぞ。」


優し気な少女の声が、少し遠慮気味に差し出す。

ついさっき貰ったばかりのはずの物資を。


不覚だった。

完全に不意を突かれた。

まさか、話しかけられるとは、、、


お裾分けの気持ちは有難いが、如何せん俺は逃亡の身。


無闇矢鱈(やたら)に人と言葉を交わせば、『連中』が俺と接触したという理由だけで、何をするかわからん。


生きることさえ精一杯だろうに、他人に分け与えられる心の持ち主なら尚更。


直様立ち去ろう。


素顔も声もさらすまいと決めた俺に出来ることは、手をひらひらさせ、断る意思を示すだけだった。


「すんません。」


男児が割って入ってきた。


「姉貴、誰彼構わず話しかけるのはやめろって。」


男児が少女の腕を引っ張って連れ戻す。

どうやら二人は姉弟らしい。


「ほらだって、あの人何ももらえなくて可哀想じゃない。」


「そうでないかも知れないだろ。ほら、もう、帰るぞ。」


弟は少々強引に連れ帰る。

姉の方はというと、どうも納得いかないのか、道中何度も振り返る。

だが、人混みに揉みくちゃになり紛れていった。



そう。

それでいい。

こんな奴と関わるもんじゃない。


彼等、姉弟の無事を祈りながら、小屋へと帰った。


ーーーーー


日が暮れ、夜の帳が降りた頃、俺のような闇の者は、本格的に活動を開始する。


装備の補充を主に、夜の村を飛び交う。


異様な程静かな夜

誰もかも床に就いたかと思われたそんな閑散とした村に


少女が1人


アテもなく彷徨うように歩く。


何をしているんだか。

気になって素顔を確認すれば、昼時の子だった。

こんな時刻に1人で、、、無防備にも程があるだろ。


ピク


肌が、何かよからぬものを感知する。


少女の後方に2つの影。


まだ距離はあるが、確実に背後に潜んで契機を窺っている。


一発触発する雰囲気。

絶対何か起きる。


・・・無闇に接触してはならない。

こちらから声をかけるなんてことなどあってはならない、、、


だが、今駆けつけねば、、、どうなるか分からない。


一瞬の逡巡を挟み。


・・・否、先程の情を返さねばならぬ。


固い決断とともに、走り出す。


刹那にして、少女の腕を取り、声をかける。


「おい」


「あっ、さっきの人。」


俺の焦る声と対照的に、親戚にでもあったかのような口調。

どうも事の状態が分かっていない少女に現実を突きつける。


「お前、つけられてるぞ。」


自分でも驚く低い声が出た。

怒鳴りつける形になってしまった。


「えっ」


俺の言葉に驚愕した様子。

いや、意味が分からないといったところか。


・・・やはり、気づいていないのか。


そんな気がしたが、真だったか。

危機感がまるでない。

危なっかすぎて、此方がハラハラする。


どうも、1から説明している暇はない。

強引に引っ張って走り出す。


前方で伴走する形で少女を誘導する。

最短で人気のある所に


だが、それでも


・・・遅い


彼女の足では、撒くどころか、逃げられない。


追いつかれるのも時間の問題だ。

迎撃するしか他はない。


「ひたすら前に進め。」


振り返って、そう吐き捨てる。


少女は意図を察したのか、まだ戸惑いの色が消えないが、それでも深く頷いた。


踵を返して、2つの影と対峙する。


敵は2名。

目的は恐らく少女の拉致、或いは殺害。

成し遂げる為には、手段を選ばないたちであろう。


ここから考察するに、一体は囮で、もう一体は捕縛に徹するだろう。


・・・ならば


答えを導くのとほぼ同時、否、それよりも早く体が動く。


目論見通り、一直線に突っ込んできた囮の腹部に峰打ちを喰らわせる。


相手も手練れで、その間にもう一体が少女へと詰める。


休む間もなく、手頃な石を拾い追撃の矢を放つ。


小道に落ちる石ころ如きに殺傷力など期待できぬが、狙撃場所によっては足止めぐらいには役に立つ。


・・・例えば、足の腱とか。


投げた方角から悲痛の叫びが鳴り響く。


一件落着かと思われたその最中。


ーーーカン


金属同士の衝突音が夜の村に(とどろ)く。


振り返って懐に忍ばせておいた短剣で攻撃を食い止める


・・・やはり、予想通り


2体ではなく、3体だったか、、、


完全に死角をついた完璧な不意打ちだった

けれど、そういうのは通用しない


殺れる自信があったのだろう、敵の(まと)う空気が乱れる。


だが、乱れたのも束の間、瞬時に身を引いて、一旦体制を整えた。


・・・コイツ、できるな、、、


直感。そう肌で感じた。


気を引き締めて、腰を落とす。


すれば、ビュンと相手が距離を詰めてきた。


・・・接近戦か


甲高い音と撒き散る火花を上げながら敵の攻撃を(ことごと)(さば)く。


猛烈な攻撃に対処することしばし


にしても、敵の手が止まる気配がない。


反撃できなくは無いが、さすればーーー勢い余って、急所を一刺し。

殺してしまう。


それ程、手を抜けぬ相手だ。


他にも違和感が。

どうも相手も本気で殺しにはきていない。

急所ではなく、健や関節を重点的に。

そう。まるで時間を稼ぐかのように。


戸惑いを覚えていると、敵が仕掛けてきた。


跳んだ。

俺の頭上を飛び越えて。

夜空をかける流星のように軽々しく。

スタッと着地し、立ちはだかる。

少女が逃げる道を塞ぐかのように。


・・・まさか、庇いに来たのか、、、


なるほど、二つの影が放つ殺気とは、また別種の異彩な殺気だったのは、そういうことか。


少女を(さら)う援軍ではなく、寧ろ少女を庇う守護者か。


そうとわかれば、戦闘する意味はない。

すぐさま引いて距離をとる。


相手も、此方に戦闘の意思はないと踏んだのか、攻撃の手を止める。

ひどく心配していたのだろう。すぐさま少女の元へとすっ飛んでいった。


ふっ。

一件落着といったらしい。


久しぶりに骨のあるやつと手合わせできたことに満足を覚えた。それと共にもう会うこともないと寂しさも覚えた。

けれどそんな感情は、村を吹き抜ける夜風の如く、すぐさま消え去り、中断していた探索を再開した。

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